画像を時系列に並べて「動画」にすると、衝撃波が宇宙空間を膨張する様子が手に取るようにわかるという。この動画から、北東部のある領域において、X線が急増光する構造が発見された。爆発から450年も経過した現在でもこのような年単位の変動が見つかることは珍しく、たいへん稀な現象だとする。

X線スペクトル解析やハッブル宇宙望遠鏡の可視光画像との比較から、この領域にはもともと濃い星間ガスが存在し、最近そこに超新星残骸の衝撃波が突入し、数年で加熱が一気に進んだことが確認されたとする。このような明らかな温度上昇は、銀河系内の超新星残骸では初めての発見だというほか、温度変化のタイムスケールから、ガス粒子同士が衝突して(熱)エネルギー交換が行われている最中を観測していることがわかったともしている。

  • チャンドラ衛星で撮影されたティコの超新星残骸のX線画像

    チャンドラ衛星で撮影されたティコの超新星残骸のX線画像。下のパネルは赤い四角の領域の拡大図。緑の楕円で囲まれた構造が年々明るくなっていることがわかる (出所:京大プレスリリースPDF)

また、詳しい数値計算との比較が行われたところ、衝撃波加熱の瞬間に「無衝突」加熱も示唆されたとする。真空に近い希薄な宇宙空間では、衝撃波とガスがぶつかる瞬間、電場や磁場のような遠隔作用を介した「無衝突」と呼ばれるプロセスでエネルギーのやりとりが行われる。今回の研究により、超新星残骸の衝撃波で「無衝突」加熱が起きている可能性が示され、さらにその加熱効率を観測的に制限することに成功したとする。

無衝突衝撃波は、近傍では太陽風、遠方ではガンマ線バースト、衝突銀河団など、宇宙のさまざまな場所で起きうる普遍的な現象だという。また無衝突過程は衝撃波の加熱メカニズムだけでなく、高エネルギー宇宙線の加速効率とも密接に関わると考えられている。今回の発見は、超新星爆発に限らず、広く一般に天体の高エネルギー活動が宇宙空間に及ぼす影響について、粒子がエネルギーを得る一番初期の段階という観点から解き明かすものだとした。

今回の研究により、衝撃波によって電子が熱化するプロセスが捉えられた。星間ガスに含まれる粒子のうち、残りの組成はイオンであり、イオンの温度変化を捉えるには、まったく異なる研究手法が必要になるという。それを実現するのが、2023年度に日本が打ち上げを予定し、研究チームも開発に携わるX線天文衛星「XRISM(クリズム)」だという。

同衛星はCCD検出器を遥かに凌ぐ分光性能を持っており、イオンの熱運動のドップラー遷移を検出することで、元素ごとの温度測定を可能にする。同衛星による観測を実現させ、今後は全粒子の熱化過程を明らかにし、無衝突衝撃波におけるエネルギー交換機構の全貌に迫っていきたいと考えているとしている。