ソニーグループは4月28日、2020年度連結業績を発表しました。ゲーム&ネットワークサービス分野ではPlayStation 5(以下、PS5)発売などの好材料があり過去最高益を記録。また、音楽分野でも『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の大ヒットがありました。これを受けて2020年度の連結業績は、初の純利益1兆円超を達成しています。
純利益1兆円超は「積み上げてきた成果」
2020年度の連結売上高は8兆9,994億円(前年度比9%増)、連結営業利益は9,719億円(同15%増)といずれも過去最高記録を更新しました。当期純利益は1兆1,718億円。報道陣から、ソニーグループは何が変わったから純利益1兆円を達成できたのか、と問われた十時氏は「これは急に起こった変化ではなく、これまで積み上げてきた成果によるものです。変革は10年単位で積み重ねていき、起こることだと認識しています」と答えました。
2021年度(通期)の連結業績については、売上高見通しを9兆7,000億円(前年度比8%増)、営業利益見通しを9,300億円(同4%減)としています。
PS5は780万台突破。2021年度は1,480万台以上目指す
はじめに、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野について。2020年度の売上高は大幅増の2兆6,563億円(前年度比6,787億円増)となりました。営業利益は、主にゲームソフトやネットワークサービスの増収により大幅増の3,422億円(同1,038億円増)となり、当分野における過去最高益を記録しています。
これを受けた2021年度のG&NS分野の売上高見通しは2兆9,000億円(同2,437億円増)、営業利益見通しは3,250億円(同172億円減)としました。
十時氏はハードウェア、ソフトウェア、各々について次のように説明しました。「PS5に関する非常に強い需要に対して、供給が十分に追いついていない状況が続いています。半導体を中心としたデバイスの供給制約は今年度も継続すると想定されることから、PS4導入2年目の販売台数である1,480万台を上回ることを現時点の目標としています」。ソニーでは引き続き部材の確保に努め、この目標を上回る台数の生産、販売に向けて今後も全力で取り組んでいくとしました。
PS5の販売台数は780万台を突破。これについて報道陣から、半導体不足が解消すれば上振れの可能性もあるのか、と問われた十時氏は「PS4を上回る台数を実現したいとは考えていますが、さまざまな部分に影響するため、急激な増産はできない状況です。現時点では、あくまで1,480万台を超えること目標にしています」と慎重な姿勢を示しました。
次はソフトウェアについて。2021年3月におけるプレイステーションユーザーの総ゲームプレイ時間は、新型コロナウイルス感染症の影響がなかった2019年同月比で約20%増と、引き続き好調を維持しています。「今年度においても、足元の強いユーザーエンゲージメントを継続できると想定しています」(十時氏)。ソフトウェアの売り上げは、2021年度の第1四半期こそ前年同期を下回るものの、第2四半期以降は前年同期並み、もしくはそれを上回る見通しだと説明しました。
ところで、2020年度はダウンロードによる収益(デジタル比率)が大きくなっています。これはPS5の影響によるものか、という報道陣の質問に「巣ごもり需要の影響が少なからずあります。第4四半期にはデジタル比率がかなり上がりました。タイトルの影響も考えられます。第1四半期は巣ごもり需要で旧作が貢献しましたが、新作のディスクは多くありませんでした」と回答しました。
最後はネットワークサービスについて。2021年度は、前年度のような巣ごもり需要による会員数の大幅拡大は見込んでいないものの、1年を通じて増加したPlayStation Plusの有料会員数の維持・拡大を今後も目指していきます。費用面では自社制作ソフトウェアのさらなる強化に向け、自社スタジオにおける開発費や人材にかかる費用など、前年度比で200億円程度増加させる計画です。
これまでゲーム機が世代交代する時期は、決まって利益水準が下がっていました。しかしPS4からPS5へ切り替わる今回は、利益水準が高いまま推移しています。この理由について問われると「サービスをネットワークで提供していること、またPS4とPS5にはある程度の互換性も確保したので、ユーザーをそのまま引き継いでいけるようになりました」とのこと。
