なんだかんだといろいろあって、どうしても「長文をストレスなく入力し続けられるほどキーボードがタイプしやすいけれど、筋力・体力・気力の衰えた身体でも長い時間持ち歩けるノートPC」を探さなくなくてはならなくなった私にとって、ずっと気になっている製品があった。
13.3型で世界最軽量をうたう、富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)のFMV LIFEBOOK UHシリーズだ。最新モデルは2022年6月発表のFMV LIFEBOOK UH-X/G2になる。このモデルからCPUに“Alder Lake”こと第12世代Coreプロセッサを採用した。
むちゃくちゃ軽いのに、むちゃくちゃ打ちやすそう
FMV LIFEBOOK UH-X/G2(以下UH-X)で何が気になるかというと、それはもう、「むちゃくちゃ軽いのに、むちゃくちゃタイプしやすそう」に尽きる。
もちろん、CPUがAlder Lakeであったり、このサイズで搭載インタフェースが充実していたりというポイントも要注目なのだが、ノートPCをまさに“文房具的な意味でのノート”のように使いたい自分としては、重さと共にキーボートが大変気になって仕方がない。
モノ書きの間でユーザーが増えているという噂
超私的な話になってしまうが、ライター稼業と他にボードゲームデザイナーとしても活動している私は、常にゲームのアイデアを模索していたりする。人によって本当に異なるのだが、私の場合、こういう発想は普通に生活を送っている最中に、ふとしたきっかけで湧いてくることが多い。
厄介なことにこの湧いてきたアイデアは、その場ですぐに記録にとどめておかないと霧のように消えてしまう。なので、思い立ったら可能な限り早く文字として残しておきたい。
「スマートフォンのボイスメモアプリで録音しておけばいいじゃーん」とはよく言われるが、いやでもそれって、実際に街中や電車や喫茶店で自分の考えを声に出して話すって、抵抗あってそう簡単にできることじゃないですよ、というのが自分の経験で得た感想だ。
「そのスマートフォンでタイプすればいいじゃない」というのは至極まっとうな意見で、実際自分もスマートフォンで文字打ちしている(フリック入力が苦手な私はスマートフォンで長文打ちするためにハードウェアQWERTYキーを搭載したクッソ重いUniherz Titanを使っているのはこちらの記事で紹介した通り)。
これはこれで重宝しているが、アイデアを文字にとどめた上で、できることなら、その場で思いついたアイデアを早く形にするために制作作業に取り掛かりたい。そのためには、いつもの作業環境を再現できるWindowsマシンで、それなりに作業環境と処理能力を備えたデバイスを、常に手元に置いておきたい(このあたりの実感はこちらの記事でより詳しく……というかかなり暑苦しく言及している)。
……と、かなり長い前置きになってしまったが、とにかく、Windows環境で使える「軽くてキーボードが使いやすいノートPC」の最右翼としてUH-Xは無視できない存在なのだった。
特にキーボードの打ちやすさに関しては、長年常用してきたThinkPadシリーズに匹敵してしまうかもという予感を、以前掲載した「FMV Zero LIFEBOOK WU4/F3」(以下 WU4/F3)の評価作業中に抱いてしまっている。
さっそくLIFEBOOK UH-X/G2実機を触ってみる
UH-Xの本体サイズは、幅307×奥行き197×厚さ15.5mmとWU4/F3と全く同じだ。キーボードサイズもキーピッチが約19mm、キートップサイズが実測で14.5ミリ、キーストロークが約1.5mmと変わらない。
このサイズはデスクトップPC向けキーボードでも一般的な値で、実際にUH-Xのキーボードをタイプしていても窮屈さは感じない。本体に「リフトアップヒンジ」機構を備えているので、ディスプレイを90度以上開くとキーボード側本体の奥が浮き上がって傾斜がかかり、キーボードがタイプしやすくなるのもWU4/F3と同様だ。
キーボードレイアウトに無理がなく、1つのキーホールに複数のキートップを詰め込む箇所(これをやられると心理的圧迫が少なからずある)もなく、いたって安心してタイプできる。
カーソルキーは文字打ちキーから離れて配置されているので、誤爆のプレッシャーもない。また、タッチバッドには専用のクリックボタンを備えている。UH-Xのポインティングデバイスは(方式としては古いタイプかもしれないが、デザイン重視の最新のタッチバッドと比べて)断然使いやすい。
というのも、クリックボタンをタッチバッドに組み込んでしまう方式は、タッチ可能域を広げるのと視覚的にすっきり見せるデザイン的な需要に貢献しているだろうけれど、使い勝手という観点から言えば使いにくいのだ。
気になる点を挙げるとすれば、キーボードをタイプしたときの軽さ、そして、力強くタイプしたときにボディがややたわむことだろう。ただ、このように軽くて華奢なキーボードは往々にしてカチャカチャとうるさくなりがちだが、UH-Xのキーボードは比較的おとなしい。
加えてタイプ感も軽いもののストンと押し下げて、タンッと押し下げた指の力を受け止めてくれる。このあたりも、不安を感じずに安心して長文をタイプできる理由の一つといえるだろう。
国産ノートPCらしい多種多様なインタフェース
本体に搭載するインタフェースは多岐にわたる。
