古河電気工業(古河電工)は6月8日、同社の新事業に関する説明会をオンラインで開催。社会インフラDX・ライフサイエンス・宇宙の3領域について、事業概要や戦略の説明が行われた。
「みちてん」の活用で社会インフラのDXに貢献
社会インフラDXと題したセクションでは、全国に数千万基存在する道路付属物(看板・標識など)の老朽化対策や維持管理向けのソフトウェア「みちてん」シリーズが紹介された。
みちてんは、古河電工が独自開発したAR・RPA技術を活用し、ドライブレコーダーで走行中に録画した映像データを解析することで、道路付属物の種別や位置を網羅した台帳や閲覧ソフトウェアを納入するサービス。従来は目視での管理が行われていた道路付属物の位置把握において、省力化を実現するとしている。
同サービスは2021年度に上市され、すでに日光市や宇都宮市での採用実績があるという。今回登壇した古河電工の枡谷義雄氏によると、2025年までに全国自治体の約10%へ導入を目指すとのことだった。
さらに同社は、みちてんの技術を応用した鉄道沿線設備の管理システム「てつてん」を開発しており、今後はさまざまな社会インフラの維持管理におけるDX技術の提供を目指すとした。
光技術を活用したライフサイエンス事業
次に、ライフサイエンス領域の新事業事例として、医療現場での活用が見込まれる光技術を活用した3つのアプリケーションが紹介された。
体外からの給電で体内の埋め込み型医療機器を光らせ、位置の目視確認を可能にする「Tellumino」は、主にカテーテルを用いた抗がん剤治療に使用されるCVポートへの活用が期待されるとし、医療機器メーカーとの間で事業化も検討されているという。
また、自社のレーザ技術を活用した光アブレーション治療向け機器についても、メーカーとの事業化検討が進んでおり、体内検査用のOCT光干渉断層計については、すでにアトナープとの共同開発契約を締結したとのことだった。
古河電工は今後も、光技術を用いたライフサイエンス技術を拡大することで、幅広い医療現場へのサービス提供を目指すとした。
人工衛星の小型電源をJAXAと共創
最後に、宇宙分野の新事業として、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で開発を進める、小型軽量化と低コスト化を両立した宇宙用電源事業について紹介された。
数万機の人工衛星が協調しながら運用される衛星コンステレーションへの動きが本格化する中、動力源として、燃費に強みを持つホールスラスタエンジンが今後普及すると予想される。
その一方、ホールスラスタの駆動電源については、衛星打ち上げコストの削減や衛星自体の軽量化のため、小型軽量化への要求が高まっているという。
枡谷氏は、古河電工が民生向けの技術開発により蓄積した排熱構造や巻線設計の技術と、JAXAが持つ宇宙でのノウハウを組み合わせ、小型電源の製品化を目指すとした。
同電源は、2025年の軌道上実証、2026年の事業化を目指しており、通信・観測用衛星からデブリ除去衛星まで、さまざまな衛星に搭載される製品を開発していくとしている。
古河電工が掲げる新事業戦略
各事業に関する説明のあとには「新事業の探索」として、新事業の創出や戦略についての説明が行われた。
同社は、社会課題の開発に貢献し高い資本効率性を持つ事業領域において、自社が持つコア技術を活用しながら、スタートアップをはじめとする他社との戦略的アライアンス関係を強化し、事業の成長を加速させるという。
枡谷氏は、「今後も有望なスタートアップの皆様との共創を通じて、戦略投資を積極的かつ機動的に活用しつつ、新事業の創出を進めていく」と語った。