速写性能の高さでミラーレス市場をけん引してきたソニーの「α」シリーズ。撮影シーンを広げるべく、撮影機材の1つとしてソニーが投入したのが純正ドローン「Airpeak S1」です。αシリーズが積載でき、フルサイズ画質での空撮を可能にするAirpeak S1、意外にも犬型ロボット「aibo」や電気自動車「VISION-S」と同じロボティクス開発部門で生み出された“親戚”ともいえる存在だそう。ソニーの技術を詰め込んだ注目ドローンの特徴や実力をチェックしました。

  • αを使った空撮が楽しめるソニーの高性能ドローン「Airpeak S1」。実売価格は約110万円で、別途保守などの契約が必要になります

AIやロボティクスなどソニーの技術を生かして開発

映像や写真の世界では、ドローンはいまや欠かせない存在となりました。テレビや映画などでは、ドローンで撮ったと思われる空撮の映像をよく見かけますし、写真でもこれまで不可能だったポジションから被写体が狙えることから、積極的に使いこなすカメラマンも少なくありません。

ところが、映像・写真撮影用のドローンは、広く一般に売られている民生用も大型の業務用も、ほぼ中国DJI社の独占状態となっています。そのような状況で登場したのが、ソニーの「Airpeak S1」です。αシリーズのミラーレスカメラを使った映像と写真の撮影に特化した大型ドローンで、プロの映像制作者のみならずアマチュアの愛好家からも注目を集めています。

  • 細身ながらかなりの大きさがあるAirpeak S1。搭載されているα7S IIIと比べると大きさが分かります。専用プロポ(右)と組み合わせて利用します

  • 一般向けドローンである「DJI Mavic 3」(右)との比較。機体の大きさの違いは当然ですが、プロペラやモーターなどの大きさも大きく異なります

では、なぜソニーがドローンを作ったのでしょうか。国産のドローンは、これまで農薬散布や輸送、構造物の点検管理などを主な用途とする大型の業務用モデルがほとんどで、一般の写真ファンにはなじみの薄いメーカーの製品ばかりでした。そのような国産ドローンの世界に、日本を代表するメーカーであるソニーが参入したことは、ちょっと驚かされます。

同社が参入したきっかけは、AI、ロボティクス、センシングなど、ソニーが持つ技術ノウハウを活かす製品の開発チーム「AIロボティクスビジネス部門」の存在が大きいといいます。同部門は、これまで犬型ロボット「aibo」や電気自動車(BEV)「VISION-S」の開発を行っており、その第3弾となるのがAirpeak S1だったのです。

  • ソニーの犬型ロボット「aibo」

  • ソニーの電気自動車(BEV)「VISION-S」

機材はジンバル込みで2.5kgまで積載可能

Airpeak S1を大型としたのは、レンズを装着したミラーレスαを積載できる能力を確保するだけでなく、メンテナンスや管理のしやすさなどを考慮した結果であるとのことです。カーボンなどの軽量素材を随所に用いており、機体の軽量化も積極的に図られています。ちなみに、プロペラの枚数は4枚。撮影用の大型ドローンでは6枚や8枚のプロペラを持つものもありますが、バランスを考えてこの枚数にしたとのことです。

ペイロードと呼ばれる最大搭載可能重量は2.5kg。搭載するカメラやレンズ、ジンバルを合わせた重量の合計は、このなかに収める必要があります。フル充電時のバッテリーの持ちは、ペイロードなしの状態で約22分、広角レンズ「FE 24mm F1.4 GM」を装着した「α7S III」に、純正扱いとなるGremsy社製のジンバル「GBL-T3」をペイロードした場合は約12分となるそうです。ちなみに、バッテリーは消費電力の関係から巨大なものを2つ搭載していますが、電源をシャットダウンせずにバッテリーを1つずつ取り外して交換できるホットスワップに対応しています。

  • 重量制限があるので、装着できるレンズは限られます。デモ飛行では、FE 24mm F1.4 GMを装着したα7S IIIを懸架。ジンバルはGremsy社製ですが、純正扱いとなります

  • 通常のドローンはバッテリー交換の際に機体の電源を切りますが、ホットスワップに対応したAirpeak S1はその操作は不要。バッテリー交換中もGPS電波を捕捉した状態が保持でき、バッテリーの交換後すぐに離陸できるメリットがあります

搭載するカメラは、基本的にαシリーズが推奨されています。ドローンとはUSBケーブルで接続し、カメラからの映像のほか各種設定情報やカメラのバッテリーの状態なども操縦アプリ「Airpeak Flight」でリアルタイムに確認できます。Airpeak S1とαシリーズ、そしてフライトアプリのAirpeak Flightは、三位一体と考えてよいものです。

