音波を振動に変え、骨を震わせて聴覚神経に伝える「骨伝導」。この技術を採用したヘッドホンは耳をふさがず使い心地が軽快で、周囲が騒々しくても音量を上げる必要がなく、難聴予防にもなるなどメリットが多い。

  • Shokz(ショックス)にリブランド後、最初の製品となる骨伝導ヘッドホン「OpenRun Pro」

その骨伝導ヘッドホンの分野で気を吐くブランドが「Shokz(ショックス)」。これまでAfterShokzという名称で展開していたが、2021年の末にリブランドを決行した。その第1弾製品が「OpenRun Pro」(1月10日クラウドファンディング開始/直販23,880円)だ。音質や使い勝手など、最新型骨伝導ヘッドホンとしての実力を検証してみよう。

新生Shokzから、骨伝導ヘッドホンの新フラッグシップ登場

ひと昔前の骨伝導ヘッドホンといえば、耳をふさがない軽快さはあるにせよ音質に難があり、音楽鑑賞用にはとてもとても、という評価が一般的だった。確かに、骨伝導ヘッドホンが活躍するシチュエーションは、工場や工事現場、軍事方面などオーディオ以外と認識されていた時期がある。

しかし、ここ数年で状況は一変。音楽鑑賞にも耐えうる再生能力を持つ骨伝導ヘッドホンが続々登場、マイク搭載で音声通話/ビデオ会議にも用途は広がった。筆者はかつてのネガティブな印象からしばらく手を出さずにいたが、3年ほど前、とある機会に試したところ、あまりの音質向上に驚いたものだ。

そのとき試用したのが、他ならぬShokz(旧:AfterShokz)の「Air」。2018年に発売された同製品は、一般的な空気伝導ヘッドホン並みのダイナミックレンジを実現する「PremiumPitch+」、低音を増強するEQプリセットを用意するなど、音質を売りにしていた。筆者はその後、2019年発売のフラッグシップ機「Aeropex」や、2020年発売の「OpenComm」といった同ブランドの骨伝導ヘッドホンをひと通り聴くことになるが、音質重視の姿勢は一貫しており、骨伝導技術への並々ならぬ意気込みを感じたものだ。

今回取り上げる「OpenRun Pro」は、Aeropexの後継機種。深みのある低音再生を目指したという高音質技術「Shokz TurboPitch」をはじめ、5分の充電で最大1.5時間利用できる急速充電機能、自分の声をクリアに集音するデュアルノイズキャンセリングマイク、Aeropexと比べて20%小型化したボディなど、2年半にもおよぶ製品開発の集大成となっている。

  • OpenRun Proのトランスデューサー部(こめかみに接する部分)

デザインは基本的にAeropexを踏襲したモノトーン仕上げ。試用したブラックモデルは、ロゴを除いて微妙に異なる2色の組み合わせとなっている。

  • OpenRun Proのコントロール部。充電ケーブルは右側に接続する

Aeropexの設計を継承した、私物のOpenCommと並べてみたところ、一見瓜二つだがよく見ると違う。OpenRun Proはスポーツを意識したデザインで、細く突き出たブームマイクではなくトランスデューサー(こめかみに接する部分)内蔵のマイクを採用している。Shokzのロゴが刻印された左右のユニット部分はひと回り小さくなっており、そこが小型化に貢献していると思われる。

  • OpenRun Pro(左)とOpenComm(右)と並べると、コントロール部がひと回り小さくなっているのが分かる

装着感は上々。チタン製のネックバンド部はわずかな力で大きく開き、耳の上部に被さるU字部はシリコンが肌にやさしく摩擦がない。トランスデューサーの側圧は位置がズレない程度の絶妙な塩梅で、長時間の装着を考慮したものと思われる。日課のジョギングにも持ち出したが、汗を拭うときを除けばトランスデューサーに触れる必要はないほどだ。ちなみに防塵防水性能はIP55対応で、汗や小雨程度であれば問題ない。

操作用のボタンは3つ。1つは左側トランスデューサーに配置され、音楽再生時は再生/停止ボタンとして機能する。残り2つは右側コントロール部の底部に配置され、音量調整に利用できる。電源オン/オフとペアリングは音量+ボタンの長押しにアサインされており、間違えにくい。いずれも物理ボタンで、装着中でも押しやすい位置に配置されていて好印象だ。

