シャープの最新ハイエンドスマートフォン「AQUOS R7」が登場しました。前モデルと同様にドイツの名門カメラメーカーであるライカカメラと協業し、1インチという大型のセンサーを搭載した強力なカメラ機能を備えていますが、そのカメラ機能がさらに洗練されました。カメラ機能を中心に、AQUOS R7の実力をチェックしてみます。
なお、AQUOS R7はNTTドコモとソフトバンクから販売されており、ドコモ版が一括198,000円、ソフトバンク版が189,360円となっています。前モデルAQUOS R6ではオープンマーケット版(SIMフリー版)も登場しましたが、AQUOS R7に関しては現時点でオープンマーケット版は発表されていません。
洗練されたデザインの大画面ハイエンドスマートフォン
AQUOS R7は、優れたデザインとハイスペックを備えるスマートフォンです。従来と比べて特に大きな違いは背面。AQUOS R6では光沢があってとにかく反射するガラス素材を採用していましたが、AQUOS R7ではマットな仕上がりでサラッとした手触りになりました。
サンディーシャインと呼ばれるエッチング処理が施された背面は高級感もあります。Corning Gorilla Glass Victusを採用しているため強度も高く、傷つきにくいとしています。
見た目は好みなのですが、少々滑りやすいという印象もあります。個人的にはケースかストラップホールが必要だと感じました。側面にはアルミフレーム、側面のボタンにはダイヤカットとアルマイト染色といったこだわりは、ハイエンドならではでしょう。
前面はPro IGZO OLEDを採用した6.6型WUXGA+(1,260 × 2,730)ディスプレイを搭載。従来の側面がカーブしたエッジディスプレイではなく、フラットディスプレイに変更されました。全画面という点ではエッジディスプレイの方が有効ですが、指がディスプレイに掛かりやすく誤操作しやすいというデメリットもあり、最近はフラットディスプレイへの回帰が進んでいます。
その分ディスプレイの上下左右にはベゼルがありますが、スリムな狭額縁となっており、見た目には安っぽさはありません。インカメラはパンチホール型。指紋センサーも画面内にあります。
指紋センサーは、登録時に1回押し付けるだけで設定が完了する手軽さ。AQUOS R6から継続されたもので、解除スピードも速く認識エリアも広いため、使いやすい指紋センサーです。
ディスプレイのPro IGZO OLEDも前モデルを踏襲。最高ピーク輝度2,000nit、コントラスト比2,000万:1、Dolby Visionに対応したHDR、10億色表示といったスペックは変わりません。基本的には同じディスプレイがフラットになったという感じでしょう。
SoCにはSnapdragon 8 Gen 1を採用。順当に、前モデルのSnapdragon 888の次世代のハイエンドチップを採用しました。メモリ12GBは変わりませんが、ストレージが128GBから256GBに倍増したのは嬉しい点。
通信規格は5Gのミリ波に新たに対応。Sub6のn3/n28/n77/n78/n79に加え、n257もカバー。キャリアの仕様表を見ると、ドコモ版、ソフトバンク版ともに5Gのカバーは同等。4Gの対応周波数に微妙に違いはありますが、国内で使う分には違いはないでしょう。ミリ波に対応したため、将来的な高速通信に期待が持てます(現時点ではなかなか体験する機会はないでしょう)。
順当にスペックアップしたスマートフォンと言うことで、普段の利用には問題ありませんし、ハイエンドスマートフォンとしては問題を感じませんでした。今回はベンチマークのできないレビュー機材だったため、パフォーマンスについては体感したもののみですが、特に心配は感じませんでした。
大幅に性能向上したセンサー
というわけで最大の違いとして注目したいのがカメラです。AQUOS R6と同じようにライカ監修のカメラは、1インチという大型センサーを搭載しています。AQUOS R6では、もともとデジタルカメラ用で使われていたセンサーを使っていました。