  • プロポや装着したiPadを用いた操縦自体は、一般的な民生用ドローンと変わりはありません

安全性能もしっかり確保、アプリで飛行ルートを設定可能

Airpeak S1の特徴は大きく3つ。飛行性能、安全性能、自動航行となります。

飛行性能ですが、最高時速はなんと時速90km! クルマや野生動物が走るシーンも余裕で追いかけられます。高い飛行性能から、風速20mの状況でも安定したフライトができるといいます。一般的な民生用ドローンの場合、風速5mを超える状況だと飛行を取りやめるのが賢明ですが、Airpeak S1は多少荒れた気象条件でも飛行できるのが頼もしく感じられます。もちろん、ボディは防塵防滴構造を採用。ソニーの担当者いわく「どのような状況でも、クリエイターが撮りたい絵が確実に撮れることを目指した」とのことです。

安全飛行に関しては、機体の上部と下部に赤外線センサーを、前後左右そして下部にステレオカメラを備えており、常に機体の周囲の状況を把握して衝突を回避します。大型のドローンでここまで徹底した安全装備は珍しく、大胆に被写体に迫った迫力ある映像や写真も安心して撮れそうです。

  • 前面部に備わるFPVカメラ(上)とステレオカメラ(下)。FPVカメラはAirpeak S1の操縦担当と撮影担当の2オペレーションで飛行させる時などに使用します

  • ステレオカメラは機体の前面のほか左右と後、そして下部に、赤外線測距センサーは機体の上部と下部に備わります。周囲の障害物を認識し、自動で減速や停止ができるなど安全飛行のためには欠かせないデバイスです

自動航行は、有償のクラウドサービス「Airpeak Plus」を利用すれば可能です。高度な飛行プランをもとにしたフライトができ、飛行データは保存できるため、同じ航路、同じ高度、同じカメラアングルでの飛行がワンタッチでできます。季節を変えてこの機能で撮影すれば、まったく同じアングルで春夏秋冬の移り変わりが表現できる空撮映像が撮影できます。映像撮影に特化したドローンならではの機能と考えてよいものです。

  • フライトアプリAirpeak Flightであらかじめ設定したコースをマップ機能で確認するパイロット。Airpeak S1はコースに対し極めて正確にトレースします

Airpeak S1をフライトさせた印象としては、まず安定度がとても高いことが挙げられます。フライト時には風速6~7mの強い風が吹いていましたが、機体のフラツキは皆無。ノーズインサークルのような微妙なコントロールが要求されるような飛行も、パイロットの思い描いたとおりの動きを見せてくれました。急旋回のような動きをさせても挙動が安定しており、オンザレール感覚で飛行が可能。パイロットのストレスは少ないように思えます。DJIなどのドローンと飛行に関する基本操作が大きく変わらないのも安心できる部分です。今回、初めて大型ドローンを操縦しましたが、フライトアプリの表示や細かな機能などを除けば、これまでと同じ感覚や要領でフライトできるように思えました。

  • 離陸するとすぐに自動的にランディングギアが上がり、パン操作による映り込みを抑制します。着陸時も自動的にランディングギアが下がるため、操縦に集中できます

  • 本格的な撮影用ドローンの証というべき、操縦と撮影を分担して二人で行ういわゆる"2オペ"での使用も可能。操縦側と撮影側のコントローラーは同じものですが、撮影側のコントローラーではスティックを使ってカメラの向きを変えられます

【動画】Airpeak S1で撮影した動画。安定感がありつつ、スピード感のある動画が撮れる

Airpeak S1の登場は、国産ドローンの今後を占ううえでとても重要なポイントになるように思えます。映像関連の機器を手がけるソニー自身が作ったこと、アプリを含め撮影用ドローンとして十分な機能を持つシステムであること、安全飛行のための装備も不足がないことなどがその理由です。それを実証するかのように、発売から順調に売れゆきを伸ばしているといいます。今後、映像や写真の撮影現場などでAirpeak S1が活躍する機会は確実に増えていくでしょう。

私たちが気になる一般向けの民生用ドローンの販売予定について尋ねたところ、「ファンの期待を裏切らないようにしたい」「ドローンが登録制になったり、飛行ライセンスが必要になるなど、法律や飛ばせる環境の整備が整えば、その可能性は少なくない」とのことでした。これらからもソニーのドローンに注目していきたいと思います。

  • 待望のソニー製大型ドローン、Airpeak S1。オプションを入れると200万円近い価格となりますが、その魅力は価格以上。国産ドローンの今後を占うものでもあります