NTTドコモが2月28日までオンラインで開催している「docomo Open House'23」。関係者向けとしてリアル会場で行われた展示の中から、今回は通信関連の技術をご紹介します。
屋内外の電波環境を改善する新技術
昨今の燃料費高騰、省エネの流れで住宅やオフィスの高気密・高断熱化が進んでいます。こうした建物は電波も浸透しづらいため、屋内の電波環境が悪化してしまいます。それに対して、エアロゲル素材を用いた「電波の窓」の実証実験が行われています。こちらはYKK APとの共同開発です。
窓や壁面の内側にエアロゲル素材を詰め込むことで、電波の浸透度が高くなって外から届く電波が浸透しやすくなり、屋内の電波環境が改善するという仕組みです。断熱性能の高いLowEガラスを使った場合、電波は乱反射してしまいますが、エアロゲルを使うことで、電波品質が安定します。
今回使ったエアロゲルはかなりもろい材質だそうで、窓ガラスなどとして利用できるか、今後も継続して開発を行うとしています。
さて、このエアロゲル素材で屋内への電波浸透が改善しても、大規模ビルの奥までは電波が届かない場合があるため、これを改善するためには屋内基地局を設置する必要があります。この屋内基地局をさらに小さくするために開発されているのが「マルチセクタアンテナ」です。
従来の平面アレーアンテナは、カバーできる角度が狭く、サイズや消費電力が大型になってしまう欠点がありました。新たなマルチセクタアンテナでは、回路規模が約1/10まで小型化でき、低消費電力化も実現。特に5Gの高い周波数の電波を屋内に発射することができるようになりました。
マルチセクタアンテナは、コンセプトをNTTドコモと横浜国立大学が共同で開発し、実装は日本電業工作と富士通が行いました。「28GHz帯の電波を使って実証実験をした装置としては世界初の技術」だそうです。特にミリ波のような高い周波数帯域で全方位をカバーできる屋内アンテナとして期待の技術です。
ミリ波は使い方の難しい電波ですが、屋内の高速大容量通信を、より効率的に実現することができそうです。技術的にはほぼ完成しているとのことで、商用化の時期などは決まっていないものの早期の商品化を目指しているそうです。
電波を曲げてビルの足元にも電波を届かせる
屋内に設置した基地局で屋外のエリア化を行うための技術が、「透過型メタサーフェス」です。
一般的に、ビルの屋上やビルの屋内に設置した基地局では、ビルの足元には電波が飛ばないため、別の基地局を使ってエリア化をしています。
透過型メタサーフェスは、窓ガラスなどに貼り付けて利用します。屋内から発射された電波を、貼り付けられた透過型メタサーフェスを通る際に折り曲げ、任意の方向に誘導するという技術です。今回の実証では、透過型メタサーフェスを通過した電波は下方向に折れ曲がり、さらに横方向に広がることで、通常は電波が届かないビルの真下(足元)をエリア化しようというものとなっています。
通常、メタサーフェスはその素子が見えてしまいますが、さらに透明化処理を加えることで、見た目にも通常の窓ガラスに近いものとなり、一般的な窓ガラスに張り付けても違和感が少ないデザインとしています。フィルムなので通常の窓ガラスに貼り付けるだけで効果が発揮されます。電波が通る一部に張り付けるだけでいいので、コストも最小化できそうです。
今回の実証では28GHz帯の電波を使っています。高気密・高断熱の窓では電波が透過しづらいことなどから、エアロゲル素材の窓、マルチセクタアンテナ、そして透過型メタサーフェスの組み合わせで、屋内外の電波環境の改善が進展できそうです。
携帯電波だけで人の動きをセンシング
「無線通信のセンサ化による産業分野への活用」は、無線を使ったセンシング技術です。電波そのものがセンサーとして利用できるため、別途カメラやセンサー機器を設置しなくても、既存の基地局やルーターなどの通信機器を使うだけで、その場の人流や物体を検出する……といったことが可能になります。
携帯電話の基地局は、エリア内のスマートフォンに向けて電波を発射しています。その電波は途中に障害物があれば迂回/反射をしますが、この変動を基地局側が検出して、そこにある物体をAIによって推定するのが無線センシング技術です。「立ち入り禁止区域に動物が侵入した」「あるエリアが人で混雑している」などの検出が可能になるとしています。
面白いところでは、電波は水分によく反応するということで、湿気の状況を見て周辺の空気を検出して、ゲリラ豪雨が起こりそうという予報を伝えるという使い方も考えられるそうです。このように、通信の電波を、通信という元の目的に加えてセンシングに活用しようというのがこの技術のポイントです。
今回のデモ展示では無線LANのアクセスポイントの電波を使っていましたが、携帯電波を使って広範なエリアの情報を得ることもできるようです。幅広いエリアの情報を得られるため、プライバシーの問題なども発生することから、そうした問題への対処も必要になると判断しています。
カメラのように映像を取得できるわけではないため、人などがいることとその動きは検知できますが、詳細な情報は得られません。目的に応じてカメラなどのセンサーと使い分ける用途になりそうです。とはいえ、既存の機器を利用できるので新たににセンサーを設置する必要がないというメリットはあります。
こちらも現時点ですぐの製品化の予定はなく、今後開発を継続していく考えです。