3月15日にAMDはCPUを7製品発表したが、このうちローエンドに属するRyzen 3 4100、それとRyzen 5 4500の評価キットが筆者の手元にも回ってきた。発表時の推奨小売価格は$99/$129という完全にバリューモデルの製品であり、しかも4000番台で判るようにZen 3ベースのVermeerではなくZen 2ベースのRenoirである。ある意味Ryzen 4000Gシリーズの在庫処分とも言えなくもないのだが、その分入手性は悪くないと思われる。なんで「思われる」なのかというと、全世界で供給が遅延しているのだそうで、日本はもとより米国ですらまだ実際に入手可能になっていないからだ。まぁ今回は低価格でマシンを組みたいというユーザー向けのPreviewとして頂ければと思う。

評価機材

今回はまだリテールパッケージが間に合わず、ブリスターパックのままで送られてきている状態(Photo01~03)であるが、US AmazonにはRyzen 3 4100のパッケージ写真が上がっており(Photo04)、これを見る限りこれまでと同じままと思われる。ちなみにどちらの製品にもWraith Stealthが付属する。

  • Ryzen 3 4100とRyzen 5 4500を試す - バリューPC用にRyzen 5は優秀だが… 入手性は課題に?

    Photo01: シールすら付属していないが、多分正式出荷のリテール品にはシールはついてくると思う。

  • Photo02: Ryzen 3 4100。左下の三角形が大きい事から、パッケージそのものもRenoirのものから変わっていないと判る。

  • Photo03: Ryzen 5 4500も同じく。(c) 2019というあたり、やっぱり在庫処分?

  • Photo04: US Amazonの製品写真より。まぁおなじみのもの。

CPU-Zの結果(Photo05,06)を見ても、やはりダイそのものは古いものに思える。勿論Windowsからは問題なく認識された(Photo07,08)。

  • Photo05: 以前のRyzen 7 PRO 4750Gのものと比較すると同じであることが判る。あと何気にMax TDPが88Wに設定されている。

  • Photo06: こちらも同じ。

  • Photo07: Ryzen 3 4100。4コア8スレッドのCPUが$100切りなのだから、良い時代になったものだ。

  • Photo08: Ryzen 5 4500。ちゃんと12スレッドが認識される。

ちなみにTDPであるが、Ryzen 3 4100Ryzen 5 4500ともにDefault TDPは65Wとなっており、Configurable TDPを使った場合に最大88Wまで引き上げられるという事かと思われる。

さて試すにあたり比較対象を色々考えたのだが、今回はIntelのCore i3-12100Fを用意した。推奨小売価格は$97~$104とされ、amazonでの5月20日時点での小売価格は\14,980と、大体Ryzen 3 4100と同程度。P-Core×4の構成で4コア/8スレッドだから、丁度手頃と考えた。CPUクーラーが付属するのも同じである。環境は表1に示す通り。要するに先の「Ryzen 7 5700XとRyzen 5 5500/5600を試す」の環境を流用している。ただ流石にバリューモデルのCPUにGeForce RTX 3080 Tiは無いだろうと思い、GPUはZOTAC GAMING GeForce RTX 3060 Twin Edge OCを利用した。あとWindows Updateの関係でOS Buildも微妙に上がっているが、違いはその程度である。

■表1
CPU Ryzen 3 4100
Ryzen 5 4500
Core i3-12100F
Motherboard ASRock X570 Pro4 ASUS Prime Z690-A
BIOS Version 4.30 BIOS 0703
Memory CFD W4U3200CM-16G×2
DDR4-3200 CL22
Micron CMK32GX5M2A-4800C40×2
DDR5-4800 CL40
Video ZOTAC GAMING GeForce RTX 3060 Twin Edge OC
GeForce Driver 512.15 DCH WHQL
Storage Seagate FireCuda 520 512GB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot)
WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data)
OS Windows 11 Pro 日本語版 21H2 Build 22000.613

グラフ中の表記は

  • R3 4100 :Ryzen 3 4100
  • R5 4500 :Ryzen 5 4500
  • i3-12100F:Core i3-12100F

となっている。また本文中の解像度表記は、いつものように

  • 2K :1920×1080pixel
  • 2.5K:2560×1440pixel
  • 3K :3200×1800pixel
  • 4K :3840×2160pixel

とさせていただいた。

なお今回はバリューモデルの性能比較という事で、UL Procyonは省いているほか、RMMT及びSandra 2021についても省いている。またゲームについては一応テストは4Kまで行ったが、フレームレート変動は2.5Kまでとした。またGeForce RTX 3060ということで、Ray Tracingは「使えるが、フレームレート的に厳しい」ということで、無効化できないF1 2021以外は全部Ray Tracingは無効化している(F1 2021はRay Tracingを有効にしてもそれほど重くないためにそのままとした)。またゲームの描画品質は全体的に低めにしている(詳細は各テストのところで)。

◆PCMark 10 v2.1.2535(グラフ1~6)

