なおDNAアプタマーとは、特定の標的分子に対して特異的に結合する合成DNA分子プローブのことだ。DNAアプタマーは標的分子と結合することにより、立体的に構造変化を起こす。そしてそのアプタマーの末端に電気化学ラベルを付けることで、結合による立体構造の変化を電気化学的に計測することが可能だ。

今回の実験では、開発したアプタマーファイバセンサ「apta-μFS」を麻酔中のラット脳内に埋め込み、高い時空間分解能でドーパミンの放出が測定された。その結果、脳内環境においてドーパミンを選択的に検出できることが実証されたとする。また、汎用性の高い熱延伸プロセスを利用することで、脳内の電気信号と化学信号を同時に計測・操作できる多機能神経デバイスツールの開発にも成功したとする。

さらにapta-μFSは、5nMまでの低濃度のドーパミンの検出に成功すると同時に、体内に共存するアスコルビン酸や尿酸などの主要妨害物質に対しても高い特異性を示したとしている。それに加え、ドーパミンの前駆体やその代謝物である類似構造を持つ化学物質も区別して検出できることが確認されたという。

  • 今回開発されたアプタマーファイバセンサによる、脳内の神経伝達物質であるドーパミン(DA)の測定結果。(左)5nMまでの低濃度のドーパミンの検出を実現。(右)体内に共存するアスコルビン酸(AA)や尿酸(UA)などの主要妨害物質に対しても高い特異性が示された。さらに、ドーパミンの前駆体(L-DOPA)、その代謝物(DOPAC)、モノアミン神経伝達物質のエピネフリン(EPI)、ノルエピネフリン(NE)、セロトニン(5-HT)といった類似構造の化学物質を区別できることが確認された

    今回開発されたアプタマーファイバセンサによる、脳内の神経伝達物質であるドーパミン(DA)の測定結果。(左)5nMまでの低濃度のドーパミンの検出を実現。(右)体内に共存するアスコルビン酸(AA)や尿酸(UA)などの主要妨害物質に対しても高い特異性が示された。さらに、ドーパミンの前駆体(L-DOPA)、その代謝物(DOPAC)、モノアミン神経伝達物質のエピネフリン(EPI)、ノルエピネフリン(NE)、セロトニン(5-HT)といった類似構造の化学物質を区別できることが確認された(出所:東北大プレスリリースPDF)

なおapta-μFSのセンシングメカニズムは、アプタマーと標的分子の結合による立体的な構造の変化を利用しているため、DNAアプタマーの配列を変えれば、測定対象の電荷や電気化学的特性に関係なく、幅広い化学分子の検出にも応用することが可能だとする。

研究チームでは今後、ファイバ中に複数の電極を集積させ、DNAアプタマー分子プローブを固定し、複数の化学物質を同時に検出できる神経デバイスを開発していくという。また電気信号だけではなく、多様な化学物質をセンシングできる神経デバイスツールの開発は、新たな脳機能研究の発展につながる可能性があり、未解明の脳や臓器の病気における病理研究や予防法・治療法の開発において、重要な貢献になることを考えているとしている。