ニコンファン待望の高性能カメラとして話題になっているのが、縦位置グリップ一体型のフラッグシップモデル「Z 9」の装備や機能を出し惜しみなく盛り込んだフルサイズミラーレス「Z 8」。発表直後に短期間試用した時点で「モーレツに購買意欲が刺激された!」と語っていた落合カメラマン、そのキモチは変わっていないのでしょうか。改めてZ 8をジックリ試してもらいました。

フラッグシップ機相当の機能を持つ小型軽量機を選んできたワタシ

ニコン「Z 8」をアレコレ使ってみたあと、じっくり時間をおいてみた。自分のZ 8に対する気持ちを熟成に導くために。

  • ニコンが5月末に発売した高性能フルサイズミラーレス「Z 8」。実売価格は60万円前後で、現在も品薄の状況が続く。装着しているのは、超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」(実売価格は38万円前後)

フィルム時代、写真を仕事にしてからは、ニコンをメインとしていた我が機材事情。その中で、とある時期はニコン「F5」ではなく「F100」を積極的に選んでいたことのあるワタシである。

フラッグシップモデルを好んで使っていたのは「F4S」までだった。その後は、若くして「デカくて重いのはイヤ」という悟りを開き自らの写真人生を達観。「キヤノンT90を使う同業者がうらましくて仕方がなかった」という事実をさて置いたとしても、オールインワンの中級機に理想を求める嗜好は、順調に育まれることとなった。

デジタル一眼レフでは、「D3」に加えそれを追うように登場した「D700」を入手。そうしたら、D3はアッサリ使わなくなってしまった。これぞ、自らの性癖を再認識した瞬間である。

D3とD700の間には、ボディサイズや重さはもちろん、バッテリーの持続力や堅牢性、秒間コマ速などにも明確な差があった。でも、連写速度がモノをいう場面を除けば、D700でD3と同じ絵を撮ることは難しくなかった。ワタシが重視したのはそこ。とりわけ、良好な超高感度画質には相当に世話になった。フィルムでは撮れない写真が本当の意味で撮れるようになったのは、少なくともワタシの写真生活における認識においては、まさしくD3&D700からだったといっていい。

その後も、「D4」や「D5」には手を出さずに「D750」を2台買いするなど、中級機好きには磨きがかかる一方。途中、「D4(と同じ)センサー」が欲しいというそれだけの理由で「Df」を入手したり、はたまた別路線でD800に浮気したり、まぁやりたい放題ではあった。

何が言いたいのかというと、このZ 8のレビューは、まずはそういう足跡が前提になっているってこと。しかも、現在は他メーカーのモデルも併用する浮気者の目線で書かれていたりもいる。つまり、けっこうな“偏見フィルター”がかかっている可能性を排除できないんですネ。なので、最初に謝っておきたい。偏ったことをいっちゃってスミマセンねぇ~と。

  • Z 8では、Z 9に先立ち被写体認識「飛行機」を独立した対象として新たに設定・・・といいたいところだったのだが、Z 9は最新ファーム「C:Ver.4.00」において、新たに「飛行機」を独立した被写体認識対象にしたとの情報が、少なくとも資料上には見当たらない。必要性を鑑み「やらなかった」のか? 詳細は不明だ(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO640、1/4000秒、F5.6、+1露出補正)

  • カメラがピントを合わせたのは画面のやや左下に存在する機体。正面からのアプローチでは、この程度の距離感が被写体認識「飛行機」の限界だった。欲をいえば、画面右上や右下に存在する機体も「認識」してほしいところなのだが、さすがにちょっとキツかったようで、まったく見向きもせず。ちなみに、右上に見える機体のサイズ感だと、シングルポイントAFでもピント合わせはキツいというのが「Z」のAFの現状。その点がZ 9の最新ファームでは改善されているのか? 気になるところだ(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO320、1/4000秒、F5.6)

  • 比較的距離をおいた状態で空抜きになることの多い「飛んでいる飛行機」相手の場合、飛行機に特化した被写体認識の必要性には意見が分かれるように思う。オートエリアAFや3D-トラッキングAFでも、ほぼ同等の仕上がりを得ることができるからだ。ただし、地上にいる飛行機の場合は、AFが不用意に迷うことを防ぐため「飛行機以外の要素をピント合わせの対象から除外する」意味において、飛行機に特化した被写体認識が役立つことはあるだろう。しかし、そこでは、より厳しく被写体を認識する能力(認識率)が問われることになるが・・・(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO1000、1/4000秒、F5.6、+1露出補正)

