パナソニックの「Let's note SR」は、12.4型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルのノートPCだ。“SR”シリーズは2022年の秋冬モデルで初めて登場したラインナップだ。
SRシリーズは、ディスプレイに12.4型という他にあまり例を見ないサイズを採用。ちなみに、Let's noteの“歴史”において、過去にLet's note MXシリーズで12.5型という、これも他にあまり例を見ないサイズを採用したモデルもあった(2014年から2016年にかけて生産)。
タテに長い画面の12.4型(3:2)のノートPC
ディスプレイのサイズは、本体のサイズと重さに大きく影響する。2022年時点においてモバイルノートPCは13.3型が主流で、処理能力とディスプレイサイズを重視したモデルでは14型、小型軽量を重視したモデルでは11~12型クラスを採用することが多い。Let's noteでは、FVシリーズが14型、SVシリーズが12.1型、QVシリーズが12型をそれぞれ採用している。
Let's note SVの12.1型に比べて、12.4型と数値上は大きいディスプレイを搭載したLet's note SRだが、本体のサイズはSVの幅・厚さと比べ、コンパクトに収まっている。
これは、ディスプレイサイズの値は確かにSRが大きいものの、横縦比がSRで3:2、SVで16:10(8:5)であることが影響している。具体的な本体サイズは、SRが幅273.2mm×奥行き約208.9mm×厚さ19.9mm、SVが幅283.5×奥行き203.8×厚さ24.5mmだ。
それぞれのディスプレイにおける横方向の長さと縦方向の長さを算出すると、横方向はSRが262mmに対して、SVが260.6mmと、ほぼ同じになる。縦方向はSRが174.7mmに対して、SVが162.8mmと12mm近く長い。
幅方向のディスプレイサイズがほぼ同じなのに加えて、SRのベゼル幅は左脇右脇でともに5.6mmと狭縁であることも、幅方向のサイズが短くなったことに貢献している。ただ、ディスプレイサイズが縦方向に延伸したことは、本体の奥行きサイズの増加に影響した。
軽い! 最軽量時で884g、薄くなって持ち運びやすくなった
とはいえ、本体の重さがバッテリーパック(S)装着時の最軽量構成状態で884g、バッテリーパック(L)装着時の最軽量構成状態で964g(最重量構成状態では1,044g)と、Let's note SVシリーズと比べて軽くなっている。そして、本体の厚さが19.9mmと、SVから4.6mm近く薄くなったことで、格段に携帯利用が容易になっている。
また、本体の重さは、Let's note QVをも下回りLet's note現行ラインナップで最軽量となった。
80ドットぶん情報量が増加、細かい情報の視認性がアップ
ディスプレイの解像度は1,920×1,280ドットで、Let's note SVから縦方向に80ドット増えた。数字にするとわずか80ドットと思うかもしれないが、エディタで1画面に表示できる行数が増えて文章の見通しがよくなったり、IllustratorやPhotoshop、Premiere Proといったコンテンツ加工アプリケーションでウインドウのフッターに表示されるメニューが視認しやすくなったりと、数値以上に使い勝手が向上する。
使い勝手という点ではLet's noteシリーズが継承している非光沢パネルの採用も、ユーザー周辺にある外光の映り込みを防いで、画面表示に集中できるようになっている。作業効率という意味ではLet's noteで最近積極的に導入している「集中力監視ツール」以上に効果がある。
キーのタイプ感は軽め、リーフ形状も健在
ボディサイズ、特にフットプリントがコンパクトになったことでキーボードの打ちやすさが気になるユーザーもいるだろう。
しかし、Let's note SRではキーピッチ、キーストローク、キー配列など、従来のLet's noteシリーズと同様に十分なサイズを確保している。キートップ形状も、打ちやすさと打ち間違いを軽減できるとパナソニックが訴求するリーフ形状を継承している。
天板の凹凸が平たくなっても堅牢性はそのまま
本体の厚さが20mmを切るという「Let's noteとしては」画期的な薄型化を実現したLet's note SRだが、その実現に貢献している1つの要因が、Let's noteシリーズのアイデンティティでもあったボンネット構造の変化だ。
フラットは平面とするノートPCが多い中、Let's noteでは天面に「ボンネット構造」と名付けた段差を設けて強度を確保してきたが、近年のモデルではボンネットの高さを低くして薄く見えるようにしてきた。今回のLet's note SRでは、さらにボンネットを低くしたことで、見た目の印象を競合他社のモバイルノートPCに近づけている。
ただし、ボンネットを低く、かつ少なくしても、Let's noteシリーズの重要な訴求点である堅牢性を確保するため、天面内部に設けたリブに加えて補強用のリブも設けている。
このため、天面表面はフラットに近づいているが、裏側は凹凸がはっきりとした従来のボンネット構造に近い形状となった。この変更によって、Let's note SRでも従来の76cm(底面方向・動作時)と30cm(26方向・非動作時)の落下試験、100kgf加圧振動試験を、工場出荷時にクリアする堅牢性を確保できたとしている。
Core i5-1235Uを搭載、性能はいかほど?