なお、ソフトウェアの強化に向け、自社スタジオに積極的に投資し、また外部スタジオにも出資するほか、協業なども継続的に取り組んでいくと説明。人気ゲームタイトル『ASSASSIN'S CREED(アサシン クリード)』の生みの親と言われるJade Raymond(ジェイド・レイモンド)氏が設立したHaven Entertainment Studios Inc.との協業や、Epic Gamesへの追加出資など、プレイステーションプラットフォームの強化、さらにはグループを横断的に取り組んでいるゲームのソーシャルプラットフォーム化にも挑戦していくとしました。
音楽分野は増収増益。音楽ストリーミング成長、鬼滅ヒットも
続いて音楽分野。2020年度の売上高はストリーミング売上の成長に加え、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の大ヒットなどにより9,399億円(前年度比900億円増)となりました。音楽制作におけるストリーミングからの収入増加があったほか、モバイル向けゲームアプリやアニメを含む映像メディアプラットフォームの増収が大きく、音楽分野全体の営業利益の3割弱を占めている状況です。営業利益は増収の影響に加え、事業譲渡による119億円の一時的利益を計上したことなどにより大幅増の1,881億円(同457億円増)に。
2021年度の売上高見通しは9,900億円(同501億円増)、営業利益見通しは1,620億円(同261億円減)としています。これについて十時氏は「2020年度は一時的な利益計上や、鬼滅の刃の歴史的な大ヒットがありました。2021年度はモバイル向けゲームアプリの利益貢献も慎重に見ています」と説明。一方で、音楽制作や音楽出版については、ストリーミング売上の市場成長の機会を捉えることで、継続的な利益成長を見込んでいます。
新興市場での成長を取り込むため、ブラジルの独立系音楽レーベル「Som Livre」を買収しました。2021年2月に買収を発表したインディーズ領域のアーティストサービス事業「AWAL」とともに、音楽分野のさらなる成長に期待を寄せています。
コロナ禍直撃の映画分野、2021年度は増収増益見込む
次は映画分野。2020年度の売上高は、コロナ禍における劇場公開作品の大幅減やテレビ番組の制作・納入の遅れなどにより大幅減の7,588億円(前年度比2531億円減)となりました。営業利益は、減収の影響はあったものの、映画製作におけるマーケティング費用の大幅減、映画作品のホームエンターテイメントやテレビ配信売上の好調、メディアネットワークにおけるポートフォリオ見直し費用の減少などにより805億円(同123億円増)となっています。
2021年度の売上高見通しは、映画制作での劇場公開の再開に加え、テレビ番組制作やメディアネットワークの回復などから、前年度比5割増となる1兆1,400億円(同3,812億円増)としました。営業利益見通しは、劇場再開にともなうマーケティング費用の増加はあるものの、米国の人気テレビ番組であるSeinfeldシリーズのライセンス売り上げを含む分野全体での増収の影響などにより830億円(同25億円増)としています。
映画制作では、米国の大都市で劇場の再開も進んでいることを受けて、2021年6月以降、『ピーターラビット』や『ホテル トランシルヴァニア』といったヒット作の続編を米国で劇場公開していく予定です。「(ソニーにとって)劇場公開の重要性は変わりませんが、劇場再開後の公開作品の過密スケジュールも考慮し、作品の内容や規模、時期に応じて販路を柔軟に選択することで、作品ごとの長期的な価値を最大化していきます」(十時氏)。
このほか、コンテンツ需要の高まりを背景に、映画やテレビ番組作品のライセンス契約交渉が順調に進んでいると説明。「2022年以降の劇場公開作品に対する米国内での配信権について、Netflixやディズニーと良好な条件で長期ライセンス契約を締結しました」としています。
※編注:米Sony Pictures Entertainment(SPE)とNetflixは現地時間4月8日、2022年以降に劇場公開されるSPEの新作長編映画について、米国市場で独占配信する複数年のライセンス契約を締結したと発表。さらに同4月21日にはThe Walt Disney Companyとも、Disney+で独占配信する複数年のライセンス契約を締結したと発表している。
祖業エレキはTV増収、モバイルの収益も改善
次はエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)分野。2020年度の売上高は、主にデジタルカメラなどの販売台数減や為替の影響により1兆9,207億円(前年度比705億円減)となりました。営業利益については、減収の影響はあったものの、モバイルコミュニケーションを中心としたオペレーション費用の削減やテレビなどの製品ミックスの改善により、大幅増の1,392億円(同519億円増)となっています。
報道陣から、モバイルの収益が改善した理由について聞かれると「大きく3つ考えられます。1つは、ビジネスを展開する地域をかなり絞り込んだこと。いま日本に寄っています。これにより収益性が改善しました。2つめは、高付加価値商品に特化したこと。台数は多く出ないけれど、収益性を高められました。3つめは、設計の効率化で費用を削減したこと。これらがドライバーになり、モバイルの収益が改善しました」。
また、製品ミックスの改善とは高付加価値化ということか、という報道陣の質問には「その通りで、テレビの大型化やハイエンドへのシフトというのが一番顕著な実績」としました。
2021年度の売上高見通しは2兆2,600億円、営業利益見通しは1,480億円と増収増益を見込みます。「2020年度は年間を通じ、新型コロナウイルス感染症を始め、さまざまな要因により断続的に部品サプライチェーンに供給制約が起き、EP&S分野も大きな影響受けましたが、このような変化に機敏に対応することで高い収益性を確保できたと捉えています。課題であったモバイルコミニケーションについても当初計画を上回る大幅な黒字を達成することができました」(十時氏)。
減収減益のI&SS分野。「数量の市場シェアは2019年度並みに戻す」
そしてイメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野。2020年度の売上高は、主にモバイル機器向けイメージセンサーの販売減や為替の影響により、1兆125億円(前年度比581億円減)となりました。営業利益は研究開発費および減価償却費の増加や減収の影響などにより大幅減の1,459億円(同897億円減)となっています。
2021年度の売上高見通しは1兆1,300億円(同12%増)、営業利益見通しは1,400億円(同59億円減)としました。2021年度はこれまで進めてきたモバイルセンサー事業の顧客基盤拡大により、数量ベースの市場シェアを2019年度並みまで戻すことを想定しており、「リスクに目を配りながらも積極的な事業運営を進めていく」(十時氏)とのこと。
2022年度に向けた高付加価値モデルへの再シフトなどを進めるため、2021年度の研究費は前年度比15%にあたる250億円程度増加させる計画。イメージセンサー設備投資については前年度から時期を後倒しにした投資分も含め、2,850億円を予定しています。十時氏は「先日、長崎工場の増設と新棟Fab 5の竣工式を行いました。生産能力の増強は計画通りに進んでおり、今後も事業の拡大ペースに合わせて建屋の増築、拡張、および設備の導入を進めていきます」としました。
イメージセンサーについては2020年9月、(ファーウェイなど)中国の特定大手顧客向けモバイルイメージセンサーの出荷が停止になった影響を受けました。現在、その影響をカバーするほどメーカーから引き合いが来ているのか、いまイメージセンサーの設備投資をする理由について、報道陣に問われた十時氏は「私たちの目論見として昨年度、2021年度で数量のシェアを回復し、2022年度で収益性を回復するというロードマップを申し上げました。2021年度の数量シェアの回復については、ほぼ見通しが立っています。そのため2021年度に、ある程度の設備投資も強化するということです」と回答しています。
足元では半導体の不足が顕著になっているものの、イメージセンサーに用いるロジック回路については「パートナー各社の協力のもと、今年度の生産計画をカバーするキャパシティの確保はすでに目処がついています」と説明。ただ、今回の半導体不足は長期化するとの見方もあり、ソニーでは従来から進めている高付加価値モデルへのシフトをさらに推進していく方針です。
金融分野は大幅な増収増益を記録
最後は金融分野。2020年度の金融ビジネス収入は、ソニー生命の特別勘定における運用益増などが寄与し、大幅増の1兆6,689億円(前年度比3,612億円増)となりました。営業利益は大幅増の1,646億円(同350億円増)。
2021年度の金融ビジネス収入見通しは、前年度の市況好調による特別勘定運用益の押し上げ効果を見込まず、同2,689億円減の1兆4,000億円。営業利益見通しは1,700億円(同54億円増)としています。