  • 右側のコントロール部の底面に、電源オン/オフ兼用のボリュームボタンが配置されている

  • 付属のキャリングケースに収めたところ

音を聴いてみる。通話テストも

OpenRun Proの試聴は、iPhone 13 Proとの組み合わせを利用した。利用したソースは音楽ストリーミングサービス(Amazon Music)と動画配信サービス(Amazon Prime Video)、音声通話(FaceTime Audio)の3種類で、計約5時間OpenRun Proを一度も外すことなく実施している。

Amazon Musicでは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ「By The Way」からスタート。ファンキーパートのうねるようなベース、力強いスネアアタックをしっかり描き出し、迫力は十分。「Can't Stop」は冒頭のカッティングギターがキレよく、明瞭にセンターに定位するボーカルが小気味いい。低音の量感ときめ細かさという点では空気伝導ヘッドホンにゆずるが、耳をふさがないことによる開放感は他に代えがたいものがある。

続いては曲調を一転、ジャズ/ECM系音源に。キース・ジャレット&チャーリー・ヘイデンの「身も心も」は、ベースがやや大人しめで空気伝導ヘッドホンのときと印象は異なるが、ピアノの響きが存外にいい。フルボリューム付近で聴くとくぐもってしまうものの、音量を下げていくと透明感が出てくる。ふと思い立ち、キース・ジャレットのソロ作「The Melody At Night, With You」を聴いてみたところ、これがなかなか。「シェナンドー」あたりのゆったりした曲は心地よく、スピーカーリスニングのような感覚で楽しめる。

動画配信サービスで選んだのは『U・ボート ディレクターズ・カット』。駆逐艦に狙われるシーンを中心に鑑賞したが、セリフの聞き取りやすさがいい。轟音や爆音の類いはサブウーファーを備えたシアター環境と比ぶべくもないものの、ささやき声はしっかり聞き取れるし、潜水艦という密閉空間における臨場感も伝わる。『ファーゴ』などのドラマも確認したが、やはり会話部分が聞き取りやすく、テレビ用ヘッドホンとして活用するのもよさそうだ。

最後のテストは、FaceTime Audioを利用した音声通話。iPhone同士で通話してみたが、相手の声はクリアに、しかも違和感なく聞こえる。完全ワイヤレスイヤホンで音声通話するときには、片耳だけ装着するにしても耳周りの違和感は避けられないが、骨伝導ヘッドホンは耳をふさがないからノーストレス。相手にOpenRun Proを渡し、どのような声で聞こえるか確認したが、周囲の雑音に影響を受けずはっきりと声を伝えてくれる。Macで試したZoomのマイクテストも結果は良好で、テレビ会議に重宝しそうだ。

  • デュアルノイズキャンセリングマイクを内蔵しており、テレビ会議でも使えた。画像はZoom(Mac版)の設定画面

低域の量感・表現力が進化

私物のOpenCommを念頭に置いて試用してみたが、長時間装着してもズレがほとんど生じないなど、優れたホールド力やフィット感はそのままに、音質面での進化を実感した。特筆すべきは低域の量感と表現力で、空気伝導の密閉型ヘッドホンには及ばないながらも、ここまで低音が出ればまずまず満足。OpenCommでは低音域が物足りなかった“レッチリ”の楽曲も、OpenRun Proならじゅうぶんイケる。

それにしても、Shokzの骨伝導ヘッドホンは300Hz〜1kHzあたり、中音域の扱いが上手い。人間の声はクリアに聞こえるし、リップノイズのようなディテールもしっかり表現する。音声通話は相手の声の聞こえ方が自然なうえ、骨伝導なだけに周囲が多少騒がしくても聞こえるため、他のヘッドホンにはないアドバンテージとなりうる。

今回の執筆には間に合わなかったが、ナレーション言語の切り替えやファームウェアアップデートなどの機能を備えた専用アプリが準備中だという。イコライザを切り替える機能も実装されているとのことで、音楽鑑賞用の骨伝導ヘッドホンを検討している向きには安心材料となるはず。

ブランド名を一新し、新たな歩みを始めた「Shokz」。第1弾製品がこれだけの完成度となると、今後どのような製品を計画しているのか、骨伝導というホットなカテゴリだけに楽しみだ。