探査機ルーシー

ルーシーはNASAのゴダード宇宙飛行センターと、米国の研究機関サウスウエスト研究所(SwRI)が主導するミッションで、NASAの小規模な宇宙科学プログラム「ディスカヴァリー計画」の枠組みで行われる。製造はロッキード・マーティンが担当した。

探査機の寸法は15.8m×7.2m×2.78m。木星以遠に赴く探査機としては珍しく太陽電池で駆動する。打ち上げ時の質量は1550kg、燃料抜きの質量は821kgで、すなわち機体の半分近くは燃料が占めている。予算は9億8100万ドル。

ルーシーは大きく、3つの観測機器を搭載しており、すべて過去のNASAのミッションで使用した機器を改良したものとなっている。

1つ目は「L'Ralph」という、カラーカメラと赤外線撮像分光計がセットになった装置で、前者は人間の目で見たときと同じような画像を取得でき、後者は小惑星に存在する氷や鉱物、有機分子などを分析するのに使われる。2015年に冥王星を探査した「ニュー・ホライズンズ」などに搭載された装置をベースにしている。

2つ目は「L’LORRI」という望遠鏡カメラで、小惑星を遠くから撮影したり、高速でフライバイする際にも撮影したりできる性能をもっている。この機器も、ニュー・ホライズンズに搭載された装置をベースにしている。

3つ目「L'TES」という熱放射分光計で、小惑星の表面の温度を測定する。この機器も、小惑星探査機「オサイリス・レックス」などに搭載された装置をベースにしている。

  • 木星トロヤ群探査機「ルーシー」

    打ち上げを待つルーシー (C) Lockheed Martin

ルーシーという名前は、1974年にエチオピアで発見された、約318万年前のアウストラロピテクスの人骨化石「ルーシー」にちなんでいる。ルーシーが人類の進化の歴史を紐解くにあたって大きな手がかりとなったことにあやかり、太陽系の誕生の歴史を解明するための手がかりをつかむという想いが込められている。

ルーシーを載せたアトラスVロケットは、日本時間10月16日18時34分(米東部夏時間16日5時34分)、フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル宇宙軍ステーションから離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約58分後にルーシーを分離。地球の重力から脱出する軌道に投入された。

ルーシーにはこのあと、12年間にもおよぶ大航海が待ち受けている。

まず2022年10月15日に、地球に接近。重力を使って加速(スイングバイ)し、軌道を変える。さらに2024年12月12日にも地球を使って軌道を変更、木星圏を向かう軌道に乗る。2025年4月20日には、道中にあるメインベルトの小惑星「52246 ドナルドジョハンソン(Donaldjohanson)」をフライバイ(接近・通過)探査する。

そして2027年8月12日から、木星の後方にある(狭義の)トロヤ群にある5つの小惑星のフライバイ探査を実施。その後、探査機は地球に接近し、3回目のスイングバイを行い、2033年には木星の前方にあるギリシア群小惑星を探査する。

この12年間の間に、探査する天体は8つにもおよぶ。前述した、機体の質量の半分にもおよぶ燃料は、この相次ぐ軌道変更のために使われる。

  • 2022年10月15日……1回目の地球スイングバイ
  • 2024年12月12日……2回目の地球スイングバイ、木星圏へ向かう軌道に乗る
  • 2025年4月20日……木星圏までの道中にあるメインベルトの小惑星「52246 ドナルドジョハンソン(Donaldjohanson)」をフライバイ(接近・通過)探査
  • 2027年8月12日……狭義のトロヤ群の小惑星「3548 エウリュバテス(Eurybates)」とその衛星「クエタ(Queta)」をフライバイ探査
  • 2027年9月15日……小惑星「15094 ポリュメーレー(Polymele)」をフライバイ探査
  • 2028年4月18日……小惑星「11351 レウコス(Leucus)」をフライバイ探査
  • 2028年11月11日……小惑星「21900 オルス(Orus)」をフライバイ探査
  • 2030年12月25日……3回目の地球スイングバイ、ギリシア群小惑星へ向かう軌道に乗る
  • 2033年3月3日……ギリシア群にある二重小惑星「617 パトロクロス(Patroclus)」と「メノイティオス(Menoetius)」をフライバイ探査

パトロクロスとメノイティオスの探査後、2033年中には電源を落とし、ミッションを終えることとなっている。その後は何十万年もの間、トロヤ群を交互に通過しながら太陽の軌道を回り続けることになる。

  • 木星トロヤ群探査機「ルーシー」

    ルーシーのたどる軌道を描いた模式図 (C) Southwest Research Institute

ルーシーの主席研究員を務めるサウスウエスト研究所のハル・レヴィソン(Hal Levison)氏は「ルーシーの構想は2014年の初めごろに始まりました。今回の打ち上げまで非常に長い時間がかかり、最初のトロヤ群小惑星に到達するまでにはまださらに数年かかります。しかし、待つだけの大きな科学的価値があります。それはまるで“空に浮かぶダイヤモンド”のようなものです」と、ビートルズの『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ』に引っ掛けて、期待を語った。

日本も木星トロヤ群探査を検討

NASAではまた、「サイキ(Psyche)」と名づけられた小惑星探査機の開発も進めている。サイキは2017年、ルーシーとともに開発が決まった探査機で、金属を多く含む小惑星「プシューケー」の探査を目指している。打ち上げは2022年8月に予定されている。

ルーシーとサイキは姉妹ミッションとも呼ばれており、それぞれ異なるタイプの小惑星を探査し、そのデータを組み合わせることで、太陽系の進化についてより多くのことを学べると期待されている。

さらに、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)でも、木星トロヤ群探査機「OKEANOS」の検討が進んでいる。

OKEANOSは、巨大な帆のようなソーラー電力セイルを広げ、その電力でイオン・エンジンを動かし、効率よく航行。そして、木星トロヤ群小惑星に着陸して試料を採取し、その場で分析することを目指している。フライバイ探査するだけのルーシーとは異なる、そして相互補完的な意義のあるミッションになる。予算も300億円以下と、コストパフォーマンスも高い。

現在は宇宙基本計画に基づく戦略的中型3号機の候補のひとつとして検討が進められており、正式なミッションとして採択されれば、2030年ごろに打ち上げられることになる。

いよいよ始まった、史上初の木星トロヤ群小惑星の探査。2030年代以降は、この領域をつねになんらかの探査機が活動し、そしていつか太陽系にまつわる謎を解明することになるかもしれない。

  • 木星トロヤ群探査機「ルーシー」

    ルーシーを載せたアトラスVロケットの打ち上げ (C) NASA/Bill Ingalls

2021年10月21日16時28分訂正:記事初出時に、狭義のトロヤ群とギリシア群の前後を逆に書いてしまっておりましたので、当該箇所を修正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。

参考文献

NASA, ULA Launch Lucy Mission to ‘Fossils’ of Planet Formation | NASA
Lucy: The First Mission to the Trojan Asteroids | NASA
The First Mission to Jupiter's Trojan Asteroids - Lucy Mission
The Nice Model - Lucy Mission
ISAS news 456