量子科学技術研究開発機構(QST)は7月15日、抗ウイルス効果が期待できる銀を、「放射線グラフト重合」により、マスクや洋服などの繊維素材に強固に結合させることにより、付着した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の99.9%以上を接触後1時間以内に不活化できる繊維の開発に成功したと発表した。
同成果は、量研 量子ビーム科学部門 高崎量子応用研究所プロジェクト「環境資源材料研究」の保科宏行主幹研究員、同・瀬古典明プロジェクトリーダー、ERHテクノリサーチの高橋牧克代表取締役、長崎大学 熱帯医学研究所の森田公一所長らの共同研究チームによるもの。
さまざまなものの表面についたウイルスは、時間が経過すれば不活化するが、種類によっては24時間以上感染する力を維持するといわれている。付着する素材や湿度や気温などの環境条件によっても変化するが、新型コロナもある程度は感染能力を維持するとされる。
日常、着ている衣服やマスクなどにもウイルスが付着すると考えられるが、そこで用いられる繊維に即効性と持続性のある抗ウイルス性であれば利便性が向上すると考えられている。
そうした中、研究チームは今回、抗菌性や抗ウイルス性に優れた物質である銀を繊維状の素材表面に安定して固定化することで、日常品のみならず、医療現場で求められる即効性と持続性を満たす材料開発につなげることができるのではないかと考えたという。
具体的には、放射線グラフト重合によりリン酸基を導入し、ここに銀を結合させて抗ウイルス性機能を有する繊維材料を開発することにしたという。
放射線グラフト重合により繊維に固定化した銀の結合度合いが調べられ、水中で24時間にわたって浸漬や攪拌しても脱離しないことが確認されたという。
抗ウイルス性能は、銀を固定化した不織布繊維とガーゼに、患者飛沫に見立てた4万FFU(1FFU=ウイルス粒子1個と見なせる)のSARS-CoV-2培養液が滴下され、室温にて一定時間後(30分、1時間、2時間、4時間)の生残ウイルス数が測定された。
その結果、30分後には40分の1以下となる1000FFUに、そして1時間後には検出限界を下回る10FFU未満となり、ウイルスが99.9%以上減少していることが確認されたとした。これは、滴下直後のウイルス粒子数を100とした相対値とすると、1時間後に0.025以下まで不活化したことになるという。また、銀を固定化したガーゼでも、接触後1時間以内に10FFU未満となり、同様にウイルスの不活化が確認されたとしている。
今回の成果について研究チームでは、新型コロナの感染拡大がが収まったあとのポストコロナにおいても、さまざまな抗菌・抗ウイルス性材料を製造する手法として活用できると考えているとしている。また、今回開発された銀固定化不織布は、さまざまな形状への加工が可能であることから、マスクや防護服のほか、家具の化粧シートや壁紙などへの利用が期待されるとするほか、プラスチック素材への固定化も実現できたことから、フェイスシールドやパーティション用アクリル板への応用も可能になるとしている。