京都大学(京大)は11月22日、レーザーを用いて数十nKの極低温まで冷却された原子集団(冷却原子)を用いた新奇な量子輸送系を確立したと発表した。
同成果は、京大大学院 理学研究科の小野滉貴大学院生(現・同特定研究員)、同・高橋義朗教授、東京工業大学の西田祐介准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
近年のナノオーダーまで到達した微細加工技術により、ナノスケールの隙間を有する伝導体「量子ポイントコンタクト」の作製が可能となり、その量子ポイントコンタクト系での輸送現象を、冷却原子を用いて電子の動きをシミュレーションする研究も進められるようになってきたという。こうした、冷却原子を高精度に制御し、量子輸送現象を研究する分野は、アトム(原子)とエレクトロニクスをかけあわせた「アトムトロニクス」と呼ばれている。
研究チームは今回、従来手法とは異なる原子の内部自由度(アップスピン・ダウンスピン)を、電子系の空間自由度(左側・右側)に対応づける考え方である「人工次元」を用いて、スピン状態の時間変化は左側から右側への輸送とみなす、新しいアトムトロニクスのプラットフォームを確立することにしたという。
具体的には、光格子を用いて、S軌道原子とP軌道原子を閉じ込める方法が採用されたという。これにより、S軌道原子は1次元空間を自由に動き回り、P軌道原子は3次元的に局在するようなシステムを実現。実際に実験が行われたところ、P軌道原子によるS軌道原子のスピン状態の時間変化を観測することに成功。スピン流はオームの法則に従っていることが判明し、人工次元系での輸送現象の基本的な特性が明らかにされたとする。
また、P軌道原子数、磁場の大きさ、スピン状態を変えることで、スピン流が制御できることも実証したほか、今回の実験で使用したイッテルビウム原子の高いスピン自由度を活用することで、2スピン状態間量子輸送系から拡張し、3スピン状態間量子輸送系の実現にも成功したという。
なお、今回の成果について研究チームでは、人工次元を活用した新しい量子輸送系が実現され、新分野のアトムトロニクスにおいて新たなプラットフォームを提供したという点で意義があるとしている。今後は、人工次元を駆使することで、従来の方法では実現の困難なエキゾチックな量子輸送現象が観測できることを期待するとしている。