センサーの画素数や、位相差AFがなくてコントラストAFのみという点から考えて、AQUOS R6に搭載されていたのは数年前のソニーのハイエンドコンパクトデジカメ「サイバーショット RX100」シリーズと同じセンサーでしょう。
コントラストAFにはメリットもありますが欠点もあり、特にAFスピードが位相差AFに比べて劣る点があります。AQUOS R6でもそれが弱点だったのですが、今回のAQUOS R7では、新型センサーを搭載し、位相差AFに対応しました。像面位相差AFにより、センサー全面で位相差AFが可能になっています。
これによって、AFスピードはかなり改善しました。被写体にカメラを向けた瞬間にピントが合うAQUOS R7は、動体撮影にも(よほど不規則に素早く動くものでもなければ)十分対応できるレベルになりました。
センサーの画素数は4,720万画素。メーカーは非公表なので推測するしかないのですが、スペック的に近いのは7月に発表した「Xiaomi 12S Ultra」が搭載するソニー製センサーIMX989です。
Xiaomiは50MPと主張しているのですが、ピクセルビニングで3.2μmのピクセルピッチになる点、像面位相差であるOcta-PDAFを搭載する点から近しい存在です。ただ、AQUOS R7の画像解像度は3,968×2,976、1,180万8768画素。ピクセルビニングをしており、「ハイレゾ」モードで撮影すると7,936×5,952で4,723万5,072画素(約4,720万画素)になります。
香港在住の携帯研究家・山根康宏“博士”に画像を送っていただいたところ、Xiaomi 12S Ultraの撮影画像の解像度は4,096×3,072、1,258万2,912画素となり、ビニングしない場合は5,033万1,648画素(約5,000万画素)です。そのため両者は微妙にスペックが異なります。
そのXiaomi 12S Ultraの撮影画像のExifを見る限り、実焦点距離8.70mm、35mm判換算23mmのレンズとなっています。AQUOS R7は実焦点距離6.85mm(35mm判換算19mm)のレンズで撮影した画像に対して、24mmの範囲で切り抜いて画素補完しているので、このあたりにも違いがあります。
AQUOS R7の場合はシングルカメラのため超広角レンズから切り出すことで24mmにして、超広角も使えるようにしています。Xiaomi 12S Ultraは、超広角カメラを別途搭載するため、メインカメラは23mmになっているのでしょう(そのため、切り出しはしていないようです)。
まあ、Xiaomi 12S Ultraとは全く別のセンサーを使っている可能性もなくはないのですが、恐らくIMX989の使い方が異なるということだろうと想像しています。
話がそれましたが、いずれにしてもAQUOS R7でセンサー性能は大幅に向上しました。デジカメ用センサーでは2,000万画素程度だった画素数は4,720万画素に拡大したものの、4画素を1画素として使うピクセルビニングにより、ピクセルピッチが3.2μmになり、既存のスマホカメラの中では最大クラスとなっています。
その代わり、ピクセルビニングによって画素数は1,180万画素(11.8MP)になります。同等の画素数のスマホカメラは他にもあり、問題とまでは言えません。レンズ性能に限界があるスマホカメラにおいては、このぐらいが画質とのバランスでも良いと言えるかもしれません。
実は気になったのがシャッター音です。AQUOS R6では、シャープらしい甲高いシャッター音だったのですが、小さく短い乾いた音になりました。どこかで聞いた音でしたが、ライカと初めて協業したファーウェイが「HUAWEI P」シリーズで搭載していたシャッター音とほぼ同じ音でした。これはライカ監修の音ということでしょうか。
フォント類やUI面でもう少しライカ色が出てもよかった気はしますが、音がかなり静かになったこともあって、非常に撮影しやすいカメラになりました。これは大きなメリットと言えそうです。
UI面ではもう少し使いやすさを求めたいところ。AQUOS R6でも、フラッシュやセルフタイマーは設定からオンにしないとカメラUI上に表示されませんでしたが、今回も同様です。あとは撮影時のアスペクト比の選択ができますが、HDR機能のオンオフ、写真解像度の変更あたりは、撮影時に即座に変更したいので、同様に設定項目をカメラUI上に表示して欲しかった部分です。
