Siglec-14はヒトマクロファージ細胞表面において、アダプタータンパク質「DAP12」と会合し、リン酸化酵素「Syk」の活性化を経由して炎症シグナルを伝達する。今回の研究では、ヒトマクロファージにおいてSiglec-14が多層CNTを認識すると、Sykの活性化を介して転写因子「NF-kB」が活性化され、「IL-8」などの炎症性サイトカインが分泌されること、また多層CNTの貪食作用を誘導することが見出されたという。
そして実際に、ヒトマクロファージ系「THP-1細胞」にSiglec-14を発現させると、多層CNTを顕著に細胞内に取り込むようになることが顕微鏡で観察されたという。この時取り込まれた多層CNTは食胞を損傷させ、その結果、細胞死とNLRP3インフラマソーム活性化が起きて、炎症が引き起こされることがわかってきたとする。
また、「ヒト末梢血単核球」に対して多層CNTが添加されると炎症性サイトカインが分泌されるのだが、その性質は今回の研究で作成された抗Siglec-14阻害モノクローナル抗体で抑制されることが解明されたとしている。
次に、マウス肺胞マクロファージにSiglec-14を人為的に導入した上で多層CNTを投与したところ、同受容体を導入していないマウスに比べて肺炎が増悪したという。そして、同モデルマウスに対してSyk阻害薬「ホスタマチニブ」を経口投与したところ、肺炎が軽減することがも確認された。これらの結果は、ヒトマクロファージ上のSiglec-14が多層CNTを貪食して、そのストレス応答により炎症を引き起こすことを示唆するという。
今回の研究により、CNTによるヒト細胞の炎症毒性発現メカニズムが解明された。CNTのヒトに対する毒性はまだ不明であり、また化学物質の毒性発現は曝露量にも大きく依存するため、CNTを扱う労働環境などにおける曝露量を正確に予測し、そのリスクを慎重に判断していく必要があるという。研究チームは今後のCNT実用化に向けて、ヒトでの安全性の担保は大きな課題の1つであり、今回の成果はその一助になることが期待されるとしている。