まず、グラフェンセンサの小型マルチチャネル電流検出器が作製された。従来は、プローバーや半導体パラメータアナライザなど、それぞれ数百万円以上するような数kg程度の比較的大型な装置を利用して、2チャネル(ch)程度の計測が行われていた。そこで今回は、マルチチャネル電流計部分をプリント基板上に作製することにより、100g程度までの計測器の小型化、および24chのマルチ測定を5万円以下で行う低価格化を実現したとする。
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(左)今回の研究で作製されたグラフェンセンサとセンサの電流計測システム。小型かつ多チャネルでのセンシングを可能にするための回路設計が行われ、小型計測機器が作製された。これにより、持ち運び可能なサイズと重量で、24chのセンサを同時計測可能な測定系が実現可能となった。(右)大型かつ高価な従来の測定系(出所:農工大Webサイト)
次に、カドミウム化合物の検出に当たり、グラフェン電界効果トランジスタ(FET)が作製された。そして同FET上にカドミウム化合物を捕捉可能なキレート剤(テルピリジン)を修飾し、グラフェンを利用したカドミウムセンサを作製したという。同センサは50μM以上の塩化カドミウム溶液の導入に対して鋭敏な応答が見られ、5分以内での塩化カドミウムの検出に成功したという。
さらに、複数のキレート剤を修飾したグラフェンセンサアレイを作製し、3種類のカドミウム化合物の同定試験を行ったところ、それぞれに対するセンサ応答の違いも観察された。研究チームはこれにより、今回作製されたセンサアレイを用いて、水中のカドミウム化合物の同定が可能であると考えられるとした。
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キレート剤としてテルピリジン修飾されたグラフェンセンサと、センサの電流計測システムを用いた塩化カドミウム検出の結果(4ch同時測定)。塩化カドミウム濃度が50μM以降で明瞭な変化が観察され、電流値変化から5分以内に濃度同定が可能な結果となっている(出所:農工大Webサイト)
今回の研究結果は、事故などで水中に漏出したカドミウム化合物の早期検出への有用なツールになりえることを示すという。さらに、水中でのカドミウム化合物の同定が可能であることから、漏出したカドミウム化合物の種類をいち早く評価できるなセンサの開発も可能になると考察した。また、ほかのキレート剤を用いることにより、ほかの重金属化合物へも検出対象を広げ、水中の重金属汚染の早期発見が可能なセンサデバイスが実現できるとしている。
研究チームは今後、重金属の検出や、グラフェンセンサのマルチチャネル計測を実現したい企業や研究者との共同研究関係を構築し、社会実装に向けて研究を推進していきたいとしている。