AMDはCES 2023でLisa Su CEOによる基調講演を行った。この模様はオンラインでも配信されたが、これに先立ち事前説明会の形で内容が説明された。非常に多くの製品が発表されたので、まとめてご紹介したいと思う。
Ryzen Desktop - 3D V-cache版やTDP65W版でZen 4を拡充
さてまずDesktopから。先日掲載したロードマップ記事では2023年後半と書いた3D V-Cache付きのモデルが早くも投入された。構成は8core/16 ThreadのRyzen 7 7800X3D(Photo01)で、Ryzen 7 5800X3Dに比べてGamingで20~30%の性能アップが期待できるとする(Photo02)。それはいいのだが、以前にこちらのRyzen 7000のテスト記事で触れた「800番台は整合性を取るために止めた」話はどこに消えたのか? と思わなくもない。
これに加え、2CCD製品にも今度はラインナップされる。Ryzen 9 7900X3DとRyzen 9 7950X3Dである(Photo03)。何故か性能比較は示されていないが、これは講演の方で示されるのかもしれない。これ(Photo04)を見ると、まだ最終的な仕様は完全には定まっていないらしい。ただこれ面白いのだが、Single DieのRyzen 7 7800X3Dは64MBの3D V-Cacheを搭載して合計104MBである。一方Dual DieのRyzen 9 7900X3D/7950X3Dは、Dieあたり32MBの3D V-Cacheを搭載し、合計で140MB/144MBとなっている計算だ。
元々3D V-Cacheの作り方であるが、Zen 3世代の場合
(1) 32MBの3D V-Cacheを2つ製造する
(2) この2つの3D V-Cacheを重ねて、熱を掛けて一体化
(3) Zen 3のダイの上に積層し、分子間力を利用して接続
という工程で製造されることがAMD関係者へのインタビューで明らかになっている。本来32MB分の面積しかないL3の上に、「1枚の」64MB 3D V-Cacheを乗せたとAMDが説明していた事の意味はこれで、要するに(2)の工程で1枚の64MB 3D V-Cacheが32MBと同じ底面積で構築できたことで成しえた技である。で、今回Ryzen 7 7800X3Dはこれと同じ技法で64MBの3D V-Cacheを実装しているが、Ryzen 9については(2)の工程を省き、つまり32MBの3D V-CacheのダイをZen 4のダイの上に載せる格好になっている。多分これはコストを抑えるためであろう。また分子間力を利用しての積層だと熱に弱くなりやすい(温度上昇でダイが歪むと、接続がはがれやすくなる)。TDPが120Wまで減ったのはそれが要因であり、実際Ryzen 9 7900X3D/7950X3DではBase ClockがRyzen 9 7900X/7950Xに比べて下がっている事を考えると、より扱いやすくなったとも考えられる。この3D V-Cache搭載Ryzen 7000シリーズは2023年2月に出荷開始予定とされる。
これとは別にXの付かない、つまりTDP 65Wとなるモデルも発表された(Photo05)。このTDP 65WモデルにはWraith PrismないしWraith Stealthが標準で添付される(Photo06)。それぞれの特徴と性能がこちら(Photo07~12)。ちなみにX無しでも全モデルがOC可能であり、Ryzen Masterを使う事で大幅に性能が上がるとするスライド(Photo13)で、定格で使うとRyzen 7 7900はRyzen 7 7900Xよりも47%も性能/消費電力比が高い(Photo14)としているあたり、AMDはこのX無しモデルを低消費電力で売りたいのか、それとも引っ張ると性能が上がるとして売りたいのか、判断に迷うところである。
この65W TDPの3モデルは1月10日に発売開始との事である(Photo15)。
Ryzen Mobile - Zen 4世代のRyzen 7045/7040シリーズなど
続いてはMobile向けであるが、ハイエンドからDragon Range/Phoenix/Rembrandt-R/Barcelo-R/Mendocinoと、全セグメントで製品が発表された(Photo16)。それはいいのだが、こちらのロードマップ記事で説明したDragon Rangeだけは見事に想像と違うものになっていた(Photo17)。個々のコアの説明に行く前に、まずOverallを。AMDもIntelに倣って(?) HX/HS/Uという3つのSegmentを設定した(Photo18)。どうせだったらPも入れてしまえば? と思わなくも無いが、28W枠はUに分類される事になる。
さてトップエンドのDragon Rangeであるが、何のことはなくRaphaelことDesktop向けRyzen 7000シリーズをそのまま投入した形だ(Photo19)。SKUはこちらの4製品(Photo20)。こともあろうに105W/175WのTDPをそのまま持ってくるという凄まじさである。どうせだったら今回発表したRyzen 7 7800X3Dなどの3D V-Cacheモデルを持ってきた方が良かったのでは? と思わなくも無いが、少なくともAlienware/ASUS/Lenovoはこれを搭載したモデルを2023年2月に発表するとしている。当然CPU性能はブッチギリで高い(Photo21~22)が、内蔵するGPUは2CUだから、Gaming Notebookを構成するのはDiscrete Graphicsが前提になる。逆に言えば、こうしたハイエンドのGaming Notebookは当然の様にDiscrete Graphicsが搭載されているから、Desktop向けの転用でもなんとかなった、という話でもある。