Let's note SRシリーズの店頭モデルには、搭載するCPUとタッチパネル対応、LTE対応が異なる3つの構成が用意されている。
「CF-SR3HFPCR」「CF-SR3HDNCR」はCPUにIntel Core i7-1260Pを採用し、上位の「CF-SR3HFPCR」ではタッチパネル、LTEに対応する。
もう1つの構成の「CF-SR3GDMCR」では、CPUにCore i5-1235Uを採用する。システムメモリ容量、ストレージ容量、本体搭載インタフェースに無線LAN、Bluetoothなど、そのほかの使用は共通する。今回はCore i5-1235Uを採用した軽量モデル、CF-SR3GDMCRを評価した。
Core i5-1235Uは第12世代Intel Coreプロセッサーで、処理能力優先のPerformance-cores(P-core)を2基、省電力を重視したEfficient-cores(E-core)を8基組み込んでいる。
P-coreはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては12スレッドを処理できる。動作クロックはベースクロックでP-coreが1.3GHz、E-coreが0.9GHz、ターボ・ブースト利用時の最大周波数はP-coreで4.4GHz、E-coreで3.3GHzまで上昇。Intel Smart Cache容量は合計で12MB。TDPはベースで15W、最大で55Wとなる。
グラフィックス処理にはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用する。演算ユニットは80基で動作クロックは1.2GHz。
このほか、Let's note SRの処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、試用機のシステムメモリがLPDDR4-4266を採用していた。容量は16GBで、ユーザーによる増設はできない。ストレージは容量512GBのSSDで、試用機にはSAMSUNG製「MZVL2512HCJQ」を搭載していた。接続バスはNVM Express 1.3(PCI Express 4.0 x4)。
製品名 | Let's note SR CF-SR3GDMCR |
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CPU | Core i5-1235U (4+8スレッド:P-core 2基+E-core 8基、動作クロック:P-core1.3GHz/4.4GHz、E-core0.9GHz/3.3GHz、L3キャッシュ容量:12MB) |
メモリ | 16GB(LPDDR4-4266) |
ストレージ | SSD 512GB(PCIe 4.0 x4 NVMe、MZVL2512HCJQ SAMSUNG) |
光学ドライブ | なし |
グラフィックス | Iris Xe Graphics(CPU統合) |
ディスプレイ | 12.4型 (1,920×1,280ドット)非光沢 |
ネットワーク | IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.1 |
サイズ / 重量 | W273.2×D208.9×H19.9mm / 約859g |
OS | Windows 11 Pro 64bit |
Core i5-1235Uを搭載したLet's note SRの処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。
なお、比較対象としてCPUにCore i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。
ベンチマークテスト | Let's note SR | 比較対象ノートPC(第11世代Intel Core) |
---|---|---|
PCMark 10 | 4689 | 4615 |
PCMark 10 Essential | 7850 | 9645 |
PCMark 10 Productivity | 6604 | 6081 |
PCMark 10 Digital Content Creation | 5398 | 4549 |
CINEBENCH R23 CPU | 6874 | 4119 |
CINEBENCH R23 CPU(single) | 1532 | 1380 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read | 6796.87 | 3249.66 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write | 4567.22 | 2679.52 |