Z 9との性能差を限りなく少なく仕上げたZ 8のすごさ

Z 8が待ちに待ったモデルであったのは確かだ。いつから待っていたのかといえば、Z 9が登場したその瞬間から、である。なんだか、Z 9に失礼なことをしているような気がしなくはないけれど、でも同じ発想、妄想、要望、希望を抱いたニコンフリークは少なくなかったハズ。「Z 9のデビュー、おめでとうございます! で、Z 9の下を切ったモデルはいつ出るんスか?」という拙速にも見える話の流れは、しかしディープなニコンユーザーにとっては朝の挨拶みたいなものなのだ。

そして、実際に登場してくれたZ 8は、ある意味、想定外の仕上がりだった。過去の事例では、たとえばフラッグシップ機と同一のイメージセンサーを搭載していたとしても、秒間コマ速など、いわば“動力性能”に直接、関わる部分には明確な違いがあるのがアタリマエだったのに、Z 8とZ 9の間には、そのあたりの差別化が明確ではないのだ。

これにはビックリした。基本的には嬉しい話なのだけれど、Z 9よりも明確な小型軽量化が実現されているにもかかわらず、撮影時に発揮される“動力性能”がZ 9と同等だなんて! こんなゼイタクはそうそう味わえるものではない。っていうか、Z 7やZ 6シリーズと同じバッテリーでそれを実現しているってどーゆーことっ!? まず、疑問に思ったというか、興味を抱いたのはソコ。なんせ、電源周りがネックになって“Z 9の下を切ったような”モデルの登場は、さすがに今回はないんじゃないか」なんて思っていたクチなので。

でも、“Z 8の奇跡”は起きた。聞くところによると、ひとことで言えば省電力化のタマモノらしいのだが、たったそれだけの言葉で済ませられる話ではないんじゃないかと勝手に想像している。機会があれば、ぜひ根掘り葉掘り聞いてみたいところだ。「Z 9と同等の動力性能」にこだわり抜いた理由も一緒に。

動力性能だけじゃなく、ファインダーにも手抜きがないところは実にニコンらしい。格下のポジショニングからハミ出すことは許されていないはずのZ 8に、デバイスのみならず光学系までもがZ 9と同じファインダーを惜しげもなく与えたこの暴挙、いや、快挙を我々ユーザーサイドはどのように理解すればいいのか? 個人的には、ニコンがそれだけ「F100から始まった有能なミドルランナー」の系譜を大切にしてきてくれているということだと思っている。かつてD700のユニークな存在感に対し寄せられた賞賛の声をしっかり受け止めていてくれたのかもしれない。

でも、ニコンはZ 8を700番台の後継とは位置づけておらず、どちらかといえば「D850の代わりになり得る」ということにしたいようにも見える。なるほど、ニコン製デジタル一眼レフの中で随一の万能性を有していたD850のZ版だといわれれば、納得することにもさほどの困難は伴わないし、数字の「8」縛りで「D850」につなげたい気持ちもわからんではない。しかしそれは、Z 7系ボディが60MPクラスのイメージセンサーを搭載した上で担うべきポジションであるようにも思う。モデル名の“数字イメージ”は錯綜してしまうけれど・・・。

  • ミラーレス機、随一の仕上がりといっても過言ではないEVFのおかげで、動体の撮りやすさは群を抜く。こういったギリギリのフレーミングを難なくこなす出色の使い心地は、まさしくZ 9と同等のものであり、そこを見るだけでもZ 8のコスパはハンパない。つまり、このEVF欲しさにZ 8を選択するのは十分に「アリ」な決断であるということ(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO800、1/4000秒、F5.6、+1.3露出補正)

  • 20コマ/秒で激しく動く被写体を連写しているとき、その1コマ1コマの「写り具合」が正確に見えている(ような気にさせる)のも、このEVFのスゴいところ。誤魔化しナシの「本当のブラックアウトフリー表示」の底力を見せつけられる思いだ。この快適な動体撮影能力を手中に収めようとした場合、これまではZ 9を手に入れるしかなかったのだが、そこにZ 8という新たな選択肢が加わったことは、我々ユーザーにとっては朗報以外のナニモノでもないと断言できる(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO4000、1/4000秒、F10.0、+0.7露出補正)

  • Z 9と同じく、Z 8にもプリキャプチャ(シャッターボタン全押し前にさかのぼっての画像記録ができる機能)を搭載。しかも、実際に使ってみるまで気づかなかったのだが、Z 8のプリキャプチャはZ 9のファームウエア「C:Ver.3.00」以降と同等の仕様(従来の「C30(30コマ/秒)」「C120(120コマ/秒)」設定に加え「C60(60コマ/秒)」設定が使えるようになっている)だった。新設のC60には「DXフォーマットに強制切り換え」という制限が存在も、「プリキャプチャーは望遠領域専売の機能」と受け止めている我が個人的嗜好にとって、その点がマイナスの印象につながることは一切なし。また、画像サイズに関しては、C120に「サイズS」縛りが存在するところ、C60は従来のC30と同じく「サイズL」での撮影が可能。けっこうイイところを突くC60設定なのだ。なお、この作例はC30のプリキャプチャで撮影している。獲物はアリさんだ(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO18000、1/8000秒、F5.6)