さて、その下の7040シリーズことPhoenixは、筆者が考えて居た通りにZen 4コアとRDNA 3を組み合わせ、TSMC N4で実装したモデルとなる(Photo23)。ちなみにこのCGで見る限り、InfinityCacheは別チップでは無くMonolithicで構成されている(or搭載しない)模様だ。こちらはまず3製品が用意される(Photo24)。次がRyzen 7035シリーズであるが、こちらは基本Ryzen 6000 HS/UシリーズのRefreshである(Photo25)。SKUは
Model Number | Core/Thread | 動作周波数(Base/Boost) | Cache容量 | TDP | 前モデル |
---|---|---|---|---|---|
Ryzen 7 7735HS | 8/16 | 3.2/4.75GHz | 20MB | 35W | Ryzen 7 6800HS |
Ryzen 5 7535HS | 6/12 | 3.3/4.55GHz | 19MB | 35W | Ryzen 5 6600HS |
Ryzen 7 7735U | 8/16 | 2.7/4.75GHz | 20MB | 15W-28W | Ryzen 7 6800U |
Ryzen 5 7535U | 6/12 | 2.9/4.55GHz | 19MB | 15W-28W | Ryzen 5 6600U |
Ryzen 3 7335U | 4/8 | 3.0/4.30GHz | 10MB | 15W-28W | ??? |
という感じで、端的に言えばBoost周波数を若干(500MHz)引き上げた程度である。ただRyzen 3 7335Uに関しては、前モデルが無い(Ryzen 6000シリーズにはRyzen 3の設定が無い)ので、これのみ新規追加という形になる。
Ryzen 7030シリーズは元々Ryzen 5 5x25Uシリーズとして発表されたモデルで、それもあってZen 3コアにVega GPU、DDR4/LPDDR4というやや古い構成。昨年4月に発表されたモデルだが、そもそもそのBarceloが2021年1月に発表されたCezanneことRyzen 5000 MobileのRefreshであることを考えると、流石に厳しい感は否めない。もっとも価格次第ではまだ十分競合できるとAMDは考えているようだ(Photo26)。SKUは
Model Number | Core/Thread | 動作周波数(Base/Boost) | Cache容量 | TDP | 前モデル |
---|---|---|---|---|---|
Ryzen 7 7730U | 8/16 | 2.0/4.5GHz | 20MB | 15W | Ryzen 7 5825U |
Ryzen 5 7530U | 6/12 | 2.0/4.5GHz | 19MB | 15W | Ryzen 5 5625U |
Ryzen 3 7330U | 6/12 | 2.3/4.3GHz | 10MB | 15W | Ryzen 3 5425U |
で、Ryzen 7 7730UはRefreshも何もスペックがRyzen 7 5825Uと同じ、Ryzen 5 7530UとRyzen 3 7330UはBoost周波数は上がっているがBase周波数はむしろ下がっているという感じになっている。
ちなみにBarceloはビジネス向けのProシリーズも既に発売されており、それもあってBarcelo-Rに関してのみ同時にProシリーズが用意される(Photo27)。ただ、だったらRembrandt-Refreshも同時にProシリーズを用意できる筈なのに、それをしなかった理由が今一つ不明である。このRyzen Pro 7030シリーズのSKUは
Model Number | Core/Thread | 動作周波数(Base/Boost) | Cache容量 | TDP | 前モデル |
---|---|---|---|---|---|
Ryzen 7 Pro 7730U | 8/16 | 2.0/4.5GHz | 20MB | 15W | Ryzen 7 Pro 5825U |
Ryzen 5 Pro 7530U | 6/12 | 2.0/4.5GHz | 19MB | 15W | Ryzen 5 Pro 5625U |
Ryzen 3 Pro 7330U | 6/12 | 2.3/4.3GHz | 10MB | 15W | Ryzen 3 Pro 5425U |
と、Ryzen 7030シリーズと同一構成で、単にAMD Proの機能が有効化された形だ。
なおMendocinoことRyzen 7020に関してはこちらの記事でその概要を説明した通りである。出荷は2022年第4四半期ということで、既にRyzen 5 7520U及びRyzen 3 7320Uが出荷されており、これを搭載したノートPC(例えばLenovo IdeaPad Slim 170)も市場に投入されている。特に今回SKUを追加するといった話は無いので、この2製品が引き続き提供される格好だ。
XDNA - Versal AI Edgeを搭載したPCIeカードを提供へ
