コロナ禍の現在とても注目されているのが、換気などによって宅内の「空気の質」を上げること。とはいえ、実際どうすればいいのか、いまひとつピンとこない人も多いのではないでしょうか? 今回、羽根のない空気清浄機や掃除機で人気のダイソンが、帝京大学大学院 医学研究科 医真菌学・宇宙環境医学の牧村浩一教授を招き、「冬の室内空気環境対策セミナー」を開催しました。

  • 医真菌学(微生物学)のほか、国際宇宙ステーション 日本実験棟「きぼう」船内微生物研究主任として、宇宙環境医学にも関わっているという牧村浩一教授。「地上から宇宙空間まで、人とカビがいる場所すべてが研究のフィールド」と話します

  • セミナー会場に展示されていたダイソンの加湿空気清浄機「Dyson Pure Humidify+Cool」。PM 0.1レベルの微細粒子を集じんする高性能フィルターが特徴です

空気中に漂う「生物粒子」には、空気清浄機以外の対策が難しい

私たちが暮らしている部屋には、さまざまなホコリ(微粒子)が漂っており、これらは大きくカビやダニ、ウイルスといった「生物粒子」と、黄砂や排気ガスなどの「非生物粒子」に分けられます。程度は違えど、どちらも健康に有害なのですが、ここでは生物粒子に注目。ダニや花粉などはアレルギー疾患の原因になることは知られていますし、いま問題になっている新型コロナのウイルスも生物粒子のひとつです。

  • 家庭内で発生しやすい生物粒子が原因となる健康被害。「室内にキノコ?」と思うかもしれませんが、キノコは育つ前の胞子の状態で室内に発生していることが多いのだとか

こうなると気になるのが「生物粒子の対策は何が一番いいか?」ということ。牧村教授はズバリ、「いまのところHEPAフィルターを搭載した空気清浄機以外の選択肢がほぼない」といいます。例えば、手に付着したウイルスはアルコールなどで消毒できますが、空中に浮遊しているウイルスには同じ対策ができません。ウイルスを消毒できる濃度のアルコールを空気中に噴霧すれば、人への悪影響も無視できないからです。

  • 新型コロナウイルスは、エンベロープと呼ばれる脂の膜で遺伝子が包まれた構造の「エンベロープウイルス」。エンベロープウイルスがアルコールに触れると、脂の膜が溶けて感染力が失われます

厚生労働省が2020年6月17日に発表した資料では、「30分ごとに1回、数分間窓を全開にする」という理想的な換気ができない場合は、換気不足を補うために空気清浄機が有効だとしています。しかも、空気清浄機の場合は「HEPAフィルタによるろ過式」、「風量が毎分5立方メートル程度以上」と、細かな指定があります。HEPAフィルターを簡単にいうと、通常状態で0.3μmの粒子を99.97%以上捕集できる性能を持つフィルターのことです。

  • 厚生労働省が発表した「熱中症予防に留意した『換気の悪い密閉空間』を改善するための換気の方法」についての内容

  • 今回のセミナーを開催したダイソンの空気清浄機も、HEPAフィルターを搭載。左が空気清浄ファンヒーター「Dyson Pure Hot + Cool」、左が加湿空気清浄機「Dyson Pure Humidify+Cool」。いずれも360°全方向から空気を取り込む、密閉性の高い360˚グラスHEPAフィルターを搭載しています

空気清浄機ってそもそも効くの? 実験結果を公開

「空気清浄機って本当に効くの?」と思ったことはないでしょうか。

製品情報を見ると「30分で99%以上の浮遊微粒子を捕集」などと説明していることもありますが、これらのほとんどは日本電機工業会(JEMA)が定めた性能測定基準に準拠した環境でのテスト結果。つまり、テスト用に作られた試験空間での結果なのです。

このため、人が実際に暮らす生活空間で、空気清浄機がどれくらい効果があるのかあまり知られていませんでした。牧村教授は、この実生活空間で空気清浄機の効果を調べる実験を行っています。

