具体的には、屈曲機能を有する形状記憶合金ワイヤを含む多機能ファイバとしてのポリマー製の微細なカテーテル素子が開発されたという。
従来製法である多層集積化とは異なり、熱延伸プロセスを応用して開発されたもので、必要とする構造と機能が設定された成型物を加熱しながら引き延ばすことで、構造と機能を維持したまま人毛のような細いファイバとして大量生産することが可能となったという。この多機能ファイバは数百μm以下の線径と柔軟性を有するほか、アクチュエータや電気化学センシングなどの機能も備えることができるという。
中でも、アクチュエータ機能は、駆動電源と接続させる正極の形状記憶合金ワイヤと負極のステンレススチールが、ポリマー製ファイバの内部に導入することで実現された。電圧印加のon/offによるジュール熱が利用されており、導入された電力量とカテーテル先端の変形量が比例関係となっており、電力制御による変形量のコントロールが実現された。一方の電気化学センシングは、目標分子の電気化学反応を起こさせる作用電極であるカーボン電極、そして対極と参照電極(測定電位の基準)を併用した疑似参照電極が導入された。
さらに、開発された多機能カテーテルを生体内で利用することを想定した実験も行われた。実験では、血管の分岐構造をモデルにした流路が構築され、その内部に、血液成分を参考とした低濃度のアドレナリン緩衝液にその電気化学的センシングの干渉物質となる高濃度のアスコルビン酸と尿酸を添加したものが送液された。
そして2方向に分岐した送液チューブの両方向から、アドレナリン濃度の異なる2種類の緩衝液が同時に送液され、アクチュエータ機能で挿入する分岐方向を調節しながら連続してセンシングを実施。その結果、異なる液流部位ごとのアドレナリン濃度の差異を検出することに成功したという。
なお、研究チームでは、今回の多機能性カテーテルの屈曲運動をさらに発展させることで、複数のカテーテルを同時に生体内で正確に移動させることが可能となり、臓器や血管などの検出部位ごとに異なる生理活性物質の濃度を、同時にリアルタイムで検出できるマルチプローブの開発につながることが期待されるという。
研究代表者の郭助教は今後、ファイバアクチュエータ動きの自由度をさらに向上させることで、より立体的なカテーテル先端の駆動制御の実現を目指すとしているほか、ファイバによる新しい化学分子の検出法を開発することにより、多く重要な病気の指標である化学物質を選択的に高感度で検出できるように開発を進めたいとしており、その上で、多機能性ファイバカテーテル内に検査と治療の両方の機能を複合化させることで、より実用性の高い生体内プローブの製品化を目指すとしている。