東京大学(東大)と日本医療研究開発機構(AMED)は、がん細胞からiPS細胞の樹立が困難であることの原因が不明だったが、希少難治性がんである明細胞肉腫(CCS)のマウスモデルを利用することで、がん細胞で活性化している細胞内シグナル経路がiPS細胞化を阻害していることを明らかにし、さらにがん細胞のiPS細胞化抵抗性から分子標的薬のスクリーニング法を開発することに成功したと発表した。
同成果は、東大 医科学研究所 附属システム疾患モデル研究センター 先進病態モデル研究分野の伊藤謙治特任研究員(現・米・ペンシルベニア大学 Postdoctoral Fellow)、同・長田巧平客員研究員(富山大学 第三内科 大学院生)、同・太田翔助教、同・山田泰広教授らの研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンス全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Cell Reports 」に掲載された。
がん細胞は細胞にDNAの配列異常が起こることで、細胞内シグナル経路が活性化した結果として生じると考えられている。実際、その経路を標的にした分子標的療法は、がん細胞を選択的に殺すことが可能で、効果的ながん治療法の1つであると考えられている。
しかし、多くのがん種において分子標的薬を同定できていない点という課題があるため、それぞれのがんで治療標的となるシグナル経路を同定する方法の開発が望まれている。
そこで研究チームは今回、がん細胞が持つiPS細胞化抵抗性に関わる分子メカニズムの解明を目指した研究を実施。それによって得られた知見をもとに、それぞれのがんに対応した分子標的薬を同定するスクリーニング方法の開発を目指したとする。
明細胞肉腫(CCS)の増殖・生存に必須なのが、「EWS/ATF1融合遺伝子」の働きであり。同遺伝子から作られるEWS/ATF1融合タンパク質がDNA上に結合し、さまざまな遺伝子を働かせることで、CCSが発生することが知られている。
研究チームは先行研究で、EWS/ATF1融合遺伝子の働きを調節可能なマウスモデルからCCS細胞株の樹立に成功しており、今回は同細胞株に対し、細胞初期化因子を働かせることでiPS細胞の樹立が試みられ、EWS/ATF1融合遺伝子が働いている条件下ではiPS細胞の樹立効率が極めて低い一方で、その働きを止めるとiPS細胞を樹立できることを確認したという。