価格や機能を考えても、カメラ操作が難しいと忌避するユーザーをターゲットにする意味はないと思うので、わざわざ設定を隠す必要はないでしょう。もう少しスピーディに撮影設定にアクセスできるUIだとよかったと感じました。
写りだけでなく、バシバシ撮れる快適さ
画質面では、1インチの大型センサーの実力を遺憾なく発揮してくれます。ピクセルピッチも大きいので、ダイナミックレンジの広さやノイズの少なさが期待できます。
実際に撮影してみると、オートHDRも併用することでかなり粘り強くダイナミックレンジを残してくれます。HDRの不自然な派手さは抑えめで、明暗のバランスのよい写真を撮影できます。
全てを明るくして平坦になるHDRに比べて、暗部を暗部として残す撮影で、リアリティのある描写になります。基本的には、カメラっぽい暗所を生かした撮影になりますが、スマホカメラらしい画で撮りたい場合は、画面の暗部をタッチしてAEを合わせると、明るめの露出になります。
露出はオート任せで問題ありませんが、当然シーンによっては望み通りにはならないので、その場合はタッチAEで露出を補正します。このUIは標準的なのですが、個人的にスマホカメラの露出補正のUIはもっと簡単になればいいと思っています。
夜景モードも強力です。オートモードだと、シーンによってAIが自動認識して夜景モードになります。シャッターボタンを押して1秒ほど待たされるので、連写合成をしているようです。ただ、手ブレ補正機能はなく、前モデルと同様に手ブレはそれなりにするので、きちんと構えることは必須です。
ノイズリダクションはさらに改善している印象で、ノイズ処理は強めですが、ISO2000を超えてもスマートフォンとして十分実用レベルの画質となっています。派手にならずに見栄えのする夜景撮影が可能です。
レンズはナノコーティングによる低反射処理をしているといいますが、夜景で画面内に電灯がある場合など、光がにじんでしまったり、太陽光を画面内に入れるとフレアやゴーストも出るようです。前モデルでも同様に出ますし、仕方のない面はあるのですが、撮影時には少し工夫をした方が良さそうです。
期待のAFでは、被写体に対して一直線に、スピーディに合焦します。前モデルのピント位置を探す前後の動きがなくなり、高速化しています。標準ではAFフレームは表示されないようです。スマホカメラとしては普通のことですが、合焦したかどうかが分からず、個人的には欲しいと感じました。
画面上をタッチするとAFが動作しますが、スマホカメラで一般的な大きなAFフレームです。ただでさえレンズが大口径で被写界深度が浅いのに、1インチセンサーを搭載したことでさらに浅くなっているため、もっと枠の小さいピンポイントAFを使いたくなります。
「マルチフォーカス表示」を選択すると画面内に複数のAFフレームが表示されます。このマルチフォーカス表示だと、小さなAFフレームが複数画面上に表示されるので、ピント位置は分かりやすくなります。これが1点AFとしても使えればいいのですが。
AF精度は、スマートフォンの位相差AFとしては標準的という印象です。つまり、常にジャスピンというほどではありません。特に今回はピント精度が要求されるため、等倍まで拡大すると微妙にピントが外れているシーンもあります。
これは、シャッターボタンを押した瞬間の手のブレや、短くなったとは言えレリーズタイムラグが影響している面もあるかもしれません。ただ、これ自体はスマホカメラでは一般的なので、ことさらAQUOS R7のピント精度が悪いとは感じませんでした。
連写性能は大幅に改善されています。AQUOS R6の場合、ひたすらシャッターボタンを連打しても、シャッターが指の動きに付いていけませんでした。結果として、テストで20秒間の連打をしたところ、19枚しか写真が撮れませんでした。
それに対してAQUOS R7は、指の動きに完全についていってくれるので、押せば押しただけ写真が撮れます。20秒間で85~90枚(指の動き次第)の写真が撮れたので、その連写性能は段違いです。
