NTTドコモが2022年1月17日より開催していた「docomo Open House'22」では、5Gの次の世代となる通信規格「6G」に関する展示が多くなされていた。まだ5Gのサービスが始まって間もない現状だが、6Gではネットワークがどのように進化し、何を実現しようとしているのだろうか。

世界で急加速している6Gの研究開発

NTTドコモは毎年、同社の最新技術や研究開発の取り組みなどを紹介するイベント「docomo Open House」を実施している。コロナ禍にある2022年の同イベントはオンラインで実施されたのだが、メディアなど一部に向けては実際の展示も披露されている。

そして、今回のdocomo Open Houseで力が入れられていたのが「6G」に関する展示だ。6Gはその名前の通り、現在整備が進められている新しいモバイル通信規格「5G」の次の世代に当たる規格であり、現在実用化に向けた研究が進められているものだ。

  • NTTドコモが開催した「docomo Open House'22」では、5Gの進化、そして6Gに向けた取り組みに関する展示が多くなされていた

    NTTドコモが開催した「docomo Open House'22」では、5Gの進化、そして6Gに向けた取り組みに関する展示が多くなされていた

5Gのサービスが始まって間もない段階で、なぜ6Gの実現に向けた取り組みが進められているのかといえば、そこにはモバイル通信を巡る国家間の競争が大きく影響している。4Gまでのモバイル通信は人々のコミュニケーションを支えるインフラとして活用されてきたが、性能が大幅に向上し、低遅延・高信頼性や多数同時接続などの特徴も持ち合わせる5Gは、その活用用途がコミュニケーションだけにとどまらず、企業や都市などを支える基盤として活用されようとしている。

それだけモバイル通信は社会的影響が大きくなってきたことから、国家としてその技術の主導権を握ることは非常に重要な意味を持つようにりつつある。そこで6Gでは、5Gで大きな主導権を得たとされる中国のほか、その中国と対立を深めている米国、そしてモバイル通信が主力産業の1つとなっている北欧や韓国など、多くの国が研究開発を急加速する動きが強まっているのだ。

  • 6Gの研究開発に関する動きは世界各国で急速に立ち上がっており、国家間の主導権争いが非常に激しくなっている

それゆえ6Gでは、5Gよりも標準化作業や商用化が一層早まると見られている。従来モバイル通信は10年毎に新しい規格に入れ替わるとされてきたが、6Gではそれが3年程度前倒しされるのではないかと言われている程の状況なのだ。

日本はモバイル通信市場における世界的な存在感が全くといっていい程ない状況であるのに加え、5Gでは技術開発や導入、エリア整備など多くの面で世界各国に大きな遅れを取っている。6Gでの技術開発競争に遅れてしまえばモバイル通信の領域で完全に存在感を失うだけに、他国に負けないよう研究開発を急ぐ必要がある訳だ。

6Gの高性能を実現する技術とその活用方法

国内企業の中でもNTTドコモは、3Gや4Gの技術標準化をリードしてきただけでなく、5Gでも多くの必須特許を獲得するなど、モバイル通信の研究開発では世界的に大きな存在感を示してきた。それだけに同社も、6Gの研究開発には早い段階から力を入れて取り組みを進めているようだ。

では一体、NTTドコモは6Gがどのようなネットワークに進化すると見ているのかというと、1つは5Gの特徴でもある「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」を一層強化したネットワークにすることだという。とりわけ5G以上の高速大容量を実現する上では、従来よりさらに広い周波数帯域を持つ電波を使う必要が出てくるが、そうなると5Gで使用しているミリ波より上となる、100GHz以上の「テラヘルツ波」を用いる必要があるようだ。

だがそれだけ高い周波数帯を使うとなるとミリ波以上に直進性が強く、しかも伝搬損失が大きいことから、一層使いづらい帯域であることも確かだ。そうしたことからNTTドコモでは、テラヘルツ波を使って想定通りの通信速度を出すことができるかを確認するためのシミュレーターを開発。今後は実際のテラヘルツ波による評価も進めていく方針だという。

また高い周波数の電波をさまざまな場所に届ける技術として提示されたのが「置くだけアンテナ」である。これは「誘電体導波路」と呼ばれる電波を運ぶケーブルのような物体にプラスチック片を置くと、そこから電波が漏れて周辺のエリアをカバーできる仕組み。これをあらかじめ建物の中に設置しておけば、基地局や中継器などを設置する必要なく、高い周波数の電波を室内の指定の場所に届けられるようになるという。

  • 誘電体導波路の上にプラスチック片を置くと、そこから電波が漏れてエリア化できる「置くだけアンテナ」は、高い周波数の電波を使って屋内をエリア化するのに役立つ技術となる

そしてもう1つ、6Gで重要性が高まると見られているのがさらなるエリアの拡大だ。成層圏を飛行して地上をカバーする「HAPS」や衛星など、非地上ネットワークの展開によって地上面積の100%エリアカバーをするのはもちろんのこと、空や宇宙などに向けた通信の強化も6Gでは見込まれている訳だ。

中でもNTTドコモが力を入れているのがHAPSで、2022年1月17日には親会社の日本電信電話(NTT)とエアバス、スカパーJSATの4社でHAPSの早期実現に向けた研究開発や実証実験での協力を検討する覚書を締結したと発表。実用化を急ぐ動きを見せている。

  • NTTドコモはエアバスやスカパーJSATなどと、HAPSの実用化に向けた研究開発を進めており、すでに実際のフライト試験なども実施しているという

ただ現在の5Gがそうであるように、新しい通信規格には非常に高い期待を抱く向きが多い一方、その性能を有効活用する具体的なサービスの開発はなかなか進まない傾向にある。そうしたことからNTTドコモでは、研究開発の段階からユースケースの開拓に向けた動きも強化するとしており、その具体的な事例として「人間拡張」を挙げている。

6Gでは人間の神経の反応速度を超える、一層の低遅延が実現することから、それを活用することで人間をネットワークに接続し、その能力を拡張することが人間拡張になるという。ネットワークを通じて他の人の体を直接動かしたり、テレパシーやテレキネシスなども実現できたりするのではないかと、同社では見ているようだ。

実際docomo Open House'22では、それを実現するための「人間拡張基盤」に関する展示を実施。人の動きを、ネットワークを通じてロボットや他の人に直接反映させるなどの取り組みを紹介していた。6Gが導入されるであろう2030年代に人間拡張がどこまで現実のものになるかは分からないが、その一端が実現されるだけでもスマートフォン主体の現状の生活を大きく変える可能性があるだけに、6Gで我々の想像を超えた世界を実現してくれることに期待したい。

  • 「人間拡張基盤」を用いたデモの1つ。ピアノを弾いているいる人の動きをカメラで取り込み、ネットワークを通じて隣の人にその動き伝送、電気刺激を用いて手の動きをコントロールすることにより、同じ弾き方を再現できるという