神戸大学と国立天文台は7月27日、NASAの惑星探査機ボイジャー1号・2号、そして木星探査機ガリレオが撮影した画像を詳細に再解析した結果、木星の衛星ガニメデの表面に、これまでの4倍以上になる半径約7800kmという太陽系最大の巨大クレーターを発見したと発表した。

  • ガニメデ

    4次元デジタル宇宙ビューワー「Mitaka」で再現したガニメデ(左上は木星) (c)加藤恒彦、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

同成果は、神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻の平田直之 助教、同大槻圭史 教授、大島商船高等専門学校の末次竜 講師らの共同研究グループによるもの。詳細は、米国の国際学術雑誌「Icarus」(オンライン)に掲載された。

太陽系最大の惑星である木星は、これまでNASAの探査機のボイジャー1号(1979年)とボイジャー2号(1980年)によるフライバイ観測が行われ、1995年から2003年にかけてはガリレオによる周回軌道からの探査が行われてきた。また現在は、NASAの木星探査機ジュノーが周回軌道からの探査を実施中だ。

そんな木星系の第3衛星であるガニメデは同星系最大の衛星であるだけでなく、太陽系でも最大の衛星だ。半径約2630kmあり、そのサイズは水星(半径約2440km)よりも大きいほど。そしてイオ、カリスト、エウロパとともにガリレオが17世紀に発見したガリレオ衛星のひとつとして知られている。

そんなガニメデの表面の特徴は、分散する形で暗い領域(Dark Terrain)と明るい領域(Bright Terrain)に分かれている点。合計するとおおよそ衛星の3分の1を占める暗い領域は非常に古い地形であることがわかっており、多くのクレーターが残る。そして暗い領域にしかない特徴的な地形が、平行な溝状の構造である「ファロウ」である。多くの衝突クレーターがファロウの上にあることから、同構造はガニメデで最も古い地形と考えられている。一方の明るい領域は比較的新しいことがわかっており、クレーターがほとんどないことが確認済みだ。

今回の研究で平田助教らは、木星の衛星系の誕生や進化の一端を明らかにすることを目的とし、同時に今後の探査への貢献も目指して進めたという。そしてボイジャー1号・2号、ガリレオの3機が撮影した画像データを用いて、ファロウの分布について、ガニメデ全体にわたって再解析を実施した。その結果、ファロウがある一点を中心に同心円状に分布していることが明らかになったという。

このことは、ファロウがガニメデ全体に及ぶ巨大な多重リングであることを示しているとする。多重リングとは、小惑星や水星などによって形成された衝突クレーターの周囲に形成される複数の環状構造のことだ。そしてこの事実から、ガニメデの表面に明るい領域が形成される以前に、衛星表面全体に及ぶ規模の多重リングクレーターが存在していたことが推測される結果に至ったとした。

実は、多重リングクレーターは同じ木星系で2番目に大きい第4衛星カリストでも見られ、それは「ヴァルハラクレーター」と呼ばれている。ヴァルハラクレーターは太陽系最大の多重リングクレーターであり、その半径は約1900kmもある。1900kmというと、東京から石垣島ぐらいまでの距離だ。しかし、ガニメデで発見された多重リングクレーターのサイズは、その4倍以上の半径約7800km。東京から太平洋を渡って米国オレゴン州に上陸できてしまう距離だ。今回の発見により、太陽系最大の衝突クレーターのサイズは一気に拡大する結果となったという。

さらに平田助教らは、この巨大クレーターが形成された衝突の規模を推定するため、国立天文台シミュレーションプロジェクトが運営する共同利用コンピュータのひとつである「計算サーバ」(240ノード・1344コア)を用いて天体衝突シミュレーションを実施。その結果、半径150kmほどの小惑星が秒速20km(時速7万2000km=マッハ約60)という高速で衝突したと仮定すると、今回確認されたサイズの構造を説明できることが判明したという。

約6500万年前に恐竜を絶滅させたチクシュルーブ小惑星ですらそのサイズは半径が5~7.5kmと推定されており、文字通り桁違いのカタストロフ的な大衝突だったようだ。また衝突が発生した時期は、40億年以上も前の時代と考えられるとしている。40億年以上前といえば、地球の地質時代でいえば冥王代といわれる太陽系の創生期になる。

なお、このような大規模な衝突クレーターがガニメデに残っていることは、ガニメデの形成過程や進化において重要な意味を持つという。たとえば、ガニメデとカリストは同程度のサイズの衛星だが、カリストが内部に分化した層構造がないと考えられている一方で、ガニメデ内部には岩石と鉄と氷が分化した層構造があると考えられている。このような層構造を形成するには大量の熱を必要とし、約7800kmもの巨大クレーターを形成した衝突がその熱源となった可能性があるとしている。

また2020年代には、JAXAも参加する木星系衛星探査計画JUICE(探査機2022年打ち上げ予定、2029年頃木星圏到達予定)、NASAの木星系第2衛星エウロパ探査計画エウロパ・クリッパー(2023~2025年頃打ち上げ予定、2030年頃に木星圏到達予定)など、木星の衛星をターゲットにした探査計画が実施される予定だ。これらの探査計画においても、今回の結果は重要な意味があるという。

ボイジャーやガリレオが撮影した画像データはガニメデ表面の部分的なものでしかないため、これら今後の探査によって多重リング構造の全容の解明を進めるとともに、大規模な衝突の痕跡についてさらに詳細な調査を行うことで、今回の研究結果を検証できるとした。それにより、ガニメデの起源と進化について、さらには木星の衛星系の起源について、より理解を深められることが期待されると平田助教らは述べている。

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    ガニメデ表面の様子。明暗の領域があり、暗い領域には平行な溝状構造ファロウが存在する (c)NASA