京都産業大学(京産大)と国立天文台(NAOJ)は7月7日、NOAJの運用するすばる望遠鏡を用いた新星「いて座2015 No.3 (V5669)」の観測から、リチウムの親核であるベリリウムの吸収線を検出し、史上8例目となるリチウムの生成現場を捉えることに成功したと発表した。また、これまでの7例とは異なり、リチウムの生成量がそれらの数%しかなく、新星爆発でのリチウム生成量に100倍の幅があることも合わせて発表された。
同成果は、京産大 神山天文台の新井彰研究員、NAOJ ハワイ観測所 岡山分室の田実晃人特任准教授、京産大 神山天文台の河北秀世天文台長/理学部教授、京産大 神山天文台の新中善晴嘱託職員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に7月中にオンライン掲載される予定だという。
リチウムは2次電池として活用されており、現代社会を支える重要な軽金属と位置付けられている。原子番号では、水素、ヘリウムに次ぐ物質で、ビッグバンで合成された最初期の元素でもあるため、天文学においても宇宙における元素の起源と進化を知る上で欠かせない重要な位置づけとなっている。
そのリチウムの全宇宙における推定量に対し、ビッグバンで合成された量は約1割と見積もられており、残りの約9割はビッグバン元素合成では説明がつかないため、星間空間や恒星の内部、新星爆発、超新星爆発など、さまざまな条件でもリチウムが合成されると推測されている。
ビッグバン以後に合成されたとする証拠は長らく得られなかったが、2013年に現れた新星「いるか座 V339」をすばる望遠鏡の高分散分光器「HDS」で観測したところ、多量のリチウムが爆発の現場で生成されており、宇宙に放出されていることが初めて観測された。その後、新星爆発でのリチウム生成は7例が観測されているが、そのうちの4例はHDSによるものだという。
研究チームは2015年、いて座の方向に出現した新星「V5669」をHDSで観測したところ、史上8例目となる新星でのリチウム合成現象を捉えることに成功している。
今回の新星爆発でのリチウム生成量が特徴的だったのは、これまで観測された7例と比較すると、それらの数%しかなかった点だ。このことから、新星爆発によるリチウム生成量には、100倍程度の幅があることが判明したとする。
なお、リチウムの生成量がこれまでの7例の量であれば、ビッグバン以降に作られた銀河系のリチウムの大部分を新星爆発で説明できたという。しかし今回、リチウム生成量が少ないケースがあることも確認されたことで、新星爆発だけでは不足が生じてしまうことから、超新星などのほかの天体も宇宙のリチウム生成にある程度寄与している可能性が出てきたとしている。
また新星爆発によるリチウム生成は、現在判明している物理過程を詳細に再現した新星爆発のシミュレーションであっても、実際に観測されたリチウム生成量を十分に説明できていないという課題があり、リチウム生成が捉えられた新星の物理情報(連星系の質量比、伴星の元素組成など)を今後さらに詳しく調べることが重要だという。リチウム生成量の多様性が生じる要因を明らかにすることで、それがひいては銀河系の元素組成の進化の理解が進むことが期待されると研究チームでは説明する。
今回の論文の主著者である京産大 神山天文台の新井研究員は、「今回の成果は、観測的にこれまでで最も少ないリチウム生成を決定できたことが重要な特徴です。新星のリチウムの生成量は、理論と観測の双方から探求されています。リチウム生成量の実際の範囲を観測的に明らかにすることで、新星の爆発そのものや、ビッグバンからつながる銀河の化学進化に関するフィードバックになることを期待しています」とコメントしている。