HTC NIPPONは11月11日、新型VRデバイス「VIVE Flow」を発表しました。先日グローバル発表されており、今回日本国内向けの投入が決まった形です。単体で手軽に利用でき、VRコンテンツへのアクセスをかんたんなものにすることを目標にしているとのこと。

発表に先んじてメディア向けの体験会が行われたので、今回はこの体験会についてお送りします。ざっくりとまとめると、かなり手軽に使えるよう配慮されており、肌に当たる部分は取り外しての手洗いも可能。メガネなしに使える珍しい機構も備え、なかなか個性的な一台に仕上がっていました。

  • VIVE Flow

VRをもっと身近にするデバイス

VIVE Flowは、これまで同社が手掛けてきた超高性能なVRゴーグル「VIVE Pro 2」や「VIVE Focus 3」とは違い、手軽に利用できることを念頭に開発されています。旧Facebook社がMetaへと社名を変更したように、昨今「メタバース」への注目度はうなぎのぼり。VIVEシリーズでもこの時流を逃さず、手軽にメタバースへのアクセスを行えるデバイスを投入したという形です。

  • “ひらめいたみたいに”

  • PCの前に座って取り組むのではなく、とにかく手軽なVRゴーグルとして開発されました

  • 手軽といえど、本格的な体験を訴求。視野角は100度あり、解像度は両目で3.2K、リフレッシュレートも75Hz確保します

なんと言っても、メガネが必要ない画期的な接眼レンズを搭載している点が大きな特徴です。接眼レンズはハーフミラーを組み合わせた複数のレンズで構成しており、ダイヤル調整によって“ある程度”視力を補正可能。VRゴーグルにおける視力問題はなかなか困難なポイントなので、ゴーグル側で対処してきたというのは進化を感じます。

筆者の肉眼視力が数字でいうとどのくらいかは忘れてしまいましたが、今回使ってみたところ、最大までダイヤルを回せばギリギリ補正しきれているような気がしました。筆者の近眼はそれほどでもないので、重めの近眼の場合は過度な期待はできないかもしれません。

  • 無段階焦点調整ダイヤルというのが視力補正機構のこと。かんたんに調節できます

この接眼レンズは本体の小型化にも寄与しており、ディスプレイから目までの距離を短くすることに成功しているとのこと。たしかにPC用の本格的なVRゴーグルとは違い、かなりスッキリとしたシルエットになっています。なお外側にカメラを備えているので、パススルー機能もしっかり搭載します。

  • 接眼レンズには「パンケーキレンズデザイン」という2枚のレンズを採用。ハーフミラーを組み合わせて目とディスプレイの距離を縮めています

装着はゴーグルのように頭からバンドを通して被るのではなく、メガネのようにツルを耳にかけることでさっと行えます。そのツルには特許出願中のダブルヒンジ構造が採用され、快適な装着感と折りたたんだ際の小型化を実現。耳の近くには空間オーディオに対応するスピーカーを搭載し、イマーシブなエクスペリエンスが得られるとのこと。ちなみに、Bluetooth接続で別途イヤホンやヘッドホンも利用できます。

  • ゴーグルというよりはメガネ型です

  • 2つのヒンジで装着性とコンパクトな折りたたみを実現

  • この内蔵スピーカーがかなり上質でした。音が頭の真ん中にしっかり定位して聴こえます

なお、使用には別途USB電源が必要です。体験会では机の上にポータブルバッテリーを置き、そこから給電して使っていました。本体内部にはホットスワップ用の小型バッテリーを備えているので、使用中に電源を切り替えることも可能。スマートフォン用の充電器を使えば、連続使用も行えます。

リンク・スタート!

トライセッションでは、発売前の実物を実際に試すことができました。まずクッションパーツを取り外してノーズピースを装着し、視力補正ダイヤルを調整。それからノーズピースをクッションパーツに交換し、VIVE Flowを装着します。たしかにゴツめのメガネといった感じで、頭からヨイショと被るVRゴーグルよりは段違いに手軽。使うのが面倒になってOculus Rift Sをすぐに手放した記憶が蘇りますが、VIVE Flowならもっと頻繁に使ってあげられそう。

