ガーミンジャパンは、ランニングGPSウォッチ「Forerunner 955」および「Forerunner 255」シリーズを6月16日に発売する。今回は発売前にこれらの実機に触れる機会を得たので、背景情報やインプレッションについてお届けしたい。
ブランド名を「Forerunner」へ切り替えた理由は?
「走る」と一言で括っても、その習慣は多様だ――。健康のために週に数回のスロージョグを嗜む人がいれば、スタミナをつけるためにタイムを気にして走る人もいる。ハーフマラソンや市民マラソンの出場と完走を目標にする者がいれば、なかにはトライアスロンで226km以上を移動できる“鋼”の肉体を持った競技者だっている。しかし、どれも「走る人」には変わりない。
ここで改めて説明するまでもなく、昨今のスマートウォッチ・ランニングウォッチ市場には、さまざまな製品がある。そんななか、「Garmin(ガーミン)」が展開するウォッチといえば、どこか「ハイレベルなランナー」のための製品というイメージがあったかもしれない。同社のスポーツ・ランニング向けのシリーズが「ForeAthlete(フォアアスリート)」というブランド名だったことも関係あるだろう。
しかし、実際には、同ブランドからも手頃なエントリーモデルは多数展開されてきた。たまにファンラン(Fun Running:楽しんで走ること)をするのが精一杯の筆者のようなランナーでも親しみやすい選択肢はたくさんある。
そんななか、ガーミンジャパンは「もっと敷居を下げて、いろんなランナーに手をとってもらいたい」と動いたわけだ。新製品において、ブランド名をこれまでの「ForeAthlete」から、新たに「Forerunner(フォアランナー)」へと変えた。
ちなみに、ガーミンジャパンによれば、米国ではもともと同ブランドは「Forerunner」で展開されていて、「ForeAthlete」として展開していたのは日本側の事情だったらしい。もしかすると、ブランド名を決めた当時の日本市場では「ランナー」=「競技者」という認識が強かったのかもしれない。
しかし、冒頭で述べたとおり、いま「ランナー」と聞けば、多様なライフスタイルがイメージできる。米国で長く支持されてきた「健康や自己管理の象徴としてのランニング」という文化が、日本にも徐々に浸透してきたゆえの変化なのだろうか。
Forerunner 955のタッチ操作が嬉しい
さて、具体的にForerunnerとして発売されるのは、ハイエンドの「Forerunner 955」シリーズと、カジュアルなランナーから競技者まで幅広くターゲットにした「Forerunner 255」シリーズの2種類だ。
それぞれのシリーズには派生モデルも用意されている。たとえば上位の955ではソーラー充電を併用してバッテリー持ちを少し伸ばせる「Forerunner 955 Dual Power」が、下位の255ではサイズのコンパクトな「Forerunner 255S」や、音楽再生機能を備えた「Forerunner 255 Music」などが選べる。
新製品の概要については既報にて紹介しているので、気になる方はそちらをご覧いただきたい(Forerunner 955シリーズ、Forerunner 255シリーズ)。
モデルのバリエーションに限らず、腕に装着してみると、シリコーン製のバンドは肌触りがよい。ケース部裏面も金属が肌に触れないようになっており、金属アレルギーが気になるような人でも使いやすそうだ。従来シリーズから踏襲されている特徴ではあるが、スポーツシーンでの利用はもちろん、日常使いでも安心だろう。
ランニングウォッチをうたっているだけあって、重さも軽い。1.1インチモデルの「255S」なら39gほど、1.3インチの「255」なら49g、1.3インチの「955」は53gだ。スマートウォッチとして60g前後でも、十分軽いと感じるレベルであり、30g台なら最軽量クラスだ。どのモデルを選んでも、ランニング時にランナーの意識を邪魔する心配はないだろう。
特に魅力的に感じるのは、上位モデルの955シリーズが文字盤のタッチ操作に対応したことだ。たとえば、文字盤画面を上下にスワイプして、メニューを探し、タップで選択できる。
そもそも今までのForeAthleteシリーズは、watchOSやwear OSのようにタッチ操作をメインにしたスマートウォッチとは異なり、ボタン操作が必要なウォッチだった。ユーザーはケースの左側に3つ、右側に2つ備わったボタンを押して、コントロールする必要がある。階層の深いメニューを操作するには慣れが必要だ。
しかし、955に限っては、タッチ操作で感覚的に扱える。これが後述するような新機能との相性を良くしていると感じる。
運動と日常をつなげる新機能が多く加わった
Forerunnerシリーズで追加された新機能は、かなり多岐にわたる。
たとえば、(1)複数の衛星と同時に連携して高い精度で位置情報を取得できる「GNSSマルチバンド」への対応や、(2)ウォレットサービスの「Garmin Pay」を経由した「Suica」支払いへの対応、(3)トレーニングの回復状況を可視化する機能などは特に印象的だ。
なかでも、2020年6月にGarminが買収したフィンラインドのFirstbeat Analytics社のデータ分析ノウハウが影響している新機能には注目したい。具体的には、「HRV」(睡眠中の心拍変動)の計測からその日の健康状態を数値化して教えてくれる機能などが追加されている。
さらに、上位の955シリーズに関しては、睡眠、睡眠履歴、リカバリータイム、HRVステータス、トレーニング負荷、ストレス履歴などのデータから、その日にトレーニングをすべきか、休むべきかといった情報を0~100の数値として可視化できる「トレーニングレディネス」という機能も追加された。
要するに、“ランニングGPSウォッチ”という位置付けでありながらも、日常で取得するライフログデータを、トレーニングを進めるうえでの判断材料として役に立つ形に加工してくれるわけだ。そのため、特にForerunner 955については、“走らないときでも装着し続ける”というのが、重要になる。ワークアウトの計測機器をベースに日常使いへと拡大しているアプローチは興味深い。
そして、先ほどの話に戻るが、Forerunner 955シリーズはタッチ操作やSuicaに対応。日常使いでも軽やかに扱えるウォッチに仕上がっているわけだ。ユーザー体験のゴール地点を具体的にイメージして、よく練られた良い製品だな、と筆者は感じた。
ちなみに、上述した部分では、あまり触れなかったが、ワークアウト関連で追加された機能も膨大で、ここでは語りきれない。
たとえば、7日間のトレーニングメニューがレコメンドされたり、レースなどの目標に向かってトレーニングのヒントや予測タイムを確認できたり、ランニング中のインターバルとして歩行したタイミングをデータで確認できたりする。
さらに、別売の周辺機器と併用すれば、体調や地形に影響されずに、ランナーの絶対的なパワーを可視化できる指標「ランニングパワー」の取得も可能だ(ランニングパワーの計測は、Apple Watchも次期OSで計測できるようになると発表しているなど、市場としてトレンド感のあるキーワードでもある)。
また、上位モデルの955シリーズに関しては、現在のペースであとどのくらい走れるかという目安を可視化する「リアルタイムスタミナ」という機能も備わっており、トレーニング中やレース中のスタミナ配分をするうえで役立つという。これもぜひ試してみたいと思える魅力的な機能だ。
上位モデルの価格は、Forerunner 955が74,800円、Forerunner 955 Dual Powerが84,800円と決して安くはない。しかし、スマートウォッチ市場を見渡しても、ここまでワークアウトに力を入れたアプローチはユニークだ。これから市民マラソンにチャレンジしたいというタイミングで検討するにはとても面白い候補だろう。ひょっとすると「買ったからにはしっかり走らなければ……」という思いが、ランナーの背中を押すかもしれない。