近年、自炊ニーズの高まりとともに電気調理鍋が好調です。このトレンドを受けて、多くのメーカーが電気調理鍋を開発・発売しています。意外かもしれませんが、炊飯器を主力とするタイガー魔法瓶(以下、タイガー)の現行製品には、電気調理鍋がありませんでした。
そのタイガーが、約20年ぶりに電気圧力鍋の新製品「TIGER COOKPOT(タイガークックポット) COK-A220」(以下、クックポット)をリリース。炊飯器の高度な熱制御テクノロジーを持つタイガー、新しいクックポットに期待がかかります。さっそく実機をチェックしてきました。クックポットは6月21日の発売予定、推定市場価格は24,800円前後です。なおここでは、圧力機能を持つ電気調理鍋を「電気圧力鍋」、圧力機能を持たないものを「電気調理鍋」とします。
あえて圧力を低くした「うま圧」モードの理由
多くの電気調理鍋には、調理の例として大きな肉がゴロゴロ入ったカレーや、豚の角煮といった料理が登場します。とはいえ、大きな肉を使う料理は、ハレの日に気合いを入れて作るものではないでしょうか。普段からそんなには作りませんよね。
そこで、タイガーのクックポットは「日常のごはん」に注目。もちろん大きなブロック肉も柔らかく調理できるのですが、それよりも野菜などを使った日常ごはんの美味しさや作りやすさに力を入れています。大きな特徴は「うま圧」という機能です。
「うま圧」を簡単にいうと、低めの圧力で調理する圧力調理機能。一般的な電気圧力鍋は、圧力調理に1.6気圧以上の圧力をかけることがほとんど。最近は2気圧以上の高圧調理に対応した製品も増えています。
クックポットの「うま圧」は、あえて約1.15気圧という低い圧力で調理します。圧力鍋は高い圧力をかけることで大きな肉もすばやく柔らかくできますが、圧力が高いと野菜が潰れやすくなる、食感が失われやすくなる――といったデメリットもあります。
タイガーは日常的に調理する料理の多くは野菜が中心、肉は薄切り肉やミンチが多いことに注目し、あえて低い圧力を採用しました。低めの圧力によって、圧力調理だと煮崩れしやすいジャガイモもしっかり形と食感を残します。また、圧力調理するとパサつきやすい肉もジューシーに仕上がるとしています。
今回の体験会では、「うま圧」と合わせて、1.7気圧の電気圧力鍋で調理した肉じゃがを食べ比べ。ジャガイモの状態に注目です。1.7気圧調理したジャガイモは煮崩れかけてヒビ割れができ、表面も崩れそうな見た目。一方、クックポットで「うま圧」調理したジャガイモはしっかり形が残り、表面も滑らかでした。
このほか、1.7気圧調理では肉がボソボソと口の中で崩れる食感だったのに対し、「うま圧」調理の肉は柔らかくても弾力が少し残っていて、ジューシーさも感じました。ニンジンの見た目は両者ともほぼ同じですが、明らかに「うま圧」調理のほうが食感と香りがあります。クックポットはそれぞれの食材がしっかりと本来の美味しさを主張している印象です。ただ、野菜が嫌いな子どもいる家庭など、むしろ野菜の個性がなくなるまで煮込みたいような場合は、一般的な電気圧力鍋で作った肉じゃがのほうが良いと感じるかもしれません。
「うま圧」は圧力が低いということで、調理時間が短いのも特徴です。「高圧力のほうが食材が早く柔らかくなるのでは?」と思うかもしれませんが、高圧力調理は減圧にも時間がかかるため、トータルの調理時間は高圧製品のほうが長くなることもあるのです。
たとえば上記の肉じゃが。調理時間はクックポットが減圧終了まで28分だったのに対し、比較した電気圧力鍋は調理から減圧終了まで50分以上かかりました。ブロック肉などを使わない多くの日常的な料理なら、「うま圧」のほうが調理時間が短いことも多いのです。
もちろん、すべての調理において「うま圧」が高圧調理鍋より短い時間で調理できるわけではありません。今回の比較用に使った電気圧力鍋だとスペアリブの煮込みも約50分で完成しますが、クックポットは約60分かかります。とはいえ、低いながらも圧力をかけているので、ごく普通の鍋で煮込むよりはすばやく調理できます。
ほかにも「普段使いしやすい」ポイントがいろいろ
クックポットは「うま圧」以外にも細かな使いやすさがあります。なかでも面白いのが内フタの構造。電気調理鍋によっては、蒸気口をふさいでしまうことから、葉物野菜の調理をおススメしていない製品もあります。クックポットは内フタの蒸気口部分に樹脂カバーを配置し、この問題を解決しています。
家庭の料理は片付けまでがワンセット。このため「普段使い」を中心に考えられたクックポットは片付けのしやすさも特徴です。調理後に洗うパーツは「内フタ」「つゆ受け」「内釜」の3つ。さらに、内釜以外は食洗機で洗えます。圧力鍋の内フタは複雑な構造をしているものも多いので、食洗器が使えるのはとてもうれしいポイントではないでしょうか。
クックポットには炊飯モードもあり、最大で白米3合(玄米2合)です。タイガーといえば炊飯器。クックポットはタイガーが50年以上積み上げた知見から「美味しいごはん」の炊飯も実現しているといいます。今回は残念ながらごはんは試食していませんが、調理家電を置く場所があまりないキッチンなら普段は炊飯器として利用し、圧力調理したいときに鍋として使う運用もできそうです。
現在、大手家電メーカーのほとんどが電気調理鍋を発売しているなか、タイガーのクックポットは電気調理鍋としては後発の製品。それだけに、「調理時間をもっと短くしたい」「お手入れが面倒」といった、電気調理鍋の不満をうまく解消していると感じます。
「オートメニューをメニュー名から選べない」「低圧だけではなく、高圧との切り替えができればなお良い」など気になった部分もあります。ですが、タイガーという実績あるメーカーの製品でこの価格帯なら、コストパフォーマンスと満足度の高い製品です。