1月17日より、NTTドコモの研究開発の成果を発表する「docomo Open House'22」が開催されている。新型コロナウイルスの影響で基本はオンラインでの開催となったが、一部の内容はリアル会場にも展示されており、ドコモの研究開発をアピールする場となっていた。

  • 会場イメージ

    展示も参加者も限られた形ではあったが、リアル会場でも開催されたdocomo Open House'22

展示会場では同社6G-IOWN推進部の中村武宏部長が、5Gの進化と6Gの方向性について報道関係者向けに説明。6Gは無線技術なのでドコモが研究開発を行っているが、次世代通信基盤のIOWNはNTT(持株会社)が基礎研究を続けており、「将来的な通信基盤としては方向性は同じ」(中村氏)として、両社で密に連携して研究をしているという。

  • NTTドコモ 6G-IOWN推進部・中村武宏部長

    NTTドコモ 6G-IOWN推進部・中村武宏部長

5Gには高速大容量・低遅延・多接続といった特徴はあるが、ネットワークに対してはさらなる高速・低遅延が求められるとして、5Gを進化させて6Gへと繋げていく考えだ。加えて、カバーエリアをさらに拡大するという。中村氏曰く、「地上は当然100%」とのこと。これは「人口カバー率」を指標とするのではなく、地上全てをカバーするという意味で、さらに海上、海中、空中と地球全体をネットワークでカバーし、さらには宇宙空間もサービスエリア化しなければいけない、という未来を描く。

  • 5Gの高度化と6Gに求められるもの

    5Gの高度化と6Gにおいては、さらなる高速大容量/低遅延/低消費電力/低コストなどが求められ、フィジカル空間とサイバー空間の融合に繋がることが期待されている

その6Gだが、「すでに世界の開発競争は熾烈」と中村氏。無線通信の次世代は、これまでおおむね10年程度をかけて開発されてきた。例えば、5Gは2010年頃からスタートして2020年前後には各国で実用化されている。6Gは今のところ2030年頃の実用化が想定されているが、5Gよりも開発の立ち上がりが早まってすでに各国で開発競争が始まっており、「3年ぐらい前倒しで進んでおり、商用化が早まる可能性はある」(同)という。そうした場合に世界に遅れないように準備しておく必要がある、と中村氏は話し、研究開発の重要性を強調した。

  • 6Gの世界動向

    日本を含め各国で6Gに向けた取り組みが加速している

標準化を担う国際電気通信連合(ITU)と3GPPでも議論は始まっており、3GPPでは2024年ぐらいに6Gの要求条件を決め、技術仕様を作成。2030年頃に6Gを商用化させるスケジュール感となっているそうだ。

  • 標準化スケジュール案
  • 5G/6Gの開発スケジュール比較
  • 6Gの開発の展望。標準化が今後進んでいけば2030年頃の商用化が予想される

技術としては、通信衛星やHAPSを使うことでカバーエリアを拡大する計画で、NTT(持株会社)を含めて各社と共同で開発を進めていく。膨大となるデータを転送するために新たな周波数帯の開拓も必要で、テラヘルツ波の領域まで利用を拡大していきたいという考えだ。

  • カバレッジ拡張

    衛星やHAPSによって地上100%をカバーし、会場や空中、宇宙へもカバーエリアを拡大する

  • 高周波数帯の開拓

    6Gでは、100Gbpsを超える超高速に向けて、テラヘルツ波を利用することが想定される

こうした5Gの高度化や6Gへと繋がる新たな要素技術に関しては、オンラインのdocomo Open Houseでも紹介されている。これまでドコモでは、通信ケーブルを「洗濯ばさみ」(のようなもの)で挟むとそこから電波が漏れることで周囲をエリア化する「つまむアンテナ」を開発していたが、今回はさらに「置くだけアンテナ」を開発。つまむアンテナの洗濯ばさみと同じような素材のアンテナを配線上に置くだけで電波が放射される仕組みで、床や壁などに埋め込んだ配線でも自由なエリア化が可能になるとしている。

  • 置くだけアンテナ

    置くだけアンテナは、配線を埋め込んでも自由度の高いエリア設計が可能になる

こうした通信関連以外でも、6G時代に向けた様々な研究開発を行っている。その中の1つが「人間拡張基盤」だ。これは6Gの超高速・超低遅延のネットワークが「人の神経相当になる」(同)ことで、各種センサーから得られた人間の情報を活用するというもの。「果ては人間の感情まで何とか取り出せないかと考えている」と中村氏。

  • 人間拡張基盤のイメージ

    人間拡張基盤のイメージ

こうして取り出された情報をネットワーク経由で送信して処理、蓄積、分析し、リアル環境で活用するようになることで、色々なサービスを実現していこうというのが人間拡張基盤だ。

「脳波も取り出せる。テレパシー、テレキネシスがSFの世界ではなくなる」と夢のような将来を描く中村氏。現時点では「まだとっかかりの段階」(同)と言うが、その一部の成果を今回のdocomo Open Houseでは展示していた。

  • 人間拡張基盤のデモ構成

    センサーを経由した情報を基盤が分析するなどし、それをロボットなどに伝送して活用する。脳で考えただけで遠隔のロボットを動かして物を動かす、他人に動きを伝達してスポーツのコツを教える、など、新しいソリューションが想定されている

NTTの子会社となったドコモは、研究開発分野ではこれまで以上にNTTとの連携を強化。NTTが開発する要素技術IOWNを、事業会社であるNTTドコモが取り込んで実際のサービスに繋げ、それをさらに要素開発にフィードバックするなど、両社の有機的な連携によって、6Gを実現する技術開発を進めるとともに、6G時代に向けたユースケースを積み上げていく考えだ。