パナソニックの次亜塩素酸 空間除菌脱臭機「ジアイーノ」は、家庭用から業務用までさまざまなラインナップを展開するヒットアイテムです。2022年4月、ジアイーノで使用している次亜塩素酸の研究をさらに深めるため、パナソニックは愛知県の春日井市に「IAQ検証センター」をオープンしました。
今回、メディア向けのジアイーノ新モデル発表会とIAO検証センターの見学会に参加してきました。IAO検証センターは、オフィス空間や家庭といった実使用に近い環境や、気温・湿度を調節して季節ごとの環境を再現するなど高度な施設。ジアイーノ新モデルと合わせて紹介します。
部屋の空気をケアするジアイーノ
はじめにジアイーノの仕組みをおさらい。ジアイーノは内部で塩水を電気分解して次亜塩素酸水を生成し、この次亜塩素酸水を本体内部のフィルターに浸透させます。そして、部屋の汚れた空気を吸い込み、本体のフィルターを通過させて空気の消臭や雑菌・ウイルスの抑制をします。
フィルターを通してキレイになった空気は、気化させた次亜塩素酸水を交えて部屋に放出。空気中のニオイや菌だけでなく、部屋に漂う雑菌や各所に付着した雑菌を抑制する点が特徴です。次亜塩素酸そのものは人体への刺激性を持つ物質ですが、部屋の中へは効果と安全性に配慮した低濃度(0.1ppm未満)で放出されます。ただ、塩素アレルギーなど体質的に合わない場合もあるので、ジアイーノの注意事項として以下が記載されています(パナソニックのWebサイトから)。
・使用中に身体に異常を感じたときは、直ちに使用を中止し、医師にご相談ください。ジアイーノは十分な安全性を検証していますが、塩素アレルギーなどをお持ちの方は医師とご相談の上、ご利用ください。
・動植物に、直接風が当たる場所で使わないでください。悪影響を及ぼす原因となります。小動物への安全性も検証していますが、人間のアレルギーと同様に、体質に合わない場合もあります。使用中に異常が見られた場合は、直ちに使用を中止し、医師にご相談ください。
布に付着したニオイにも効果を発揮
10月上旬に発売する家庭用ジアイーノの新モデル「F-MV5400」は、適用床面積が21畳です。価格はオープン、推定市場価格は178,200円前後となっています。F-MV5400は、空間除菌脱臭とともに、次亜塩素酸による加湿機能とHEPAフィルターによる集じん機能を備えました。
注目の機能は「集中クリーンモード」です。一時的に次亜塩素酸の濃度を高める機能で、標準運転時よりも短時間で除菌・脱臭を行えるというもの。「集中クリーンモード」ボタンを押すと、6時間だけ次亜塩素酸の濃度をアップします。
「次亜塩素酸の濃度は、人がいる空間でも安心して使える濃度に設定しています。通常は12時間かかる付着菌の除菌を、集中クリーンモードなら6時間に短縮できます。ニオイの脱臭にかかる時間も短縮します」(パナソニック エコシステムズ IAQ BU長 山内進氏)
ジアイーノをリビングに設置して、寝る前に「集中クリーンモード」をオンにしておくと、翌朝に起きたときリビングの空気やニオイがキレイになっているという使い方もできますね。
「今回の新モデルで検証したところ、新たに布製品の付着臭を脱臭できることが分かりました。浮遊臭脱臭、付着前脱臭、付着臭脱臭という3つの効果が見込めます。また、浮遊臭は東京農業大学との研究によって、ペットの排泄物から出るニオイを除去できることを検証しています」(山内氏)
このほかジアイーノの内部では、次亜塩素酸によって加湿用トレーと除菌フィルターを清潔に保ちます。加湿量は650ml/時と、多くの一般家庭には十分でしょう。加湿量の目安としては、700ml/時で木造和室の12畳(20平方メートル)、プレハブ洋室の19畳(32平方メートル)とされています。
フィルターは従来モデルと同じものですが、新たに検証したところ、花粉・ハウスダストを集じんできることが分かったとのこと。従来は未検証だったため「HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)」とは言い切れなかったそうですが、今回の新モデルからは「HEPAフィルター」とカタログなどに記載されます。
IAQ検証センターには「バイオセーフティレベル2」の試験室も
ジアイーノの脱臭効果は体感できますが、空気の質そのものは目に見えません。「本当に効いてる?」と思うこともあるでしょう。
そこでパナソニックは、実際の使用環境に近い条件で検証する「IAQ検証センター」を立ち上げました。実使用環境における次亜塩素酸の効果と安全性や、エアロゾル、浮遊菌に対する効果検証などを行っています。
まずは、空質空調を連携させて次亜塩素酸の効果検証を行う「空間価値創造オフィス」を見ていきましょう。いろいろな条件を変えながら、理想的な空質・空調環境の進化を目的にしたオフィス空間です。温度、湿度、二酸化炭素濃度をセンシングして、空質・空調を運転します。
