Microsoftは米国時間2021年5月25日から3日間、開発者向け年次イベント「Build 2021」をオンラインで開催。今回はBuild 2021の国内版「de:code 2021」の開催は見送られ、日本語同時通訳音声の追加や、技術コミュニティ有志メンバーおよびMicrosoft・日本マイクロソフト社員によるユーザーイベント「Microsoft Build 2021 前夜祭」を開催している。ここではBuild 2021から、おもな話題をピックアップして紹介しよう。

  • 今回のBuild 2021でも100以上の新サービスとアップデートを発表すると語るMicrosoft CEOのSatya Nadella氏

とはいえ、Microsoft CEOであるSatya Nadella氏の基調講演は17分強と短い。後に続くセッションの概要説明にとどめ、担当者のデモンストレーションなどは組み込まれなかった。

最初はMicrosoft Azureの話題から。現在、全世界のGDPの5%がテクノロジーで実現しているとし、2030年までに10%まで増加。ここで注目すべきは、「他の90%で起こりえるDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。すべての組織はTechintensity(技術強度)によって変革されるが、重要なのは独自のデジタル技術を構築する必要性」(Nadella氏)だと強調する。

昨今は非IT部門の担当者が開発業務を担う「シチズン・デベロッパー」や、開発言語を学ばずともプログラミングを可能にする「ノーコード」といった単語がバズワード化してきたが、「非ハイテク企業の開発者数は、ハイテク企業を上回りつつある。農業、消費財、エネルギー、金融、ウェルネスの業種が急成長した。たとえば自動車産業でも、ソフトウェアエンジニアはメカニカルエンジニアを35%も上回る」(Nadella氏)と、ソフトウェア開発者の重要性を訴えた。

開発者の活躍は先進国にとどまらない。GitHubの貢献者リストを見ると、ナイジェリアはプラス66%、香港はプラス65%、サウジアラビアおよびバングラデシュはプラス60%、エジプトはプラス55%まで増加した。また、コロナ禍で出社が難しくなってリモートワーク限定で働くようになったエンジニア、2019年5月~2020年4月と2020年5月~2021年4月を比較すると8倍まで増えている。このほかにも、純粋なエンジニアではなく生徒や教師、データアナリストといった役割の人たちがGitHubのアカウントを取得し活動してきた。

  • GitHubの貢献者増加数(2020年)

コロナ禍で急激に変化する世界に対して、Microsoftは「本イベント(Build 2021)は参加者の革新を可能にし、参加者のために新しい機会を作り出すこと」(Nadella氏)と前置きしながら、注目株の新サービスはアップデートに触れていった。

「Natural language to Power Dx code in Power Apps」は、文字どおりMicrosoft Power Appsで自然言語処理モデル「GPT-3」を既存のアプリに組み込むアップデートである。サービス名が仰々しいのは英文の変換先となる開発言語を「Microsoft Power Fx」に限定しているためだ。それでもローコード開発で自然言語処理の恩恵を容易に受けられるのは大きいだろう(公式ブログ)。

  • 「Natural language to Power Dx code in Power Apps」のデモンストレーション

いまやMicrosoftの核であると述べても過言ではないMicrosoft Azureに関しては、サーバーレス動作や統合キャッシュなどを備えた「Azure Cosmos DB」のアップデート、「Azure Database for Postgres SQL」やAzure Cosmos DBの無償および低価格オプションの用意、Pythonの機械学習ライブラリーを大規模運用する「PyTorch Enterprise on Azure」を発表(公式ブログ)。

また、Microsoft Azureに限らず、エッジや他社クラウドのオンプレミスでKubernetesの実行が可能になる「Azure application services」や、Azure Stack HCIを混在させることで、Microsoft Azureとハイブリッドで一環したアプリを構築する「AKS on Azure Stack HCI」も発表した(公式ブログ)。

デジタルツインの可用性に関するサービスを披露しつつMicrosoftは、最後に利用者数が13億人を突破したWindows 10にも触れた。Nadella氏は「Windows 10は開発環境」と述べながら、Windows 10はすべての開発ツールとコラボレーションツールを1カ所にまとめ、LinuxとWindows 10を1つの環境で利用可能にしたと語る。

そして過去10年間のもっとも重要なアップデートの1つとして、アプリを構築するGNU Openプラットフォーマーに門戸を開くことを表明した。詳細は語られなかったものの、開発者のアプリ開発や収益化をWindows 10とWSL 2(Windows Subsystem for Linux 2)で可能にするということなのだろう。

同日公開した公式ブログでは、Windows Terminalバージョン1.9プレビューや、Windows Package Manager(winget)バージョン1.0の発表、WSL 2のGPUアクセス機能によるTensorFlow-DirectMLパッケージのサポートを表明している。Windows 10とGNUの関係については、もう少し取材を続けてから詳細をお届けしたい。