4月1日、KDDIとWILLERのジョイントベンチャーとしてCommunity Mobilityが設立されました。すでにスタートしているエリア定額乗り放題サービス「mobi」を本格展開するための会社です。
いわゆるMaaS(Mobility as a Service)の一種であるmobiは、バスやタクシーなどの既存の公共交通機関と何が違うのか、そしてどんなビジョンを描いているのか。4月21日に開催された設立発表会で将来像を聞きました。
そもそも「mobi」とは何なのか
公共交通に携わる企業や自治体関連のニュースでは、ここ数年は非常によく目にするトレンドワードとなっているMaaS。やや抽象的で難しい概念ではありますが、簡単に言えば、さまざまな移動手段を比較検討してバラバラに手配するような手間をなくし、「移動というひとつのサービス」のようにまとめ上げてシンプルに使えるようにする仕組みづくりのことです。
一口にMaaSと言ってもいろいろな切り口があり、たとえば乗換案内の会社や鉄道会社なら、ルート検索からチケットの予約までをアプリ上で完結させるようなワンストップ化の取り組みが多いです。
Community Mobilityが取り組んでいるのは「オンデマンドバス」というタイプのサービスで、いわばバスとタクシーの中間。決まったルートを時刻表通りに走るのではなく必要なときに必要な場所に呼べるタクシーの長所と、複数の利用者が乗り合わせることで低コストに移動できるバスの長所をあわせ持つ新しい移動手段が「mobi」です。
タクシーのようなドアツードアの移動ではなく決められた停留所間を結ぶ移動となること、乗り合い方式のためタクシーほどの速達性はないことを踏まえると、どちらかといえばバス寄り。いつでも呼べる小回りの利くバスと考えると分かりやすいかもしれません。
mobiは半径2km程度のローカルな生活圏での利用を想定しており、30日間5,000円という定額料金で何回でも乗れます(300円/回の都度払いも可能)。さらに、乗り放題会員なら500円/人で家族会員を追加でき、日常の足として安価に普段使いできる料金設定となっています。
通信/ITで効率化、単なる移動手段に留まらない展開も
元々はWILLERの一事業として2021年6月に始まったmobiですが、2022年1月からはKDDIとの共同提供となりました。そして4月からは両社が出資する合弁会社が事業主体となり、新体制で全国への本格展開を目指します。
通信会社が公共交通に参入するのは突飛なことにも思えますが、mobiの仕組みやコンセプトを考えると必要不可欠な存在です。まず需要に合わせて運行ルートが変動する仕組みである以上、車載の通信機器がなくては始まりません。
利用者の予約状況に応じた配車やルート決定もシステマティックに行われています。スマートフォンの位置情報による人流データも活用して需要を把握しながら、「AIルーティング」という技術で効率的に多くの利用者を運べるように指示が出されます。なお、実際の運行業務は各地の提携タクシー事業者が行っています。
求められた移動手段を提供するだけの受け身のサービスでは終わらず、新たな需要を掘り起こして地域の活性化やコミュニティ作りにつなげることがmobiの目標。他業種とのコラボにも力を入れており、まずはイオン(ショッピングセンター)、イーオン(英会話教室)、吉本興業とのコラボが発表されました。
どのような形式でサービスを提供するのかは後日あらためて発表予定ですが、たとえば英会話教室なら子どもの送り迎えをする家族の負担を軽減することで生活の自由度が増すでしょう。吉本興業とのコラボについては、全国47都道府県に所属芸人が住む「住みます芸人」というプロジェクトと連携し、外出機会そのものを生み出す参加型イベントが計画されています。
地域に合わせたカスタマイズが強み
2022年4月時点では、mobiのサービス提供エリアは東京都渋谷区、東京都豊島区、名古屋市千種区、京都府京丹後市、大阪市北区、大阪市福島区の6エリアです。2021年6月の提供開始以来、乗車回数はのべ約4万回に達します。
現在サービス化を検討しているエリアを含めると22地域に増えますが、Community Mobilityの村瀬社長は、まだエリア数や乗車回数、収益などの数字を追う段階ではないと語ります。均質なサービスをただ全国に広げていくのではなく、地域ごとの課題やニーズに寄り添った丁寧なサービス設計にこそmobiの強みがあるためです。
オンデマンドバスは低コストかつ柔軟な運用ができるため、一般的には「既存の公共交通機関はコストの問題で導入できない過疎地だが、高齢化による免許返納などで自分で移動できない人が増えている」というような課題を抱える地域で候補に挙がる場合が多いです。しかし、mobiの導入エリアは過疎地ばかりではなく、都市部も含めて幅広く対応しています。
提供予定エリアと導入目的をかいつまんで紹介すると、たとえば意外なところでは東京都港区が導入予定。導入理由は「地下鉄や都バス路線が存在しているものの、白金・高輪地域内のきめ細かい移動手段が少ない」「新駅(高輪ゲートウェイ駅)までの交通が不足している」といった内容で、既存の公共交通機関を補完するラストワンマイルの役割を担います。また、奈良県の事例も特徴的です。こちらは地域住民向けではなく旅行者向けに、点在する観光施設と鉄道駅を結ぶ計画です。
提供中のエリアにおけるデータでも、実はオンデマンドバスのメインターゲットとして語られることが多い高齢者の利用には偏っておらず、特に都市部のエリアでは子どもの通学や習い事に使われている割合が高いそう。画一的ではなく地域ごとにカスタマイズしたサービスを提供することで、幅広いニーズをすくい上げられるポテンシャルがあります。
今後の展開予定と課題
今後の展開予定エリアは、北海道根室市、北海道室蘭市、秋田県大館市、新潟県佐渡市、東京都渋谷区、東京都豊島区、東京都港区、千葉県旭市、名古屋市千種区、三重県明和町、京都府京丹後市、大阪市北区、大阪市福島区、大阪府富田林市、奈良県、香川県三豊市、香川県琴平町の22エリアです。
すでに提供中のエリアも含めたのは「継続予定」という意味。このサービスの継続性こそが現状の課題であり、事業として本格的に全国展開していく上では乗り越えなければならない壁となっています。
道路運送法の上では、mobiのようなサービスは「一般乗合旅客自動車運送事業」の中の「区域運行」という種類に当てはまります。この運行形態での参入には、地域公共交通会議という場で関係各所の合意を得る必要があるのです。実際に、豊島区でのサービス開始時にはタクシー業界からの反発を受けて延期を余儀なくされています。
現状展開している6エリアについては1年間の社会実験という形で運行を実現しており、6月以降に順次期限を迎える各エリアで今後もサービスを継続できるとは断言できないところです。
認可の問題はさておき、mobiの今後の展開には希望も見えます。冒頭のMaaSの話に戻ると、複数の移動手段をつなぎ合わせてシームレスかつ快適に利用できるというような、先進的なMaaSを実現できる素質がmobiにはあります。
WILLERといえば高速バスを思い浮かべる方が多いかと思いますが、実は2015年から鉄道事業も行っているのです。今回の会見では具体的なプランは明かされませんでしたが、WILLERが運行している京都丹後鉄道はまさにmobiのエリアでもある京丹後市を走っています。WILLER EXPRESSのバスで京都に行き、鉄道とオンデマンドバスを組み合わせて“海の京都”を観光するというような一連の移動をワンパッケージで提供できる可能性は高く、今後の展開に期待です。