話題のミラーレスカメラ「ニコンZ fc」が7月23日、販売を開始しました。マニュアルフォーカス時代の同社フィルム一眼レフをイメージさせるボディデザインで、写真愛好家のみならず広く注目されているカメラです。発売に先がけて同機を借りる機会が得られましたので、マイナビニュース的ファーストインプレを行ってみたいと思います。

  • メーカーいわく、往年のフィルムMF一眼レフ「ニコンFM2」にインスパイアされたミラーレス「ニコンZ fc」。フィルムカメラだと渡されても、納得してしまう人もいそうです

カメラを手にするだけでワクワクした気持ちに

封を開けて最初に手にした印象は、とても懐かしい気持ちにさせるものでした。トップカバーに並ぶメカニカルダイヤルとペンタカバーのシェイプは、メーカー自らが語る往年のフィルム一眼レフカメラ「FM2」をはじめとするFM/EFシリーズを彷彿させ、薄いボディのサイズ感にしてもまさにフィルム一眼レフのそれ。ここまで作り込んだことに感心させられます。しかもメカニカルダイヤル天面の文字は刻印で、外装はプラスチックではなくマグネシウム合金というこだわりにも好感が持てるところです。

  • 標準ズームレンズ「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」を装着した状態。メーカー直販サイトでの実売価格は、同レンズのキットが149,600円、ボディ単体モデルは129,800円となります

  • こちらは特別デザインの単焦点レンズ「NIKKOR Z 28mm f/2.5」を装着した状態。同レンズのキット価格は159,500円です。多くのバックオーダーを抱えてしまい、発売日が延期になってしまうほどの人気です

加えて、ペンタカバーのメーカーロゴも当時のものを使用していることも注目点。通常、メーカーロゴはCI(コーポレートアイデンティティ)により、使用に際し厳格な取り決めがあるところが多く、同社も例外ではありません。現在のロゴは右方向に傾いた斜体を用いてますが、それを覆して旧ロゴを用いているのもこのカメラに賭けるメーカーのこだわりといえます。ちなみに、フルサイズのデジタル一眼レフ「ニコンDf」も旧ロゴが用いられていました。

私自身、1970年代後半よりカメラを趣味としていますが、まさにその時代に戻ったようなたたずまいに、とてもワクワクした気分になりました。その時代を知らない人にとっても、これまでの同社のデジタル一眼レフやミラーレスとは異なる雰囲気に、目新しさやカッコよさを感じると思います。

  • 薄くコンパクトに仕上がったボディ。いつでもどこでもウエアラブルに撮影が楽しめそうです。個人的には、APS-Cフォーマット専用のZマウント単焦点レンズの登場を密かに希望しています

実用性も備えた遊び心のあるミラーレスとして好印象

実際、カメラを構えてみると、ボディから大きく迫り出したグリップを備えていないこともあり、その雰囲気は往年のマニュアルフォーカスのフィルム一眼レフとよく似ています。もちろん、ファインダーの画像は液晶ディスプレイに表示されたものですし、前述のFM2と比べた場合は100gほど軽量(445g)に仕上がっているなど違いはありますが、古くからの写真愛好家は「昔はこんな感じだったよね」と思うはずですし、新しい写真愛好家や一般ユーザーは新鮮に思えるでしょう。「グリップがないと心許ない!」と思うユーザーには、「Z fc用エクステンショングリップZ fc-GR1」(実売価格は16,500円前後)が用意されているので、検討してみるとよいかと思います。

操作感については、カメラ前面および背面のコマンドダイヤルも含め、ダイヤルの動きは節度あるもので使いやすく感じます。なかでも、露出補正ダイヤルはカメラを構えたとき右手親指だけでも操作が可能で、直感的に素早く設定できます。ミラーレスのメリットのひとつがEVF(電子ビューファインダー)や液晶モニターで露出のシミュレートができることがありますが、それゆえ露出補正のしやすさはミラーレスにとって操作性を大きく左右するひとつと述べてよいでしょう。

  • メカニカルダイヤルが並ぶトップカバー。写真左よりISO感度ダイヤル、シャッタースピードダイヤル、露出補正ダイヤルとなります。Zマウントレンズは絞りリングを備えてないこともあり、設定した絞り値はシャッタースピードダイヤルと露出補正ダイヤルの間にある小さな液晶パネルに表示されます

