デジタル庁はこのほど、「デジタルの日」にちなみ、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」に貢献している、または今後貢献し得る個人や企業・団体の取り組みを「good digital award」として表彰した。

本稿では、農業/水産/林業/食関連部門で部門優秀賞を受賞した、インターネットイニシアティブ(IIJ)のスマート農業システム「MITSUHA」を紹介する。

始まりは農林水産省の実証事業

「MITSUHA」は、水田水管理の省力化を実現する安価な水田センサーと無線通信基地局を展開するプロジェクトだ。ネットワーク関連のビジネスを主とする同社が、スマート農業システムを手掛けることになったきっかけは、農林水産省による平成28年度補正予算革新的技術開発・緊急展開事業だ。同事業の実現目標は「水管理に係るコストを2分の1程度削減すること」。

プロダクト本部長 兼 IoTビジネス事業部 副事業部長 兼 アグリ事業推進室の齋藤透氏は、「当社がこれまでネットワークビジネスを広く手掛けていたことから、農林水産省からお声がかかりました」と話す。

  • インターネットイニシアティブ プロダクト本部長 兼 IoTビジネス事業部 副事業部長 兼 アグリ事業推進室の齋藤透氏

同事業において、同社は水田センサーの開発、LoRa基地局、インフラ提供を担当した。自動給水弁の開発とアプリの開発は富山県の笑農和、センサーの最適配置と水管理コストの測定などは、実証を行った農研機構が担当した。

新しい取り組みということで、特定の分野に強みを持つスタートアップと手を組む形で、プロジェクトが始まった。

稲作りで負担が大きい水管理をもっとラクに

農業にまつわる課題の中から、なぜ水管理が選ばれたのだろうか。齋藤氏は、「稲作農家の方は、大規模になると1人で40枚から50枚の田の水管理を行っています。朝と晩の1日2回、田んぼの水位が適切かどうかを確認する必要があります。この作業の負荷が大きいため、テクノロジーの力でもっとラクにできないかというわけです」と話す。

プロジェクトでは、静岡県磐田市と袋井市の計75ヘクタールの水田に水位・水温センサー300台と自動給水弁100台を設置、LoRaWANによる無線ネットワークを介して水位・水温などのデータを収集し、遠隔で自動給水弁の開閉を制御した。

その結果、見回りルートの効率化により、 7割から8割の水管理時間を削減することができたという。こうした実証の成果をもとに、「MITSUHA」が製品化された。

  • 実証事業における水田管理システムの全体像

低コストでオープンなLoRaWANを採用

「MITSUHA」は、水田センサー、自動給水弁、LoRaWANゲートウェイ、センサーデータを共通化する「水管理プラットフォーム」から構成されている。IoTビジネス事業部 アグリ事業推進室長の花屋誠氏は、「MITSUHA」の特徴の一つとして、「LoRaWAN」を挙げた。

  • インターネットイニシアティブ IoTビジネス事業部 アグリ事業推進室長 花屋誠氏

「LoRaWAN」は免許不要で使える長距離無線技術で、1キロメートルから5キロメートルの距離をカバーする。加えて、「LoRaWAN」はオープンな規格であるため、LoRaWANに対応していれば、他社が提供するセンサーも利用することできる。花屋氏によると、水田管理プラットフォームはAPIを公開しているため、他社のスマホアプリも接続可能だという。

「LoRaWAN」はコストメリットも大きい。「MITSUHA」では水田センサーからゲートウェイまでの通信費用はかからず、ゲートウェイからLoRaWANのネットワークサーバまでの通信費だけ支払えばよい。

齋藤氏は「LTEによる通信は農家の方の負担が大きいです。なぜなら、1反当たりの粗利は1万円を切ることもあります。そうした中、数多く設置するセンサーの通信を全てLTEで行うことは現実的ではありません」と話す。

  • スマート農業システム「MITSUHA」の概要