今回形成されたSnV中心は、格子間にSn原子が配置され、その両隣が空孔という構造で、同構造内に局所的に存在している電子が光励起された後に緩和することで発光する。電子が作るエネルギーレベルは基底状態および励起状態とも2つに分裂しているため、複数の発光線が観測される。
ただしこれまでは検出器の分解能の問題から、SnV中心からの発光(PL)スペクトルでは、SnV中心の真の発光波長および発光線幅を評価することができなかったという。そこで今回は、高精度波長可変レーザおよび波長計を用いて、発光励起分光(PLE)測定が実施された。発光周波数がシフトした3個の明確なピークが確認され、第一原理計算を含めた理論計算から、これらは3種類のSnの同位体からなるSnV中心に対応していると考えられるとした。
量子光源の形成条件から、その3個のうちで最もカウントが高いP1ピークが120Snを含むSnV中心由来の発光であり、P2が119Sn、P3が118Sn由来と推測された。同位体を区別した119SnV中心の観測は、長時間の量子状態保存を可能とする核スピンメモリにつながるものだという。またP1ピークの半値幅は3.9GHzと非常に狭く、作製された量子光源が高品質であることが示されているとした。この狭い発光周波数分布のため、非常に近い発光周波数および発光線幅を有する複数のSnV中心の観測が可能になったという。
次に、1つのダイヤモンド基板(サンプル1)内の複数のSnV中心からのPLEスペクトルが計測された。その結果、内側の2つのスペクトルの発光線幅は35MHzおよび38MHzであり、物理限界である自然線幅31MHzに非常に近く、理想に近い状態であることがわかった。この2つのスペクトルの中心周波数の差は4MHzと自然線幅の1/8程度に収まっており、研究チームによると、ほぼ同一の性質を持つフォトンが生成されていると考えられるという。さらに、もう1つの異なるダイヤモンド試料(サンプル2)においても、サンプル1のSnV中心と同一なフォトンを生成するSnV中心が確認されたとした。
研究チームは今後、今回作製された高品質SnV中心を用いることで、離れた位置にあるSnV中心間の2光子干渉計測およびスピン特性と合わせた量子もつれ形成へと研究を進展させていくとした。