農家の方の意見を取り入れ水田での利用に耐えうる機器を開発

農業メーカーではないIIJが水田センサーや自動給水弁の開発に関わるにあたっては、これまでに体験したことがない苦労があったはずだ。「MITSUHA」はバージョン4を迎えており、さまざまな改良が行われてきた。花屋氏は、水田センサーについて、次のように語る。

「水田の水は必ずしもきれいとは限りません。水田センサーは濁った泥水でも水位を測定できなくてはいけません。また、水田に設置されるため、風雨にさらされる中、365日正常に稼働することが求められます。また、電池も当初は単三電池4本が必要でしたが、省力化したため、最新製品は単三電池2本で動作します」

また、農家の方の意見を取り入れ、農薬をまくときにパイプが邪魔にならないような工夫も凝らされているとのことだ。「製品がつかいにくいと、使ってもらえませんそのため、改良を重ねています」と、花屋氏は熱く語っていた。

スマホアプリも、農家の方に必要な情報のみを届けることに重きを置き、シンプルさやみやすさにこだわっており、水位、水温が一目でわかる画面になっている。その文字も大きい。「農家の方は水回り作業の前に水位をチェックすることで、水田に足を運ぶ必要があるかどうかを判断することができます。そのため、直感的に現在の値が分かるUIが重要なのです」と、齋藤氏は話す。

農家の支援にとどまらず、地域の活性化に貢献を

そして、IIJではスマート農業システム「MITSUHA」は農家を支援するだけでなく、地域の防災に活用することも視野に入れている。例えば、「MITSUHA」を地域で共有して用水やため池の水位管理を行うことで、自治体の職員が現地まで足を運ぶことなく、台風などの大雨が降った時にいち早く対策を講じることが可能になる。災害対策は時間との戦いだ。

地域全般に関わる防災のための施策となると、その地域の住民に恩恵がもたらされることになり、公共性が出てくる。結果として、自治体として推進することが可能になる。

  • IIJが目指す農業農村向け通信基盤整備のイメージ

まさに、「good digital award」のコンセプトである「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」につながってくる。デジタルの力で、多くの人がハッピーになれるというわけだ。

齋藤氏も花屋氏も「『MITSUHA』は非常にやりがいがある仕事。地域の活性化に貢献できるという発展性もあります」と、胸を張って語る。

実のところ、IIJは「good digital award」に複数の事業を応募したのだが、「MITSUHA」のみが受賞したそうだ。やはり、農業システムという位置づけではあるが、地域の課題解決や活性化に資するポテンシャルがある点を評価されたのであろう。

齋藤氏は「後継者がおらず、人を増やすこともできないことから、離農する人が増えています。この問題を解決するのはITしかありません」と語る。実際、同氏らは、ITによって、農業の課題を解決している。あらためて、IT、デジタルの可能性を感じた取材だった。