3DMark Time Spy | 1438 | 1149 |
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) | 3558「快適」 | 2348「普通」 |
比較先のCore i7-1165G7は、TDP 28ワットと処理能力もそれなりに重視したモデルだ。しかしベンチマークスコアは、省電力を優先したTDP 15ワットの、そして、Core i7ではなくミドルレンジのCore i5クラスのCPUを搭載したLet's note SRが上回っている。
スコアの比較では、アプリケーションの起動速度やWebブラウジング処理能力、ビデオミーティング処理能力を測定するPCMark 10 Essentialが比較対象ノートPCを下回るものの、その他のスコアはLet's note SRが高い値を出している。
特にCINEBENCH R23では、シングルスレッドの演算能力を見るCINEBENCH R23 CPU(single)のスコア差と比べて、マルチスレッドの演算能力を見るCINEBENCH R23 CPUのスコアが比較対象ノートPCを大幅に引き離していることなど、第12世代Coreプロセッサーの特徴がわかりやすく示されている。
熱とファン音はどのくらい? 温度計・騒音計でチェック
軽量でコンパクトなモバイルノートPCで常に気になるのが、ボディ表面の温度とクーラーファンが発する騒音だ。
余裕を持って冷却機構を組み込めないため、ボディ内部の温度はどうしても高くなる。もしくは、ファンを高速で回転させるがゆえに騒音が大きくなる傾向にある。
電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。
表面温度(Fキー) | 35.1度 |
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表面温度(Jキー) | 31.7度 |
表面温度(パームレスト左側) | 29.3度 |
表面温度(パームレスト右側) | 29.1度 |
表面温度(底面) | 43.9度 |
発生音 | 46.1dBA(暗騒音36.2dBA) |
薄くてコンパクトなボディだと表面温度はどうしても高くなりやすい。しかし、実測した結果ではキーボードトップで35度以下、パームレストでは30度以下と優れた冷却性能を発揮している。
内部温度を下げてCPUの持つ処理能力をフルで発揮できるよう、Let's note SRではクーラーユニットを新規に開発している。特に大型ファンを組み込むことで風量はSVから10%増えたほか、フィン形状の改善(放熱フィン上部の間隔を広げることで通気性を向上)、風の流路をヒートパイプもカバーするなど、冷却効率の向上を図った効果が表れているといえるだろう。
クーラーユニットが流す風量が増えたことで、ファンによる騒音が大きくなったと懸念するユーザーもいるだろう。こちらも騒音計で測定したところ46.1dBAに達した。実際、ファンの風切り音はそれなりの大きさで認識できる。加えて、内部の温度や処理負荷に合わせてファンの回転数を変更するため、回転数が増えたときに騒音計の値以上に騒音を意識してしまうこともあった。
安定した処理能力・バッテリー駆動・堅牢性が魅力
Let's noteでは従来から、本体搭載インタフェースの充実を、オフィスで使うノートPCの条件として重視してきた。小型薄型化を進めたLet's note SRでもこれは変わっていない。
Thunderbolt4に対応したUSB 3.1 Type-Cを2基搭載するなど、最新規格を導入しつつも、USB 3.0 Type-Aを3基も備えたほか、有線LAN用のRJ-45、映像出力用のHDMI出力、さらには最近のノートPCで載せなくなってきたSDメモリーカードスロットに、アナログRGB用のD-Sub 9ピンまで本体に収容している。
アナログRGBはさすがに利用する機会が減っていると思われるが、SDメモリーカードはデジタルカメラで採用していることが多いので、本体での搭載を便利に思うユーザーは多いだろう。
昨今のテレワーク需要に応えるように、Let's note SRでもビデオミーティングを想定した露出補正や背景ぼかし、顔位置自動補正などの機能や、ボックス型スピーカーの内蔵、AIノイズ除去といった音響関連機能の充実を訴求している。
ただ、テレワーク関連機能だけでなく、以前から訴求してきた「高い処理能力」「常時間のバッテリー駆動」「堅牢性」といったLet's noteの“キモ”においても、さらなる進化を遂げている。
本当の意味で使える道具を必要としているモバイルノートPCユーザーにとって、高価格帯の製品ではあるが、Let's note SRは依然として選択候補からは外すことができないモデルとなるはずだ。