最近ではコネクタ形状をUSB Type-Cに集約する動きも増えている(例えば先日レビューを掲載したASUS Zenbook S Flip 13など)が、UH-Xは他の国産モバイルノートPCと同様にオフィス利用でまだまだ多いUSB Type-AやHDMI、そして、有線LANの利用に対応すべく本体にもこれらのインタフェースを搭載している。
ただ、同じボディデザインとなるFMV LIFEBOOK UH90/G2のUSB Type-CインタフェースがThunderbolt 4に対応しているのとは異なり、UH-XはUSB 3.2 Gen2の対応に留まる。
無線接続は、IEEE802.11axまでをカバーするWi-Fi 6とBluetooth v5.1が利用できる。Wi-Fi 6も帯域2.4GHzまでの対応でWi-Fi 6Eには対応しない。とはいえ、これはさほど問題にならないだろう。
ディスプレイは標準的な13.3型フルHD
13.3型ディスプレイの解像度はこのサイズで標準的ともいえる1,920×1,080ドットだ。最近増えている横縦比16:10で2,880×1,800ドットという高解像度と比べると狭く思うかもしれない。しかし、UH-Xの軽さとキーボードの使いやすさを考えると、大きな問題ではない。
省電力ナレド処理能力高シ
冒頭でも紹介したように、2022年6月発表のUH-Xでは、CPUに第12世代Coreプロセッサを採用した。載せているのはTDP 15ワットと省電力を重視した「Core i7-1255U」だ。
Core i7-1255Uは、処理能力優先のPerformance-cores(P-core)を2基、省電力を重視したEfficient-cores(E-core)を8基組み込んでいる。P-coreはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては12スレッドを処理できる。
動作クロックはベースクロックでP-coreが1.7GHz、E-Coreが1.2GHz。ターボ・ブースト利用時の最大周波数はP-coreで4.7GHz、E-Coreで3.5GHzまで上昇する。Intel Smart Cache容量は合計で12MB。TDPはベースで15W、最大で55Wとなる。グラフィックスにはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用する。
UH-Xのシステムメモリは、LPDDR4X-4266 16GBをオンボード搭載し、ユーザーによる増設はできない。ストレージは容量512GBのSSDで、試用機にはMicron製のMTFDKBA512TFKを搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 4.0 x4)。
製品名 | FMV LIFEBOOK UH-X/G2 |
---|---|
CPU | Core i7-1255U (P-cores2基+E-cores8基P-cores4スレッドE-cores8スレッド、動作 クロックP-cores1.7GHz/4.7GHz、E-cores1.2GHz/3.5GHz、L3キャッシュ容量12MB) |
メモリ | 16GB(LPDDR4X-42660) |
ストレージ | SSD 512GB(PCIe 4.0 x4 NVMe、MTFDKBA512TFK Micron) |
光学ドライブ | なし |
グラフィックス | Iris Xe Graphics(CPU統合) |
ディスプレイ | 13.3型(1,920×1,080ドット)非光沢 |
ネットワーク | IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.1 |
サイズ / 重量 | W307×D197×H15.5mm / 約634g |
OS | Windows 11 Pro 64bit |
Core i7-1255Uを搭載したUH-Xの処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。
なお、比較対象としてCPUにCore i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。
ベンチマークテスト | UH-X | 比較対象ノートPC(Core i7-1165G7) |
---|---|---|
PCMark 10 | 5368 | 4615 |
PCMark 10 Essential | 10436 | 9645 |
PCMark 10 Productivity | 7371 | 6081 |
PCMark 10 Digital Content Creation | 5460 | 4549 |
CINEBENCH R23 CPU | 7421 | 4119 |
CINEBENCH R23 CPU(single) | 1595 | 1380 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read | 3594.53 | 3249.66 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write | 3349.00 | 2679.52 |
3DMark Night Raid | 16331 | 10635 |
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) | 4167「快適」 | 2348「普通」 |