発表直後に感じたモーレツな購買意欲の移ろい

そんなこんなで、Z 8に対しては、ストレートに「Z 9譲りの高速性を余すところなく受け継ぐ新ジャンルのハイスピードマシン」なんてことをいってくれた方が、ナンボかスッキリしそうというのが個人的見解だ。でも、それじゃ製品が手元に届くまで何カ月も待たされていたZ 9オーナーが許してくれないかも!?ってなことまで考えると、けっこう立場が微妙なZ 8・・・なんて気もしてきてしまう。

捉え方によってカメレオンのように印象を変えるカメラであることは、Z 8デビュー時に「これ欲しい! 買うならNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sと一緒じゃなきゃ絶対にダメ!!」なんて強く思っていた気持ちが、時を経るごとに少しずつ変わってきているという、我が個人的事情の範疇でも感じることのできる“現実”だ。いったい何がそうさせているのか? ワタシが浮気者でなければ、おそらくこんな思いに至ることはなかったハズなのだが・・・。

  • この作例は、「動物」設定の被写体認識で静止状態のカワセミを撮ろうとしたもの。一見、難なくクリアできそうな場面に見えるが、実際には被写体認識AFが画面中央に位置する「水面から顔を出している太い枝」にほぼ100%引っ張られる動作に終始。まぁ、確かに人間の目にも何らかの動物に見えるような気がしないでもない枝(および水面へのその写り込み)ではあるけれど、このシチュエーションでいつまで経っても肝心なところにピントを合わせてくれない被写体認識AFには、正直けっこう萎えるものがあった。最初から、素直に「被写体認識を無効にしたシングルポイントAF」で合わせりゃよかったんですケドね・・・(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO1400、1/4000秒、F5.6、-1露出補正)

  • 動体に対するAFの対応や被写体認識の能力に関し、Z 8はZ 9と同様「ニコンZで最高峰」の実力を有するが、テッペンに立っていると言えるのは、あくまでも「ニコンZ」の中での話であって、ミラーレス機全般の中における評価は「並」にとどまるのが現実だ。とりわけ「画面内に占める割合が小さな被写体を嫌う」(そういう条件が苦手な)傾向には顕著なものがあり、Z 9のファームアップでもその点の改善を繰り返してきているようなのだが、未だ根本解決には至っていないという個人的な印象は拭えないでいる。一方、ド・アップで撮っている時の被写体認識AF動作に不満は皆無。少々意地悪な角度からのアプローチしているこんな切り撮りでも、瞳をしっかり認識し思い通りの仕上がりをいざなってくれた。問題は“引き”の絵だ(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO800、1/500秒、F5.6)

  • 木々(葉)の繊細な再現と、それにより生み出されている得も言われぬ立体感に、Z 8の確かな絵作りを感じる。しかも、これは超高級単焦点レンズではなく100-400mmの望遠レンズで撮ったもの。とはいえ、NIKKOR Z 100-400mmf/4.5-5.6 VR Sは、S-Lineに属する超高級望遠ズームレンズなので実力に不足なし。万能性に秀でる同レンズのキャラクターはZ 8とドンピシャの相性を発揮する(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO100、1/160秒、F4.8、-0.7露出補正)

  • 被写体認識AFの被写体種別判断は、ガッチガチのバッキバキではなく、もう少し緩くてもいいような気がする。飛行機設定でも鳥を過不足なく認識するとか、動物設定なら実用性を担保しうる範囲で昆虫も認識してくれるなど、いわば「結果的に有用性を発揮しうるユルさ」みたいなものが、ニコンZの被写体認識にもあっていいんじゃないか、という話だ。作り手は、ガッチガチのバッキバキにするべく日夜努力を重ねているのだろうから、軽々しくこんなこといっちゃイケないんだろうけど、写真を撮る行為ってのは案外アナログな作業だからねぇ。この作例は、3D-トラッキングAFで撮影したもの(NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR使用、ISO100、1/500秒、F6.3、+0.7露出補正)

  • 実際に使ってみると、ボディの大きさ、重さの違いは歴然なるも、Z 9系統の使い心地がちゃんと備わっていることがわかる。しかも、撮影時にできることはもちろん、撮れる写真の仕上がりだって「Z 9と同等」。そこに、Z 9では躊躇のあったスナップ撮影を難なくこなすハンドリングの良さが備わったとなれば、まさしく鬼に金棒だといっていい。Z 8の魅力は、この“好バランス”にこそ詰まっているように思うのだ(NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR使用、ISO560、1/200秒、F6.3、+2.7露出補正)

  • Z 8とNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sの性能の高さを改めて確認した落合カメラマン。Z 8の発表時に感じた猛烈な購買意欲はそのまま保たれているのだろうか…!?