フォーカスエリアはカメラ背面のマルチセレクターで選択しますが、こちらもダイレクトに操作できるので便利に思えるところ。デジタルカメラになって、撮影した画像をパソコンなどで拡大して見ることが容易となり、結果ピント合わせはこれまで以上に神経を使うものとなりました。しかしながら、本モデルでは素早く確実に画面上の被写体にフォーカスエリアが重ねられ、正確なピント合わせを実現しています。さらにAFは、人間だけでなく犬や猫の顔や瞳にピントを合わせることも可能。ペットの撮影も存分に楽しめそうです。

  • カメラ背面の様子。カメラボディがコンパクトであるため、ボタン類が所狭しと並んでいることが分かります。チルト式でなくバリアングル式の液晶モニターとしたのは、自撮りを考慮してのことと思われます

キーデバイスは基本的に「Z 50」と同じで、画素数や動画記録などスペック的にはAPS-Cサイズのミラーレスとして現時点では不足のないものです。レンズ交換式カメラが初めての初心者はもちろんですが、ベテランの写真愛好家も末長く使えるように思えます。手ブレ補正についても、残念ながらZ 50と同様に搭載されていませんが、心配な人は「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」など光学式の手ブレ補正機構を内蔵するレンズを使うのがオススメといえますし、ためらうことなく高感度に設定して撮影するとよいでしょう。

なお、内蔵ストロボはトップカバーの形状もあり採用されていません。そのほかメニューの表示などについてもZ 50と同様で、分かりやすいものとしています。

マニュアルフォーカス時代のニッコールレンズを模したデザインの「NIKKOR Z 28mm f/2.5」が付属するSpecial Editionキットは、人気のあまり発売が延期されてしまうほど注目度の高いZ fc。わずかな時間のトライアルでしたが、ファーストインプレの総括としては、手に持つこと、写真を撮ることがとても楽しく感じるカメラに思えました。デジタルカメラの性能が行き着くところまで行き着いた感のある現在、実用性も兼ねた遊び心のあるミラーレスの登場は、デジタルカメラの今後を占うように思えてなりません。Z fcに対する私個人的な意見としては、ブラックボディとAPS-C専用の単焦点レンズがいくつか出たら、迷うことなく買ってしまいそうです。

  • 階調再現性も上々。シャドーからハイライトまで不足のないダイナミックレンジを誇ります。大口径のAPS-Cフォーマット専用Zマウントレンズが欲しくなりました ニコンZ fc・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・絞り優先AE(絞りF6.3・1/250秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • こちらも明暗比の高い被写体です。ハイライトおよびシャドーとも階調をギリギリまで保持していることが分かります ニコンZ fc・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・絞り優先AE(絞りF8.0・1/500秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 極端に明暗比の高いシーンです。ちょっと意地悪な条件で撮影してみました。露出はハイライトを優先させたのでシャドー部がつぶれている部分がありますが、デジタルカメラとしては十分な階調再現性です ニコンZ fc・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・絞り優先AE(絞りF8.0・1/8000秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • シャドーがなるべくつぶれないように露出を設定しています。空の部分もなんとか階調を保持しており、ダイナミックレンジの広さが分かる写真となりました ニコンZ fc・NIKKOR Z 28mm f/2.5・絞り優先AE(絞りF8.0・1/160秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • フォーカスエリアを手前の被写体のところまで移動させピントを合わせました。フォーカスエリアの選択は、カメラ背面にあるマルチセレクター(十字キー)を使用します。ダイレクトに操作できるため、素早いフォーカスエリアの選択が可能です ニコンZ fc・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・絞り優先AE(絞りF5.3・1/640秒)・WBオート・ISO100・JPEG

  • 仕上がり設定であるピクチャーコントロールはデフォルトのスタンダードで撮影しています。赤や黄色など原色系で発生しやすい、階調がなくなる色飽和現象もよく抑えられているようです ニコンZ fc・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・絞り優先AE(絞りF6.3・1/800秒)・WBオート・ISO100・JPEG