このところニュースなどで「PPAモデル」を見聞きすることが増えてきました。PPA(Power Purchase Agreement)とは、電力購入契約のこと。自宅に太陽光パネルを設置し、余った電力を電力会社に売る「売電」もPPAのひとつです。
ただし、自前で太陽光パネルを用意するのは価格面でユーザーに大きな負担となるうえ、故障時のメンテナンス代もバカになりません。そこで注目されているのが、電力会社が太陽光パネルの設置やメンテナンスを行う「PPAモデル」というビジネスモデル。今回、4月1日からスタートした沖縄電力のPPAモデル、「かりーるーふ」の現場を取材してきました。
沖縄電力のPPAモデルと一般的なPPAモデルの違いは「蓄電」
前述のように、PPAモデルのひとつとして、電力会社が無償で個人宅に太陽光発電設備を設置するサービスがあります。「太陽光パネルを自宅に設置する」というと、発電した電気を自由に使える印象がありますが、基本的にPPAモデルでは、発電した電気は電力会社のもの。ユーザーは自宅で発電した電気を電力会社から「買い取る」ことになります。
今回取材した沖縄電力のPPAモデルサービス「かりーるーふ」もこの方式。ユーザーは沖縄電力に屋根を「貸す」ことで、沖縄電力の関連会社である沖縄新エネ開発が無償で太陽光発電設備を設置。自宅の屋根で発電した電気を、通常の電気代よりも低価格で利用できる仕組みです。
電力会社が設備の設置やメンテナンスをするため、自前で太陽光パネルを設置した場合よりも電気代そのものは高くなります。とはいえ、ガスと電気を使っている標準的な家庭の光熱費と比較すると、かりーるーふを導入したオール電化の家庭では、年間で5万円ほど光熱費が安くなるそうです(沖縄電力の研究開発部 金城尚吾氏)。
「年間5万円、月にすると4,000円ちょっと節約するために太陽光パネルを設置するのか」と思うかもしれませんが、沖縄電力がこのサービスを打ち出して50世帯の枠を先行募集しところ、約10日で枠が埋まるほどの人気となりました。実はこのかりーるーふ、過程の光熱費が安くなる以外にもさまざまなメリットがあるのです。
そのひとつは、前述したメンテナンスフリーであること。かりーるーふは15年間の契約となりますが、設置はもちろん、契約後は無料で設備の撤去まで行います。沖縄は強烈な台風が数多く通過するエリアですが、台風で設備が破損した場合も無料でメンテナンスが受けられます。
また、自分で太陽光パネルを設置した場合は、自家消費できなかった電力を固定価格買い取り制度(FIT)にまわして設備費を回収します。ここで設備にトラブルが発生すると、修理代のぶん設備費の回収は困難に。設備のメンテナンスについて考えなくてよいのは大変ありがたいポイントです。
2つめのメリットが、かりーるーふは無料設置する設備として蓄電池を用意していること。大手電力会社に限っていえば、PPAモデルで蓄電池を提供しているサービスはかりーふーふが国内初です。台風などの災害が原因で停電しても、太陽光と蓄電池によって家庭内で使う電気を確保できます。
非常時に使えるのは宅内に用意された災害時用コンセントひとつという制約はありますが、延長コードなどを用意して、停電時でもLEDライトをつけたりスマホを充電したり、冷凍庫の食材を守るといった生活が可能。いざという場合の安心感があります。蓄電池が満充電の状態だと、通常の家庭なら2日分の電気をまかなえるとのこと。沖縄電力によると、台風による停電はほぼ1~2日で復旧するので、ほとんどの場合は蓄電池の電力で乗り切れるそうです。
3めのメリットは、すべての設備が屋外に設置されていること。かりーるーふで設置する太陽光パネルや蓄電池といった設備はパナソニック製。これらの機器はPPAモデル用に開発されたもので、すべてが屋外に設置できるように徹底しています。普段の管理はもちろん、故障時もスタッフが自宅内に入らずにメンテナンスできるというわけ。かりーるーふのユーザーは、PPAモデルというサービスをまったく意識することなく、光熱費を安くできるのです。
地球のためにできること。沖縄電力は2050年までにCO2ネットゼロを目指す
沖縄電力といえば、地球環境対策に積極的な電力会社としても知られ、「2050年までにCO2排出ネットゼロ」を目指しています。ただ、沖縄地域は離島が多く、資源エネルギーも少ないため、地理的に地熱や水力発電といった大規模設備が作りにくいという問題を抱えています。
そこで沖縄電力では、比較的場所を選ばない太陽光や風力といった再生可能エネルギーも導入していますが、自然の力を利用した発電には弱点も。太陽光発電は発電量が天候に左右されるうえ、夜間の発電はできません。さらに沖縄全土の電力を供給するには、太陽光パネルを設置するために広大な敷地と、メンテナンスを担当する多くのスタッフが必要です。一方の風力発電も、風が弱すぎても強すぎても発電できないなど、発電量が環境に大きく左右されます。
沖縄地域の全電力を再生可能エネルギーでまかなうことはできないため、電力を安定的に確保するには化石燃料を使った火力発電にも頼らざるを得ません。沖縄電力は、石炭や石油に比べてCO2排出量の少ないLNG(液化天然ガス)を燃料とした発電所「吉の浦火力発電所」を運用して、安定的な発電とCO2排出量の抑制を目指しています。
最近は「メガソーラー施設をつくるために森林伐採などで環境破壊をする」といった弊害も問題視されています。ここで紹介した「かりーるーふ」のようなサービスが普及すれば、各家庭が「屋根を貸す」だけで電気代が安くなるうえ、地球環境を守る活動に貢献できるようになるかもしれません。