具体的には、溶液分散型SiQDの発光ピーク波長は、赤660nm、緑530nm、青400nmで、発光効率(発光量子収率)は、赤34%、緑20%、青12%であったという。また、各SiQDの表面はそれぞれ異なる官能基で化学修飾されていることが解明され、赤が炭化水素基、緑がアミノ基、青がシロキサン基(Si-O-Si結合)であったとする。

  • 三原色で発光する溶液分散型のSiQDの発光スペクトル

    (a)三原色で発光する溶液分散型のSiQDの発光スペクトル。挿図は発光時の画像。(b)赤色・(c)緑色・(d)青色発光SiQDの透過型電子顕微鏡像。(e)赤色・(f)緑色・(g)青色発光SiQDのサイズ分布 (出所:広島大プレスリリースPDF)

さらに、フレキシブルで伸縮性を有する三原色発光するSiQDフィルムが調べられたところ、赤・緑色発光のSiQDフィルムは太陽光に照射後6時間で発光強度が急減した後、安定した発光になったとする。

それに対して青色SiQDフィルムは8日間の太陽光照射に対し、発光強度(発光量子収率)の劣化は少なく、80%が保たれたという。太陽光照射への耐久性は、量子ドットと高分子フィルム、それぞれの光吸収特性によることが示されたほか、劣化のメカニズムは、化学修飾基の結合切断と帰属されたという。

  • 赤色・緑色・青色SiQDのフレキシブル量子ドットフィルム

    (a)赤色・緑色・青色SiQDのフレキシブル量子ドットフィルム(厚さ0.5mm、大きさ40mm×40mm)。(b)赤色・緑色・青色SiQDの耐久性の加速試験。母材となる高分子はPDMS。フィルムの暗所(三角)および太陽光照射下(四角)での発光強度の安定性。(c)80℃の熱水に浸漬した青色SiQDフィルムの発光強度の安定性。実線と破線の曲線は、それぞれPDMSとフッ素系樹脂(PVDF)を母材とした量子ドットフィルム (出所:広島大プレスリリースPDF)

加えて、同フィルムを80℃の熱水に12日間浸漬しても、発光強度は85%維持されることも確認。熱水に対する劣化は15%程で、この高い耐久性は、表面の強固なシロキサン結合と帰属されたとするほか、青色SiQDフィルムは、80℃の熱水へ浸漬により発光量子収率の上昇も確認された。この機構は、未反応の表面官能基の後続反応によるシロキサン結合の増加によるものと考えられるとしている。

  • SiQDの発光と粒子サイズの関係

    SiQDの発光と粒子サイズの関係。上部データ群(塗りつぶし)と下部データ群(白抜き)では発光メカニズムが異なる。上部は表面効果による発光。下部は量子閉じ込め効果による発光。曲線(赤)は理論計算(有効質量近似) (出所:広島大プレスリリースPDF)

このほか、熱水耐久性試験においては、フィルムとしてシリコーンエラストマー系よりフッ素樹脂系ポリマーで高い耐久性が観測されたとするほか、理論計算と発光減衰時間の結果から、発光メカニズムは赤色SiQDは量子閉じ込め効果、緑色SiQDと青色SiQDは表面配位子効果と帰属されたとしている。

SiQDフィルムの加速劣化試験(太陽光、高温、高湿)の報告は、これまでの研究では行われていなかったことから、今回の研究成果は実用化に重要なデータと判断されると研究チームでは説明している。SiQDフィルムは今後、安全・安心・安価な発光体ならびにフレキシブル発光フィルムとして、マイクロLED、VR、AR、折り曲げディスプレイ、照明、生医学イメージングでの利用が期待されることから、より広範な波長・色、発光効率の上昇、ならびに三原色SiQDのLEDへの搭載を行うことを考えているとするほか、耐久性の向上も目標として掲げており、研究チームでは今後、実用化につながる基礎研究を行っていくとしている。