宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所(ISAS)は7月27日、火星~木星間の小惑星帯において、「ポンペヤ(203)」と「ユスティティア(269)」という2つの小惑星が非常に赤いスペクトルを持っていることを発見し、太陽系外縁天体が小惑星にまではるばる移動してきた可能性があることを発表した。

同成果は、ISASの長谷川直主任研究開発員を中心に、米・マサチューセッツ工科大学、米・ハワイ大学、韓国・ソウル大学、京都大学、仏・マルセイユ天体物理学研究所の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

太陽系形成初期の調査をしようとしたとき、その対象となるのは内部構造が分化していない天体である小惑星や彗星などである。中でも小惑星の多くは、火星と木星の間にある小惑星帯に位置していることがよく知られている。

ただし、小惑星帯における小惑星はS型とC型が混ざって存在しているほか、小惑星帯のすぐ外側にある「キベレ族」という小惑星の群れでは、炭素質コンドライトの中でも最も始原的と考えられており、彗星と似たスペクトルを持つことでも知られる「D型小惑星」が増え、さらに外側の「ヒルダ群」や、木星の「木星トロヤ群」では、D型の割合が半数を占めるようになってくる。木星軌道よりもさらに遠方にも、ケンタウルス族天体や、太陽系外縁天体が存在していることも知られているが、そもそも小惑星帯には、太陽系形成初期にD型小惑星が形成された領域よりもさらに遠くの領域から移動してきた天体が存在しているのかという疑問が残されているという。

小惑星帯において、直径100km以上の小惑星は破滅的な破壊から免れていると考えられており、このような小惑星は太陽系形成初期に形成された微惑星の生き残りと考えられている。

こうした背景を踏まえ、国際共同研究チームが、小惑星帯形成時にどのような組成の微惑星がどのように分布していたのかを解明するために実施しているのが、観測データが取得されていない近赤外線の分光データを中心とした、小惑星帯における直径100km以上の小惑星をターゲットとした分光サーベイだという。

今回の研究では、その分光サーベイにおいて、直径110kmの「ポンペヤ」が、D型小惑星よりもさらに赤いスペクトルを持っていることが確認されたほか、過去の観測から一部の研究の間では知られていた赤いスペクトルを持つ直径55kmの「ユスティティア」もポンペヤと同様の赤さを有していることも判明したという。

  • 小惑星

    (左)近地球型小惑星~小惑星帯~トロヤ群に存在する、アルベドが0.1以下の暗い小惑星と、ポンペヤとユスティティアのスペクトルの比較。(右)アルベドが0.1以下の暗い氷衛星(土星の衛星イアペトゥス)・ケンタウルス族・太陽系外縁天体に、ポンペヤおよびユスティティアを加えたスペクトルの比較。どちらのグラフも横軸が波長、縦軸が波長0.55ミクロン規格化された反射率の強度になる。波長が長くなるにつれて強度が上がると、「赤く」なると表現される(逆に波長が長くなるにつれて強度が下がると「青く」なると表現される) (Hasegawa et al. 2021より改変されたもの) (出所:ISAS Webサイト)

ポンペヤとユスティティアのような赤いスペクトルを持つ小惑星は、この2つ以外は小惑星帯・キベレ族・ヒルダ群・木星トロヤ群では発見されていないというが、太陽系外縁部に目を向けると、それほど珍しくはないとのことで、中には、ポンペヤとユスティティア以上に赤いスペクトルを持つケンタウルス族や太陽系外縁天体も存在しているという。

D型小惑星よりもさらに赤いスペクトルを持つ太陽系外縁天体やケンタウルス族の表層は、複雑な有機物で覆われているとこれまでの研究から考えられるようになっている。そのため、ポンペヤとユスティティアも、同様にそのような有機物で覆われていると考えられるという。

太陽系形成モデルの視点で微惑星進化を考えた場合、かつては誕生時から現在まで、惑星の軌道は太陽からの距離が変化しないと考えられてきた。しかし近年は「グランドタック・モデル」のように、初期に形成された木星が大きく移動することで、ほかの天体は大きな影響を受けたと考えられるようになってきている。

グランドタック・モデルでは、木星が当初は内側に向かって進行し、一時期は火星軌道の近くまで太陽に近づいたが、土星がそれを引き留め、逆に太陽から遠ざけて現在の位置に落ち着かせたとされる。その間、4つの地球型惑星や、天王星や海王星も大きな影響を受けたと考えられ、その影響は小惑星の方が大きかったと考えられるとする。

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    太陽系の進化図(小天体の誕生した場所と移動した先)。Neveu & Vernazza 2019とDeMeo & Carry 2014を参考にして、作成されたもの (C)NASA/JAXA (出所:ISAS Webサイト)

なお、スノーラインと最新の太陽系形成モデルを組み合わせると、以下のようなことが考えられるという。

  1. D型小惑星は非常に赤いスペクトルを持つ小惑星よりも太陽系の内側領域(二酸化炭素と有機化合物のスノーラインの間)で形成され、惑星移動によるミキシングの結果、小惑星帯~トロヤ群の範囲である程度の個数が存在する。
  2. ケンタウルス族や太陽系外縁天体と起源が同一と考えられる非常に赤いスペクトルを持つ小惑星は、D型小惑星よりも遠方(有機化合物スノーラインの外側)で形成されため、小惑星帯~トロヤ群ではD型よりも個数が少ない。

今回発見されたポンペヤとユスティティアは、遠方にある有機化合物のスノーラインの外側の太陽系外縁部で形成され、太陽系形成初期に小惑星帯に移動してきたと考えられるとしている。この成果について、研究チームでは、2~3天文単位の距離を移動するだけで、30天文単位のはるか彼方にある太陽系外縁天体の探査を行えるということを意味しており、太陽系外縁部まで行かなくても、太陽系形成期における有機化合物のスノーラインより外側の情報を手に入れられる可能性が高いことから、これらの天体は、探査対象候補として今後検討する価値があるとしている。