災害時に活躍。浸水被害エリアを発見する

セミナー後半では、QGISの機能を使って台風による豪雨災害の発生前と発生後のSAR画像を重ね合わせ、低い土地で浸水が起きた場所を発見するという実践的な実習が行われた。この実習では、地球観測衛星「だいち2号」のデータを使い、2019年に発生した台風19号の発生前、発生後の画像を比較する。

  • セミナー後半では、SAR衛星画像を利用して、2019年に発生した台風による被害を可視化した

    セミナー後半では、SAR衛星画像を利用して、2019年に発生した台風による被害を可視化した

SAR衛星は、マイクロ波を発して地表で反射して帰ってきた電波を受信し、画像化する。水面では電波が衛星と反対方向に反射してしまいアンテナに戻ってこなくなるため、画像化すると暗い(電波の強度が低い)部分ができる。大雨後に、川や湖などもともと水面だった場所以外が暗く映っていれば、そこは浸水して新たに水面ができた場所だと推定できる。これがSARによる浸水域推定の原理だ。

さらにこれを応用した「RGBカラー合成」という手法がある。災害前の画像(A)を赤色に、災害後の画像(B)を青と緑に色付けして重ね合わせると、Bの画像の浸水して暗くなったエリアは表示されない(画像に青や緑の成分が少ない)ため、赤く示される。こうして2つの画像から浸水域を強調して地図に表示するというものだ。

  • 水害前後の比較に役立つ手法「RGBカラー合成」

    水害前後の比較に役立つ手法「RGBカラー合成」(提供:さくらインターネット)

QGISでは、ラスターの機能を使って2つの画像を重ねた「仮想ラスター」を作成。浸水前と浸水後の画像の表示色をそれぞれ赤・青・緑に設定する。実習では、長野市内にある新幹線車両基地の災害前後画像のRGB画像を合成し、エリアの一部に浸水したと推定される場所があることを確認した。浸水域の推定はSARの応用として広く使われており、これに標高データを追加すると浸水した深さも推定できる。災害時の保険金の迅速な支払いにつながるなど、社会の中で活躍している手法だ。

  • RGBカラー合成を用いて新水域を強調した図

    RGBカラー合成を用いて新水域を強調した図(提供:さくらインターネット)

1月以降もセミナー追加開催決定

このほか、Tellus上で配布されている公式ツールを使った街の変化や駐車場の候補地の抽出などの実習も行い、正味4時間半のセミナーは充実した内容の濃いものだった。さくらインターネットが用意する仮想環境で解析を行うため、重い衛星画像をダウンロードする時間といった初心者に厳しい手間がかからず、安心して実習の内容に入っていける。衛星データのライセンスの都合上、Tellus環境からデータを外部に書き出すといったことはできないが、2023年以降も希望者には有償で実習環境を継続して提供することを検討しているという。

あっという間に枠が埋まった人気のセミナーは、1月以降に追加回の開催も決定している。衛星データの活用をしてみたい、データを使って実践的に学んでみたいという人は、宙畑の告知をチェックして次回の開催を待とう。