例えば、冬なら加湿することで体感温度を上げて空調の設定温度を下げるなど、快適性と省エネ性のバランスを取る運転を探っていきます。普段は実際にパナソニックの社員が働いているそうです。AIカメラで人をモニタリングし、人がたくさんいるときは空調を強くしたり、二酸化炭素濃度が高くなったら換気量を増やしたりします。
天井埋込型のジアイーノも設置。気化した次亜塩素酸水を天井から室内へと放出しています。夜間に誰もいなくなったオフィスで天井埋込型ジアイーノを稼動しておけば、翌朝はキレイな空気の中で仕事を始められます。また、オフィス内で食事をしたあと、どれくらいの時間で脱臭できるかも検証中です。
温度だけでなく、湿度コントロール、脱臭、除菌ができるオフィスというのは新しいですよね。コロナ禍の中で換気する機会が増えたとはいえ、オフィス内のニオイはこもりがち。特にカレーやカップ麺などをデスクで食べると、本人は気にならなくても周りの人には迷惑なこともあります。また、冬場の乾燥やカゼが流行る時期の「空気の質」は、人が集まるオフィスだからこそ注意したいもの。学校や福祉施設などでも需要がありそうです。
続いて「体感型デザインルーム」。天井埋込型ジアイーノと熱交換ユニットをスケルトンで設置しているため、実際の配管を確認しつつ実空間で使用状況を体感できます。設置工事を担当する事業者の勉強や、これからオフィスに設置しようというときにイメージしやすい作りです。
熱交換ユニットによる第一種換気(給気口・排気口の両方にファンなどの機械換気装置をつけた換気の方式)も行っています。本体の熱交換素子で熱回収しながら換気し、空気と一緒に熱も室内に戻すため、熱のロスが少ない点が特徴です。
天井の内側に設置している設備を目にする機会はほとんどないため、こうしてスケルトンで展示されていると理解が深まります。部屋の中の人数が増えると二酸化炭素濃度のセンサーが反応するなど、機器の動きがよく分かりました。
次亜塩素酸ガスの濃度を調整。エアロゾルへの効果検証も
次は「ジア環境BSL2(バイオセーフティレベル2)試験室」です。バイオセーフティレベル2に分類される細菌・ウイルスを使って、温湿度制御しながら検証できる部屋。バイオセーフティレベル2は、はしかウイルスや季節性インフルエンザウイルスなどを扱える施設です。一般的には安全キャビネットという箱状の設備を使うことが多く、試験室として用意するのは珍しいとのこと。
この試験室は、温度・湿度と次亜塩素酸ガス濃度を制御できることがポイント。部屋には2カ所の換気設備があり、室内を陰圧(周りよりも低い気圧)にして、菌やウイルスの漏れを防いでいます。パナソニックによると、次亜塩素酸ガス濃度の制御はこれまでも技術的には可能でしたが、設備としては用意していなかったとのこと。今回、データを収集・分析するにあたり、新たに用意したそうです。
「付着菌の検証では、菌がついたシャーレを室内に置き、次亜塩素酸ガス発生装置で室内にガスを充満させます。その後、所定時間ごとにシャーレに残った菌を確認し、除菌性能を算出するといった方法で検証しています」(パナソニックの担当者)
このほか、室内に菌を放出した浮遊菌の検証、カビ・花粉などの抑制効果、飛沫・エアロゾルに含まれた菌・ウイルスの抑制効果といった検証を実施しています。
当たり前ですが、実際の細菌やウイルスを使うため、セキュリティカードを使うなど厳重に管理された試験室です。温度・湿度を制御した部屋の中で実際に細菌・ウイルスを放出して次亜塩素酸の効果を検証しているので、季節ごとの違いや広い部屋での効果などを調べられます。
6畳から80畳まで広がる部屋で適用床面積を再現
生活空間をとりまく、床、手すり、布製品、おもちゃなどへ付着した菌の除菌効果を検証するのが「実空間除菌試験室」です。素材、温湿度、換気量を調節して、付着菌に関する評価が可能です。
壁を動かせば部屋の広さを変えられるため、実際の適応床面積サイズの試験室を作れる構造です。温度・湿度をコントロールして季節ごとの違いも検証できます。壁材や床材を変えたり、ソファといった家具を置いたりと、実際の住居を再現した検証が可能です。
こうした効果検証は実験室レベルが多いものですが、実際の居住空間を再現できるというのは、消費者の立場としては具体的なイメージがわきます。製品を選ぶときの参考にもなるでしょう。
何もない実験室とは違って、実際の生活空間には家具やカーテンなどさまざまなものがあります。例えば、家具の下も清潔にできるか、ドアノブや壁に付着した菌も除菌できるか、革製のソファと布製のソファでは効果が違うのか――などは気になるところ。いろいろな家具や素材を使って効果を調べて、公開されることを期待します。
このほか、パナソニックは三重大学と共同で次亜塩素酸に関する研究を重ね、学会発表も行っています。外部研究機関の連携と「IAQ検証センター」によって、次亜塩素酸の可能性をスピーディーに検証していく考えです。