PCMark 10 v2.1.2535
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10

  • グラフ1

  • グラフ2

  • グラフ3

  • グラフ4

  • グラフ5

  • グラフ6

ではまずPCMarkから。Overall(グラフ1)を見ると、やはりRenoirという事もあってか、厳しい感じはある。もっともCore i3-12100Fの方はDDR5メモリ構成という事を考えると、この程度の性能差は出て当然であって、これをDDR4に落とすと概ねRyzen 5 4500と同程度に落ちる事を考えれば、まぁ妥当なところか。むしろ問題はRyzen 3 4100の性能の低さというべきだろうか。これはTest Group(グラフ2)でも明白で、性能差が無いのはGPU性能で決まるGamingだけ。Productivityでは結構大きな差になっており、頑張ってもRenoirコアの限界はある。登場直後にはそれなりの競争力があったRenoirだが、もう2年近くが経過しており、おまけにAlder LakeベースのCore i3と戦うには流石に厳しかったというあたりだろうか。

Essentials(グラフ3)で言えば、App Startupはもうモロにメモリの違い。Web BrowsingはL3容量の差というべきか。でもVideo Conferencingでは大差がないあたりは、実はRyzen 3 4100でも本当に基本的なPCで行う作業にはそれほど支障がない事の裏返しでもある。

これはProductivity(グラフ4)でも同じで、CPU性能に依存するWritingでは一応Core i3-12100Fが最高速とは言え、Ryzen 3 4100/Ryzen 5 4500もそれほど大きな差にはならない。一方Spreadsheetsはもうメモリ帯域(とL3容量)が効いてくる場面なので、この数字の差は納得できる。Digital Contents Creation(グラフ5)は、特にPhoto EditingだとOpenCL経由でGeForce RTX 3060を使っている部分があるので差が少ないのは理解できる。その一方でRendering and VisualizationはCPU性能の差そのままという感じだ。Zen 3コアはともかくZen 2コアがAlder Lakeに搭載されたGolden Coveと勝負にならないのは自明の事で、むしろよくここまで健闘したというべきか。

Applications(グラフ6)も、こうした傾向をほぼ踏襲したものになっている。Core i3-12100Fの方が全体的に優勢ではあるものの、Ryzen 3 4100/Ryzen 5 4500もなんとか頑張っている、というあたりか。絶対的な性能差で言えば勿論Core i3-12100Fの方が上だが、Ryzen 3 4100/Ryzen 5 4500で使い勝手が悪い、ということは少なくともこのレベルでは無いとは思う。

◆CineBench R23(グラフ7)
◆POV-Ray V3.7.1 Beta9(グラフ8)
◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.25.28(グラフ9)

CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
POV-Ray V3.7.1 Beta9
Persistence of Vision Raytracer Pty. Ltd
http://www.povray.org/
TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.25.28
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html

  • グラフ7

  • グラフ8

  • グラフ9

一応性能比較の為に実施してみたが、このクラスのレンダリングとか動画のトランスコードを、CPUで実施する事に意味があるか? と言われると結構微妙で、動画のトランスコードに関しては素直にGPU内蔵のエンコーダを使った方が幸せになれるだろう。

それはともかくとして、絶対性能で比較すると6コアのRyzen 5 4500は何とかCore i3-12100Fを上回る性能を発揮できるが、同じ4コア同士で言うとやはりRyzen 3 4100の性能はCore i3-12100Fには及ばない程度。これはCineBench/POV-RayのSingle Threadでの性能比較からも判りやすい。IPCそのものはやはりCore i3-12100Fの方が明確に上であり、これがそのまま反映された結果と言っても良い。もっともマルチスレッドが効くアプリケーションではそれなりにRyzen 5 4500の方が高速ではあるが、このクラスのCPUでそうしたアプリケーションがどこまであるか? というのが問題かもしれない。

◆3DMark v2.22.7358(グラフ10~13)

3DMark v2.22.7358
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark

  • グラフ10

  • グラフ11

  • グラフ12

  • グラフ13

3DMarkであるが、まずRay Tracingは無しということでPortRoyalは割愛。またWildLife Extreme/FireStrike Ultra/TimeSpy Extremeは解像度4Kということで省かせていただいた。ということでテストは5種類に減る訳だが、NightRaidを除くと概ねRyzen 5 4500とCore i3-12100Fがほぼ同等、Ryzen 3 4100はそこからやや落ちると言った感じ。GeForce RTX 3060であっても、フルに駆動するにはRyzen 3 4100では少し厳しいといったところか。Graphics Test(グラフ11)の結果でもこれは顕著である。ちなみにNightRaidに関して言えば、実際のフレームレートは

Ryzen 3 4100 Ryzen 5 4500 Core i3-12100F
Test 1 229.19fps 271.09fps 415.09fps
Test 2 338.38fps 383.09fps 488.85fps

という結果で、これはもうモロにCPUの影響と考えてよい。ただ逆に言えばここまで性能差がでるのはNightRaidだけ、という言い方もできる。

Physics/CPU Test(Photo12)はなかなか面白い結果になった。Night RaidはSingle Thread性能が比較的支配的、FireStrikeはMulti Thread性能が支配的、TimeSpyはその中間といった感じだが、ラフに言えば3Dに関してRyzen 5 4500はCore i3-12100Fと同等。Ryzen 3 4100は一歩劣るといったところか。

これは次のCombined Test(グラフ13)でも明確である。やはりRyzen 3 4100はちょっと厳しい、と言わざるを得ない。