Lenovoの直販サイトで発売中の「Lenovo IdeaPad Slim 170」は、APU(CPUとGPUを組み合わせたもの)にRyzen 3 7320Uを搭載して税込み、送料込みで6万円以下とお買い得感の高いノートPCだ。時期的に、新生活準備のラストスパートな頃なので、駆け込み先PCとして十分な性能なのか、あわせて、スペック的にそこそこクラスの約5年前のノートPCからの乗り換え先としてアリなのか? といった観点でベンチマークを交えてチェックしていきたい。

Ryzen 7000時代のRyzen 3を搭載

Lenovo IdeaPad Slim 170は、14型のフルHD液晶ディスプレイを採用するスリム型のノートPCだ。その最大の特徴は、Lenovoの直販サイトで59,840円(税込み)からというコストパフォーマンスの高さにある。APUは、AMDのRyzen 3 7320UとRyzen 5 7520Uのどちらかが搭載されるが、今回は最安値となる前者のモデル(型番:82VF0023JP)を試用する。

  • 6万円でRyzen 3 7320U搭載の「Lenovo IdeaPad Slim 170」はアリなのか? 5年前ノートPC乗り換え先として比較

    Lenovo IdeaPad Slim 170。直販価格は59,840円から

まずは、AMDの「Ryzen 3 7320U」とはどんなAPUなのか。Ryzen 7000番台というネーミングから最新世代のZen 4アーキテクチャが採用されているように見えるが、実際は異なり、2019年発表のZen 2アーキテクチャと古い世代をベースにした「Mendocino」(開発コードネーム)と呼ばれるもの。2022年5月のCOMPUTEX TAIPEI 2022で発表され、その搭載製品がついに出てきたということだ。価格を抑えたエントリー向けというポジションと言えるが、製造プロセスはZen 2従来の7nmから6nmに微細化、CPUに内蔵されるGPUもVagaベースからより世代の新しいRDNA 2ベースに進化、対応メモリはDDR4ではなくLPDDR5-5500とさまざまな部分がブラッシュアップされている。

Ryzen 3 7320Uは4コア8スレッドでブーストクロックは最大4.1GHzだ。デフォルトのTDPは15Wとなっており、消費電力から考えると十分高クロック動作と言えるだろう。3次キャッシュは4MBだ。

  • CPU-Zでの表示。Ryzen 3 7320Uは4コア8スレッド仕様で、TDPは15Wだ

  • GPU-Zでの表示。CPUに内蔵されるGPUはRDNA 2ベースとなった

製造プロセスが微細化されたことで、より省電力になったようでLenovo IdeaPad Slim 170は最大で約11.2時間(JEITA2.0)という長時間のバッテリー駆動を実現している。

CPU以外スペックも紹介しておこう。メモリはLPDDR5が8GBと標準的。ただ、オンボード仕様で増設が行えないのはちょっと残念だ。ストレージは256GBのNVMe SSDが搭載されている。ビジネスや学業用途なら問題ないだろう。ディスプレイは14型で解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)。光沢のないノングレア仕様で、色域はテレビ向けの標準規格であるNTSCのカバー率45%となっている。ノートPCとしては普通の色の表現力と言えるが、視野角がそれほど広くないTNパネルを使用しているので、正面以外は色や明るさが変化しやすい。

無線はIEEE802.11ax/ac/a/b/g/n、いわゆるWi-Fi 6に対応し、Bluetoothも備えている。なお、有線LANは非搭載だ。OSはWindows 11 Homeで、Microsoft Officeは

サイズはW325×D216.5×H17.9mm、重量は約1.4kg。特別軽いわけではないが、十分持ち運べるレベルでスリムなのでカバンにも入れやすい。シンプルなデザインで使う場所を選ばないのはナイスと言える。ACアダプタは65Wのタイプを付属。Type-Cによる充電には対応していない。

  • ACアダプタの出力は65Wだった

  • シンプルで仕事や学業のどちらでも使いやすい

  • ディスプレイ上部にはWebカメラとマイクが内蔵されており、ビデオ会議にもすぐ利用できる

  • 公称の重量は約1.4kgだが、筆者の実測では1,373gと若干軽かった

  • ディスプレイは14型で解像度はフルHD。TNパネルなので視野角はあまり広くない

  • ディスプレイは最大でここまで開く

インタフェースは右側面にSDカードスロット、USB 2.0、左側面にUSB 3.2 Gen1、HDMI出力、USB 3.2 Gen1 Type-C、ヘッドセット端子を備えており、必要十分と言えるだろう。