比較先のCore i7-1165G7は、TDP 28ワットと処理能力もそれなりに重視したモデルだ。しかしベンチマークスコアは、省電力を優先したTDP 15ワットのUH-Xが完全に上回っている。
特に統合グラフィックスコアの描画能力は、3DMark Night Raidのスコアで1.5倍以上に、FFXIV:漆黒のヴィランズのスコアで1.7倍以上と大幅に向上している。省電力で処理能力が向上しているのだから、やはりいま選ぶなら第12世代となるだろう。
バッテリー駆動の実測は5時間43分、普通の外出なら十分
ただし、UH-Xでは本体の重さを600グラム台に抑えるために、徹底的な軽量化を図っている。それはモバイルノートPCにとって重要なバッテリーも聖域ではない。
公式スペックにおけるバッテリー容量は25Wh、PCMark 10のSystem InformationのBattery designed capacityでは23,616mAhとなっている。最近の本体重量1kg前後級モバイルノートPCでは5,000mAh程度が一般的なので、それらと比べたらバッテリー容量は半分程度といえる。
バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは5時間43分(Performance 6358)となった。
測定では、ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定している。既に使っているユーザーからは「バッテリー駆動時間の短さだけが不満で」という声も少なからず上がっているUH-Xだが、このスコア自体は、9時間10時間が当たり前になっている最近のモバイルノートPCと比べて、確かに短いと思うかもしれない。
しかし、実際に取材で外出したときにUH-Xを持ち出して2時間のインタビュー、前後1時間に喫茶店で取材の準備と得た情報の整理、移動の行きかえり往復1時間半でテキスト打ちとWebでの調べ物に使ったが十分不安なく使えている。
半日程度の外出利用であれば、十分な航続距離があると考えていいだろう(泊りがけ出張はさすがに無理だが)。
ガッツリ使っても熱くなーい(ただし底面を除く)
軽量でコンパクトなモバイルノートPCで常に気になるのが、ボディ表面の温度とクーラーファンが発する騒音だ。
余裕を持って冷却機構を組み込めないため、ボディ内部の温度はどうしても高くなる、もしくは、ファンを高速で回転させるがゆえに騒音が大きくなる傾向にある。
電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。
表面温度(Fキー) | 35.7度 |
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表面温度(Jキー) | 32.4度 |
表面温度(パームレスト左側) | 29.4度 |
表面温度(パームレスト右側) | 27.5度 |
表面温度(底面) | 49.0度 |
発生音 | 50.7dBA(暗騒音37.0dBA) |
薄くてコンパクトなボディだと表面温度はどうしても高くなりやすい。しかし、UH-Xを実測した結果ではキーボードトップで35度以下、パームレストでは30度以下と優れた冷却性能を発揮している。
最近レビューするモバイルノートではキートップが40度を超えるケースが少なくなく、タイプしているとほんのり手のひらが汗ばむことも少なくなかったが、UH-Xはそういうことは一切なく、温度という観点からも快適にタイプし続けることができている。
ただし、こちらでもトレードオフの関係がある。それは、底面の表面温度とクーラーユニットの発する音量だ。
発熱しやすいパーツを底面側に実装することで、ユーザーが熱を感じやすいキートップとパームレストで30度台を維持できているが、底面側は最も高温になる箇所で50度を超えている。本体を足に置いた状態でUH-Xを使い続けたらズボンをはいていたとしても低温やけどのリスクは考慮しておきたい。
高温になるパーツの温度を下げるためにクーラーファンを回転し続ける必要があるが、内部実装面積の関係で大口径ファンを組み込むことは難しく、冷却能力を挙げるためにはどうしてもファン回転数を上げる必要が出てくる。
その結果、高めの周波数で大音量の風切り音の発生となる。ざわめいている喫茶店や電車の中なら問題はないレベルだが、静かな喫茶店や図書館となると気になる可能性は高いだろう。
「超軽くて超打ちやすいノートPC」だった
UH-Xの本体を机から持ち上げるとき、それはノートPCではなく文房具のノートと思ってしまうほどに軽い。それどころか主観的感想は許されるならiPadより軽く感じてしまうといってしまってもいい。
軽いノートPCでキーボードをタイプしたとき、その多くが華奢で軽くて不安定な感触で苦労しながら文章を打ち込むことになるが、UH-Xは軽いのにキーボードタイプはしっかりと安定してストレスなく、評価作業中でも長時間打ち続けることができた。
たしかにクーラーファンの音は大きめで底面の温度はちょっとどうかな、と思わなくもないが、「超軽くて超打ちやすいノートPC」という条件を満たしていれば全く気にならない。バッテリー駆動時間も日常生活の中で使う分には不安を感じることはなかった。
「持ち歩くことが負担にならないぐらい軽くて、でも、キーボードは快適に使いたい」という筆者のようなわがまま、いや、切実なユーザーならば、なんとか予算を工面して購入の算段をつけるだけの価値があるノートPCといえるだろう。