XDNAは昨年6月のFinancial Analyst Day 2022で初めて公開された。要するにXilinxがVersal FPGAで搭載したAI Engineを、単にVersalのみならずCPUやGPUにも搭載すると共に、共通のフレームワークで利用できる様にするというものだ。Versal AI Engineの詳細はこちらの記事で説明しているが、要するにVLIWベースの細かなProcessing Elementを多数集積してAIの処理を高速に行うという、全体としてはDataflow Processorに近い構成である。実は当初発表されたAI Engineと、2021年6月に発表されたVersal AI Edgeに搭載されたAI Engine-MLでは構造がちょっと異なっており、AI Engine-MLの方がより高性能になっている。今回XDNAとして採用されたのは、この第2世代AI EngineであるAI Engine-MLの方と思われる。
AI Engine-MLは上にも述べたがVLIWベースのProcessing Elementが多数(Versal AI Edgeの場合、8個~304個。処理性能はINT 4の場合で11TOPS~405TOPSと結構幅広い)集積されたものである。これをNetworkの規模に応じて割り振ることで、高速に処理が行える様にするというものだ(Photo28)。
さてこのXDNA、今まではVersal AI Core/Edgeしか対応ハードウェアが存在しなかったのだが、VersalシリーズはPCIeカードでの提供が行われてこなかったため、ちょっと利用するには難易度が高かった。そこで今回Alveo V70としてVersal AI Edgeを搭載したPCIeカードの形での提供が始まることになった(Photo29)。PCIeのSingle-Slot/Half-Heightカード構成で、詳細性能は開示されていないが、INT4で400TOPS近い性能になるらしい。ということは搭載されるされるのは、Versal AI Edgeの最上位であるVE2802あたりが搭載されているのかもしれない。このAlveo V70は本日よりPre-orderが可能とされる。
ところで先ほどPhoenixことRyzen 7040シリーズはXDNA Engineを搭載するという話がPhoto26で出てきた。その詳細がこちら(Photo30)。詳細は当然現時点では不明だが、競合製品と比べて50%位高速になるらしい。ラフに言えば20TOPS程度の性能だろうか? この性能がINT 8のものだとすると、Versal VE2202(24PE、21TOPS)程度と考えられる。ただIntelに先んじて(*1)AI Inference Engineを搭載した格好であり、Zen 5ベースのGranite Ridgeにもこれが入ることになると思われる。ちなみにこのスライドを見る限り、それぞれのCPUコアに入るというよりも(今のIntel GNAと同じように)SoC ComplexにAcceleratorとして1つ入るという形になるようだ。
このAI Engineをどう使うか?というのがこちら(Photo31)。これはIntelがMovidius VPU for Laptopsとして示した用途に非常に近いわけだが、当然互換性は無いわけで、今後ソフトウェアパートナーの囲い込みが激化しそうな雰囲気である。
(*1) Intel GNAまで勘定に入れればIntelの方が先だが。
Radeon Mobile - Radeon RX 7000Mと7000S、RDNA 3がモバイルに
最後はMobile向けRadeonである。Summaryのスライドを最初にご紹介するが(Photo32)、Radeon RX 7600M Mobile及びRyzen RX 7000S for Laptopsの2シリーズを発表した。
まずRadeon RX 7600M Mobile(Photo33)であるが、このスライドの"TF32 TFLOPS"は"CU数"の間違いだと思われる。というのは96CUのRadeon RX 7970 XTXですらFP32で61TFlopsなのであって、同じ動作周波数(Game Clock 2.3GHz/Boost 2.5GHz)だとしても48CU構成でないと辻褄が合わない計算になる。ところが後で示すがCU数は32であり、Boost Clockを4.75GHz位まで上げないとこの性能が出ないからだ。そしてこちらもMonolithic Dieである。こちらの記事の推定図のNavi 33が早速間違っていた訳だが、これはNavi 33をNavi 31同様にGPU 5nm/Infinity Cache 6nmと想定したためである。そもそもNavi 31が2種類のプロセスを混在させた理由はこちらの記事でも触れたが、もう大容量のSRAMを構築するならN5だとやや不経済なためだ。でもGPUダイそのものが6nmなら別チップにする理由が無いわけで、その結果がこの構成と考えられる。スペック一覧は最後に示すが、Radeon RX 6600Mとの比較(Photo34)やDesktop版GeForce RTX 3060との比較(Photo35)などが示されており、性能の高さが伺える。
そのRadeon RX 7600M for Mobileの消費電力をもう少し抑えたのがThin & Light向けのRadeon RX 7000S for Laptops(Photo36)であり、Radeon RX 6700S 8GBと比較して性能の向上が見られるとする(Photo37)。Photo38にSKU一覧を示すが、6000シリーズと比較するとRDNA 2→3で演算性能があがり、加えてMemory Busが64bit→128bitになった事で相応に性能の底上げが実現している格好だ。
この新しいRadeon RX 7000 Mobile/7000Sシリーズを搭載する製品として、Alienware M18&M16(Photo39)、ASUS TUF Gaming A16(Photo40)、EMDOOR APX970&AG958P(Photo41)、IP3 ARN37A(Photo42)などに搭載される、としている。