  • まずはノーズピースを装着して視力を調整します。装着はマグネットで手軽

  • ダイヤルを操作して視力を補正

  • 終わったらより没入感の高いクッションパーツに交換します

コントローラー等は同梱されていないので、まずは適当なAndroid端末に専用アプリをインストールする必要があります。スマートフォンでアプリを起動し、ディスプレイを2本の指で長押しするとキャリブレーションが始まり、頭の位置が設定されます。

  • 推奨するAndroidスマートフォンはSnapdragon 765 / 865以上の性能が必要で、Android P(Android 9のこと)以降をインストールしている端末です。なお、現時点でiOSへの対応は全く未定とのことでした

ディスプレイが点灯し、さっきいたHTC NIPPONのオフィスからいきなり“メタバース”へと転移。この独特の体験はやはりVRデバイスの醍醐味だなと感じます。大変恐縮ですが、スクリーンショット等の撮影が行えなかったので、文字でのお伝えとなることご了承ください。

ディスプレイの解像度は両目で3.2Kもありますが、内蔵グラフィックスの性能がそれなりということもあり、映っている画面表示自体は割とローポリ感がありました。とはいえリフレッシュレートが75Hz確保されているので、視線移動の違和感はあまりありません。一点を鮮明に捉えようとするのではなく、全体的に見渡すような使い方がオススメです。

体験会では「Let's Create! Pottery VR」「STYLY」「Mona Lisa: Beyond the Glass」などのアプリを遊べました。Let's Create! Pottery VRはその名の通り陶芸を楽しめるタイトルで、ろくろの上で土が回る様子を眺められます。形を変えて焼成し、色を付けるとオークションにかけて販売するという流れ。デモでみたような美しい壺を作るのは相当なテクニックが要求されそうです。

  • 「Let's Create! Pottery VR」。画像はSteamのストアページにある動画から抜粋

続いて遊んだ「STYLY」は、ユーザーが制作したさまざまなコンテンツを体験できるというものです。しかし現時点ではやや荒削りなものが多い印象。今年中に追加されるという150以上のコンテンツに期待がかかります。

  • 「STYLY」はコンテンツのプラットフォーム。面白いゲームの登場に期待です

一方、仮想のルーブル美術館で名画『モナ・リザ』について学ぶ「Mona Lisa: Beyond the Glass」は大変興味深く、素晴らしかったです。激しく入場客で混みう合う現実の美術館ではなく、誰もいない大きな展示室を独り占め。モナ・リザに描かれた女性や、その背景、技法や歴史などについて音声での解説が行われるというもので、とても楽しめました。HTCが悪いわけではありませんが、解説音声の言語設定に日本語がなく、英語で聞くことになったのはやや残念。日本語でローカライズがされていれば、もっと多くの人に名画の魅力が伝わるのにと思いました。

  • 「Mona Lisa: Beyond the Glass」。画像はVIVEPORTから

スマートフォンでの操作はちょっと難しい

VIVE Flowの体験を通じてとても良く感じたのは、たしかに手軽に使えるように設計されていて、肌に触れる部分のメンテナンスなどがよく考慮されているところ。装着感もよく、1時間程度の体験会では快適に連続使用できました。一方でこれはダメだと感じたのは、スマートフォンを代用したコントローラーの操作性です。

スマートフォン代用コントローラーは、スマートフォンの頂点で画面(視界内のUI)をポイントして操作するというもので、この仕組み自体はVRにおいて割と一般的。しかし、問題はディスプレイを4つに区分けしたエリアをタップして「進む」「戻る」「メニュー」「ホームに戻る」を行うという点にあります。実際にやってみると、見えていないスマートフォンの画面をタップして操作するのは至難の業でした。「X」ではなく「+」で4等分されていればまた違ったかもしれませんが、この操作性がなんとかなればもう少し手軽さとアクセシビリティを高められそうな気がします。

  • 画面を「X」の字で4等分し、それぞれに別個の機能が割り当てられていました。なぜ「X」で区切ったのか、片手では画像でいうところの1と4がかなり押しにくかったです

VIVE Flowは今日11月11日から予約受付を開始しており、発売予定日は11月18日。メーカー希望小売価格は59,990円です。操作感には少し気になるところもありましたが、製品自体は手軽に使えるVRゴーグルとして新しいコンセプトをしっかり体現できていました。

  • マスクを付けてるとVRゴーグルが直接肌に当たりにくく、なかなか快適でした