  • 本体右側面。左からSDカードスロット、USB 2.0

  • 本体左側面。左からUSB 3.2 Gen1、HDMI出力、USB 3.2 Gen1 Type-C、ヘッドセット端子

次に入力インタフェースをチェックしよう。仕様機のキーボードは英語配列だったが、発売されているものは日本語配列だ。キーピッチは筆者の実測で約19mmと十分な広さが確保されている。なお、テンキーは備わっていない。

  • キーピッチは筆者の実測で約19mmと14型のノートPCとして十分な広さでキー入力は行いやすい

  • タッチパッドは筆者実測で横106mm×縦64mmと十分な広さが確保されている

5年前のノートPCとベンチマーク比較

ここからは性能チェックに移ろう。比較用として用意したのは、PCの買い替えサイクルとしても適当だと思われる5年前のノートPCで、CPUがCore i5-7200U、メモリがDDR4の8GB、ストレージが256GBのSSDという2017年発売のLenovo Yoga 720だ。筆者がいまだに外出用のノートPCとして使用しているもので、Office系のアプリを使う程度なら問題ないが、Windows 11に対応できないのが不満点。IdeaPad Slim 170は5万円台のエントリーノートPCと言えど、Windows 11 Homeを標準で備え、CPUもCore i5-7200Uが2コア4スレッドなのに対して、Ryzen 3 7320Uは4コア8スレッド。さすがに5年前のノートPCよりも性能は向上しているハズ。ということで性能差に注目してテストを行っていこう。

まずは、PCの基本性能を測定する「PCMark 10」、CGレンダリングでCPUパワーを測定する「CINEBENCH R23」の結果から見ていこう。

  • PCMark 10

  • CINEBENCH R23

PCMark 10は、Web会議/Webブラウザ/アプリ起動の「Essentials」で4,100以上、表計算/文書作成の「Productivity」で4,500以上、写真や映像編集の「Digital Content Creation」で3,450以上が快適度の目安となっている。Yoga 720はDigital Content Creationは目安に届いていないが、IdeaPad Slim 170はすべての項目で目安をクリア。Yoga 720のスコアを大きく上回った。

CINEBENCH R23を見るとCPUパワーの差は歴然だ。コア数が違うので、マルチコアの結果はIdeaPad Slim 170が約3倍のスコアをたたき出した。そして、コア単体の性能を見るシングルコアも約1.72倍も高い。CPUの基本性能から高くなっているのが分かる結果だ。

IdeaPad Slim 170に搭載されているRyzen 3 7320Uは、内蔵GPUがRDNA 2ベースのAMD Radeon 610Mになったことで軽めのゲームぐらいならプレイできるかと期待したいところだが、GPUコア数(CU数)はわずかに2基だけ。どの程度の性能かファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークをプリセットとしては一番下になる「標準品質(ノートPC)」設定で実行してみた。

  • ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク

さすがにYoga 720よりは高くなっているが、IdeaPad Slim 170でも1,920×1,080ドットでは「設定変更を推奨」という評価。1,280×720ドットでようやく「普通」という評価になる。それほど描画負荷の高くないFF14かつ品質設定は一番下でこの結果。3Dゲームを快適にプレイするのは厳しい性能と考えたほうがよいだろう。

最後にシステム全体の消費電力を見てみよう。OS起動10分後をアイドル時、CINEBENCH R23実行時の最大値を測定した。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。

  • 消費電力

負荷の高いCINEBENCH R23実行時はIdeaPad Slim 170のほうが約1.37倍高くなった。しかし、マルチコア性能は約3倍と考えるとワットパフォーマンスはYoga 720よりもずっと高くなっている。

Windows 11にアップデートできない世代のノートPCからの乗り換え先としてIdeaPad Slim 170は十分アリだ。Ryzen 3 7320UはOfficeなど一般的な用途であれば十分快適にこなせるパワーがあり、使い勝手も持ち運びのバランスがよい14型というサイズ感も自宅と外出先の両方でPCを使いたい人にとってはナイスと言える。液晶がTNパネルと5万円台のエントリーノートPCだけにコストを抑えた部分はあるものの、長時間バッテリ駆動が可能など実用性は十分に高い。春の新生活に向けてコストパフォーマンスの高いノートPCを求めているならチェックして損はないだろう。