その結果、ヘリンボーン構造を持つC10-DNBDTにおいて、SHOMOやTHOMOの混成を取り込むことで、より高精度に平面波基底の計算結果を再現することが判明したという。
特に、価電子バンド頂上の形から算出された正孔の有効質量(m*)を比較すると、分子軌道混成が効果的かつプラスに影響したといえるという。この結果から、フロンティア軌道だけでなくそれに次ぐ分子軌道をうまく設計することで、有機半導体の移動度向上を図れることが解明されたと研究チームではするほか、DNBDTの中央のベンゼン環をピラジン環に置き換えた新規N字型パイ電子系BNTPを設計・合成したところ、結晶構造解析から、置換基としてアルキル基またはフェニル基を導入することで、一次元的なパイ積層構造からヘリンボーン構造まで結晶構造制御できることが確認されたとしており、中でもフェニル置換基をさらにアルキル基で修飾した「C10Ph-BNTP」の価電子バンドが計算された結果、C10Ph-BNTPにはより顕著な分子軌道混成が内在しており、C10-DNBDTの約2倍効果的に働いていることが推定されたとする。
なお、分子軌道混成を考慮して計算されたm*の値2.03は、考慮なしで計算された値3.18に比べて有意に減少しており、平面波基底で計算された値1.43に近づいたことが確認されたとする。実際に塗布法を用いてC10Ph-BNTPの単結晶薄膜トランジスタを作製したところ、大気下で9.6cm2/Vsが観測されたという。
今回明らかとなったHOMO/SHOMO/THOMOの分子軌道混成は、(1)HOMO/SHOMO、HOMO/THOMO間の分子軌道エネルギーが近いこと、(2)HOMOとSHOMO、THOMOの軌道形状が似ていること、の2点に起因するものだという。C10-DNBDTやC10Ph-BNTPの場合、特にHOMO/THOMOの軌道形状が似ていることが分子軌道混成に寄与したとしており、この成果を踏まえ今後は、分子軌道混成を積極的に活用した新しい指針の下、高性能有機半導体の開発が発展し、有機エレクトロニクス分野の研究開発が加速することが期待されると研究チームでは説明している。