どちらのモデルもシャッターボタンを押し続けると連写モードになり(設定で変更可能)、その場合は高速ですが、レリーズタイムラグとシャッター間隔という意味では、AQUOS R7が圧倒的に高速化されています。
両機種とも「オートHDR」機能がありますが、これをオンにしていると連写性能が落ちて、さらにAQUOS R7でも連写しているうちに処理が追いつかなくなるのか、シャッター間隔が開きます(AQUOS R6で11枚、AQUOS R7で48枚)。動体の撮影時にはオートHDRはオフにした方がいいでしょう。
オートHDRで撮影した場合は、撮影後に画像を確認しようとすると「処理しています」という表示が出ます。おおむね1秒程度で終了しますが、まれに長時間にわたって処理中の表示が出ることもありました。
また新たに、タッチした被写体を追尾する「追尾フォーカス」も搭載されました。AQUOS R6ではAFスピードが追いつかなかったためか、この機能自体が存在しません。AQUOS R7では、実際に使ってみても実用的なスピードで追尾してくれます。
ズームのUIが、スワイプで操作できることをきちんと示すような表示に変わった点も使いやすくなりました。AQUOS R6でもズームボタンをスワイプすることでデジタルズームができたのですが、アイコン長押しが必要だったのと、動きがもっさりとしていたのが弱点でした。AQUOS R7では、スワイプすればすぐさまズームになり、ズーミングの動きも機敏になりました。超広角から望遠まで素早いデジタルズームが可能です。
レンズは、従来通り35mm判換算19mmの超広角、24mmの中央切り出し+ピクセル補完という形のシングルカメラで、それ以上の倍率も同様の動作です。ただ、4倍の時点でピクセルビニングを解除して、4,720万画素の中心を切り出してピクセル補完するデジタルズームに切り替わるそうです。
デジタルズームの4倍は4,720万画素の中央切り出しとはいえ画素数がかなり減ります。それをピクセル補完しているので、それなりに画質は悪化します。ただ、4倍ぐらいならば思ったよりも良く描写してくれます。最大倍率は6倍と抑えめで、荒れた画にはなりますが、無理はしていないので、スマホ画面であれば使えそうです。
全体的に、パフォーマンスが通常のスマホカメラと変わらないレベルになり、カメラとしては完成度が高まりました。触っている限りは、1インチのセンサーを搭載しているとは感じませんが、実際に撮影してみて、画像を見返すとそのボケ感や余裕のある描写に安心感があります。
ピントや手ブレは注意が必要で、今までのスマホカメラの気分だと失敗することもあるかもしれません。まあ、これまでのスマホカメラも拡大すると結構失敗が多いものですが、意外にスマホ画面では気付きません。スピーディに動作するため、バシバシ撮るといいでしょう。楽しんで撮影できるカメラに仕上がっています。
とにかくハイスペックが欲しいというユーザーであれば間違いのないスペックです。OSはAndroid 12ですが、例えばクイック設定でWi-Fiとモバイル通信が一体化した標準仕様から、Wi-Fiのみをタッチで即座にオンオフできるようにカスタマイズされていたり、AQUOSの独自機能であるAQUOSトリックを搭載したり、つか安くなるような工夫も盛り込まれています。
そして、とにかくカメラの完成度が上がり、1インチセンサーの威力を体感できるスマホカメラとなりました。一昔前のパナソニックLUMIX DMC-CM1のように、UI面でカメラ機能をもう少し強化してもよかったように感じましたが、普通のUIになっている分、「普段使いもできる実はスゴいヤツ」という印象でした。
センサーの変更でカメラ機能の完成度が増したAQUOS R7。ちょっと変則的なXperia PRO-Iを除けば、実用的な1インチスマホカメラが実現された印象です。日本ではAQUOS R7、中国ではXiaomi 12S Ultra、そして世界にはライカの「LEITZ PHONE 2」が出れば完璧な布陣と言えそうです。個人的には、今回のセンサーを使った高倍率の高級コンパクトデジカメが実現されないかと淡い期待を抱きたいと思います。