米国航空宇宙局(NASA)の木星探査機「ジュノー」が、2021年6月7日、木星最大にして太陽系最大の衛星でもある「ガニメデ」のフライバイ探査に成功した。

ガニメデのフライバイ探査は21年ぶりで、これまでで最も詳細な画像を取得することに成功。科学者は驚嘆の声を上げている。今後、エウロパやイオといった、他の衛星のフライバイ探査にも挑む。

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    ジュノーの「ジュノーカム」が撮影したガニメデ (C) NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS

ジュノーによるガニメデのフライバイ

ジュノー(Juno)はNASAジェット推進研究所(JPL)が開発した探査機で、木星の誕生から現在までの進化の歴史を解明することを目的としている。

Junoという名前はJUpiter Near-polar Orbiterの略で、ローマ神話に登場する女神ユーノーにも由来する(ジュノーはユーノーの英語読み)。ユーノーは主神ユーピテル(ユピテル)の妻であり、ユーピテル(英語読みでジュピター)は木星のことでもあることから、夫(木星)のもとに妻(ジュノー)が帰る、という洒落にもなっている。

ジュノーは2011年8月5日、米フロリダ州のケープ・カナベラル空軍ステーションから打ち上げられ、地球スイングバイを経て、2016年7月4日に木星を回る軌道に入った。以来、現在まで順調に探査を続けている。

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    木星を探査するジュノーの想像図 (C) NASA/JPL-Caltech

ジュノーは木星そのものの探査を目的としていることから、木星の衛星についてはメインの探査目標ではなかったが、これまでの探査で当初予定していたミッションをほぼ完了したこともあり、今年1月に延長ミッションが承認。今回のガニメデのフライバイ(接近通過)探査が行われることになった。

ガニメデは、木星の中でとくに大きな衛星「イオ」、「エウロパ」、「カリスト」と並ぶ「ガリレオ衛星」のひとつで、直径は5262km。水星よりも大きく、木星の衛星の中で、また太陽系の中でも最大の衛星である。表面は氷に覆われており、地下には海が存在する可能性も指摘されている。また、太陽系の衛星の中では唯一磁場をもっており、木星の磁場との相互作用でオーロラも発生する。

そして日本時間6月8日2時35分、ジュノーはガニメデから約1038kmの距離にまで接近、フライバイを実施した。この約1038kmという距離は2000年の「ガリレオ」探査機以来、最もガニメデに近づいた例となった。

ジュノーは、搭載している「ジュノーカム(JunoCam)」というカメラを使い、ガニメデのほぼ全景を撮影した。画像の解像度は1ピクセルあたり約1kmで、クレーターや明暗のはっきりした地形、地殻変動によってつくられた断層と思われる長い構造物などが詳細に写し出されている。

ジュノーカムは可視光で木星の大気、また極地域の広角写真を撮影することを目的としたもので、科学的な観測よりも、一般への広報を念頭に置いて搭載されている。

なお、ジュノーは機体を回転させて安定させるスピン安定型の探査機であるため、カメラもそれに合わせて回ってしまうことから、カメラの視野にガニメデが入るごとに、また赤、緑、青のフィルターで別々に撮影が行われ、それをあとで合成、補正する。今回、最初に送られてきたのは緑色のフィルターを使って撮影したもので、後日送られてくる予定の赤と青のフィルターの画像と合成することで、カラーの画像が公開できるとしている。また、今回公開された画像の右下などにはつなぎ目も見えるが、これについても今後の画像や、補正のためのデータなどを組み合わせることで解消されるという。

ジュノーの主任研究員を務める、サウスウェスト研究所のスコット・ボルトン(Scott Bolton)氏は「このマンモス級の衛星に、ここ数年で最も近づくことができました。(この画像から)科学的な結論を導き出すのには時間がかかるでしょうが、この宇宙の驚異にただ驚嘆するばかりです」と述べている。

また、恒星をもとに探査機の軌道を維持するため航法用カメラでも撮影が行われ、木星からのほのかな散乱光を受けるガニメデの夜の側の、モノクロ画像も取得された。画像の解像度は、1ピクセルあたり約600~900mだという。

JPLでジュノーの放射線モニタリングを担当するハイディ・ベッカー(Heidi Becker)氏は「ガニメデの夜の側を撮影した際の条件は、低照度用カメラである恒星カメラにとって理想的なものでした。ジュノーカムが撮影した昼の側とは異なる面を撮影できたことで、これから2つのカメラのチームがどのような協力ができるのか、楽しみにしています」と語る。

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    ジュノーの航法用カメラが撮影したガニメデ (C) NASA/JPL-Caltech/SwRI

ジュノーは今後、木星の観測を続けつつ、2022年9月29日にはエウロパを、さらに2023年12月30日と2024年2月3日にはイオにも接近、探査を行う予定となっている。

NASAによると、木星の衛星をフライバイ探査することで、その組成や電離層、磁気層、氷の殻についての知見が得られると同時に、放射線環境の測定もでき、将来の木星の衛星への探査ミッションを立てる際に役立つとしている。

ジュノーのミッションは、現時点で2025年9月まで実施される予定となっている。最終的には、生命が存在している可能性のある木星の衛星に墜落しないよう、木星に突入して運用を終える計画となっている。

参考文献

See the First Images NASA’s Juno Took As It Sailed by Ganymede | NASA
See the First Images NASA’s Juno Took As It Sailed by Ganymede | Mission Juno
NASA’s Juno Mission Expands Into the Future