具体的には、キラルBPPの凝集状態の光物性を解明するため、クロロホルム溶液の蛍光スペクトルの濃度依存性が測定された。その結果、高濃度の溶液では、希薄溶液では観測されない長波長領域に新たな発光バンドが観測されたとするほか、真空蒸着膜の蛍光スペクトルにおいても、濃厚溶液で観測された長波長領域にブロードな発光が観測されたとのことで、研究チームでは、この長波長領域の発光は、BPPの凝集に由来することが考えられるとする。
また、溶液、薄膜における発光種を明らかにすることを目的に、希薄溶液、濃厚溶液および薄膜の時間分解蛍光スペクトル測定が行われたところ、濃厚溶液では希薄溶液と異なり、少なくとも2種類以上の化学種の存在が示唆されたとする。発光種の寿命を評価したところ、希薄溶液では単一分子からの発光であるのに対して、濃厚溶液では分子間π-π相互作用による二量体およびエキシマーが発光種であることが判明したとするほか、薄膜のスペクトルは溶液とは異なり、長波長領域にブロードな発光が観測されたとのことで、これは蛍光寿命の解析から、薄膜でも二量体および弱く相互作用したエキシマーが発光種であることが判明したとする。
さらに、円二色性(CD)およびCPLスペクトルの測定から、高分子分散膜やKBrペレットと同様、真空蒸着膜においてもCDおよびCPLスペクトルが観測されたほか、薄膜状態では二量体やエキシマーが形成されていることから、単一分子および二量体についての量子化学計算が行われたところ、単一分子では電気遷移双極子モーメントが大きく、磁気遷移双極子モーメントはほぼゼロであったのに対し、ねじれて積層した二量体では、電気遷移双極子モーメントおよび磁気遷移双極子モーメントの双方が値を持つことが判明。それぞれのモーメント間の角度は、180度に近い値であることも確認されたという。
これらの結果は、キラルBPP薄膜においてBPP分子がキラルな凝集構造を取ることが、同物質のキラルな光学特性の原因であることを示すものであると研究チームでは説明しており、これらの知見をもとにキラルなBPPをCPL発光材料とした有機ELデバイスを作製したところ、簡単なデバイス構造であるにもかかわらず、電界円偏光発光の観測に成功したという。
なお、研究チームは今後、多層構造のデバイスを検討することによりEL特性の最適化を行うと共に、分子間相互作用を制御することによって円偏光特性の向上を目指すとしているほか、今回の成果について、AIEnh-CPL材料を発光材料として用いたCP-OLEDの開発研究に有益な情報を与えるものであり、より高性能なCP-OLEDの開発に貢献することが期待されるとしている。