衛星/センサ/データの違い

第1回のハンズオンセミナーは、午前11時から午後4時30分まで、たっぷり時間を使って開催された。前半はさくらインターネット事業開発本部 クロスデータ事業部の菅谷智洋さんによる「Tellus(テルース)の概要」。Tellusで取り扱っている衛星センサの種類や、処理した目的別のデータの種類、解析ツールなどについての紹介から、太陽光の反射で地上を観測する光学衛星(受動型センサ)と、マイクロ波で観測するSAR衛星(能動型センサ)の違いなどの紹介があった。

  • Tellusがデータを搭載するさまざまな人工衛星

    Tellusがデータを搭載するさまざまな人工衛星(提供:さくらインターネット)

ここで注意したいのが、衛星・センサ・目的別データの使い分けだ。参考図はTellusで取り扱っているデータの一覧で、上段の「光学データ」の項目では左から4番目以降の「ASNARO-1」「GRUS」「CE-SAT-IIB」「Maxar衛星」が衛星の名称となる。左端の「AVNIR-2」「SHIROP」「HISUI」はセンサの名称で、残る「ALOS-3相当データ」はこれから打ち上げられるJAXAの「だいち3号」を模擬したデータだ。

下段の「SARデータ」の中央に「PALSAR」というセンサ名が表示されている。実は、上段の「AVNIR-2」と「PALSAR」はどちらもJAXAの地球観測衛星「だいち(ALOS)」に搭載されていたもの。ある衛星が複数の観測機器(センサ)を搭載していることは珍しくない。Tellusに限らず衛星データプラットフォームではメニューがセンサ名を元に分類されていることが多く、「これは何の衛星のデータなのか?」と悩んでしまうことが実は多く、慣れれば「PALSARは『だいち』のSARセンサ」「AVNIR-2も『だいち』搭載でこちらは光学センサ」「AW3D30は、『だいち』の観測画像を元に作られたデジタル3D地図データ」と区別できるようになるが、「衛星のタイプには光学とSARがあり……」というように衛星名を手がかりに覚えてしまうと、センサ名での表示に戸惑いやすい。

実践こそ最高の教育。衛星画像を情報に変えてみよう

衛星名とセンサ名の使い分けは覚えるしかないところだが、対応表を作って暗記するのではまるで受験勉強になってしまい、「これから衛星画像を使いこなそう」というユーザーの意欲をそいでしまう。自然に覚えるには、実例を元に実践していくことが大切だ。

Tellusセミナーの後半では、実際の衛星画像とオープンソースの地理空間情報ソフト「QGIS」を使って、いくつかの衛星データ解析を実際にやってみることができる。講師はMIERUNEのGISエンジニア、久納敏矢さんだ。

地理空間情報ソフトとは、地図をベースにデータを重ね合わせて視覚化、分析するためのソフトウェアだ。同様のソフトには無償の「Google Earth」、高性能な専用ソフト「Arc GIS」などがあるが、Google Earthは機能が限られ、Arc GISはライセンス料が高額という制約がある。QGISは多機能ながら無償のオープンソースソフトとして公開されており、日本では農林水産省などの官公庁やJAXAなどの研究機関、また自治体などでも利用されている。

セミナーでは、Tellusのプラットフォーム上でQGISを利用してデータの解析を行う。GISソフトと呼ぶと馴染みにくいが、ベースとなる画像(地図)の上に、レイヤーを作ってデータを重ね合わせていくのが操作の基本で、操作感はPhotoshopなどの画像処理ソフトを使用したことがあるとイメージしやすい。GISデータは位置情報(緯度経度)という手がかりを持っていて、レイヤーを作って衛星画像を読み込むと地図とぴったり重なる。知っている場所の衛星画像を表示すると、地図という情報と衛星画像というある日時のスナップショットが一致するというちょっとした感動を味わえる。

まずは、Tellusの衛星画像販売メニュー「Tellus Traveler」で配布されているサンプル画像をQGISに読み込んで解析を始める。Tellusは、QGISのプラグインとしてTravelerなどの各機能を実行できる連携機能を持っている。つまり、QGISから必要な画像を検索し読み込んですぐに使えるのだ。たとえば、衛星画像と行政区域データを読み込んで地図上で重ねれば、エリア別の分析を行うことができる。

  • セミナーで学ぶ植生指数算出の作業フロー

    セミナーで学ぶ植生指数算出の作業フロー(提供:さくらインターネット)

最初の実習は、地球観測衛星「だいち」の光学センサ「AVNIR-2」の波長別データを使って「植生指数」というインデックスを作る実習だ。植生指数とは、観測データに含まれる赤から近赤外の波長の値を計算して、地表の植物の状態(地表が植物にどの程度覆われているか、植物はどの程度育っているか)を数値化したもの。「正規化植生指数(NDVI)」という指標がよく使われ、農業や土地被覆(地表の状態の分類)の把握などの基本となっている。

QGIS上で衛星画像は「ラスター」形式という画像データの一種として扱われる。このデータには波長ごと(バンド別)の光の強さの情報が含まれ、これを「ラスター計算機」機能を使って計算する。NDVIは「近赤外-赤」の値を「近赤外+赤」の値で割ったものとして表される。ラスター計算機は、波長別の値をひとつひとつ取り出さなくてもバンド別の番号を入力すればよく、計算式とバンド番号さえわかっていればよいので扱いやすい。

計算結果は、QGIS上で新たな「NDVIレイヤー」として表示される。マップをわかりやすくするため、表示色を調整してみよう。植物の活性度が高い(よく茂っている)ところは緑に、植物のないむき出しの地面や人工物、水面などは赤く表示するようにレイヤーのプロパティから表示色を調整する。すると衛星画像が、植物活性度マップという意味を持った情報に変わる。この手法で時系列的な変化を見れば、ある場所で「植物が育った/枯れた」または「植物で覆われた/なくなった」という状況を知ることができる。農地に応用すれば作物がよく育ったのか生育不良なのかを把握できる。