  • 実際の老人ホームを使用して「空気清浄機がある部屋」「換気扇がある部屋」「なにも置いていない部屋」という3つの環境を作り、各部屋の空気の状態を計測する実験

  • 実際の実験環境。人が寝起きしており、必要な家具も配置されているなど、実生活に近い環境です

結果はというと、以下のグラフが実験で得られたデータです。青い線が何もも置いていない部屋、オレンジが扇風機を置いた部屋、グレーが空気清浄機を置いた部屋。実験ではまず窓を開けて部屋を換気、窓を閉めたあとに扇風機と空気清浄機をそれぞれ30分だけ稼動。その後しばらくして窓を開けて換気します。

  • 3つの部屋で、浮遊微粒子(ホコリ)の濃度をグラフにしたもの。実験の前後で窓を開けて換気をしていますが、換気をするたびに部屋の空気が急激に汚れるというのはちょっと衝撃的でした

実験開始の時点では、どの部屋も浮遊微粒子(ホコリ)の量が1,000を超えた程度なのですが、窓を開けて換気すると、すべて部屋で微粒子が2,000以上に増えています。換気終了後は、何もない部屋と扇風機がある部屋では約1時間かけて浮遊微粒子が最初と同じ1000まで下がっていますが、空気清浄機を置いた部屋のみ、なんと200あたりまで粒子濃度が低下。超微小な0.5μmサイズの粒子は80%も減少したそうです。

加湿器がウイルス対策になる理由は?

セミナーでは、実験結果の生データも確認できました(下図)。左のグラフが扇風機を30分だけ稼動した部屋の浮遊微粒子量の変化。右のグラフは空気清浄機を30分だけ稼動した部屋の浮遊微粒子量の変化です。計測できる最も微細な0.5μmの粒子を青い線、1μmの粒子をオレンジ、2.5μmの粒子をグレーで表示しています。

グラフを見ると、小さな粒子のほうが多く空気中に残っているのがわかります。また、空気清浄機を使った場合は、より微細な粒子のほうが一気に清浄化されています。

  • 左が扇風機をを使った部屋の浮遊微粒子量のグラフ。右は空気清浄機を稼動した部屋の浮遊微粒子量のグラフです

もうひとつ見て取れるのは、粒子が大きくなるほど検出量が少ないこと。例えばこのグラフだと、5μm以上の粒子はほとんどグラフに現れていません。大きな粒子は床面に落下しやすいということです。

ちなみに、乾燥した環境では、ウイルスが空気に舞いやすくなります。ウイルスの大きさは数十~数百nm(ナノメートル)と微細なので、落下速度が遅く、空気中に長く漂いやすいのです。落下したウイルスも、人の移動などとともに再び舞い上がる可能性があります。そこで部屋の加湿が重要になってくるわけです。

(編注)
ウイルスの大きさは数十~数百nm(ナノメートル)、細菌の大きさは1μm(マイクロメートル)以上。1μm = 1,000nm。インフルエンザウイルスの大きさは0.1μm(100nm)とされています。

牧村教授によると、微細なウイルスは部屋の湿度を50%以上にすることで、水滴に吸着されて5μm以上の大きな粒子になるんだとか。すると、ウイルスが床に落ちるスピードが上がり、人間が吸い込みにくくなるわけです。湿度が高いと浮遊粒子が床に落ちやすいので、床を掃除機でしっかり掃除することが大切とも。合わせて、湿度を上げるとカビが発生しやすいので、その点も気をつけて欲しいとのことでした。

  • 水滴に吸着したウイルスなどの微細な浮遊粒子は、床への落下スピードが速くなります

  • セミナー会場に展示されていたダイソンのコードレスクリーナー「Dyson Digital Slim」シリーズ

新型コロナウイルス感染症が拡大する前から、「インフルエンザ対策に空気清浄機や加湿器を購入したい」といった話はよく聞きました。ただ、ウイルスは目に見えないモノだけに、これらの対策が本当に効くのか、どれくらい効いているのかというのは、説明や実感が難しいのが現実。今回のセミナーでは専門家による説明と実験データによって、空気清浄機が本当に効くと実感でき、とてもためになりました。

繰り返しますが、厚生労働省による指針では、空気清浄機は「HEPAフィルタによるろ過式」で「風量が毎分5立方メートル程度以上」のものが推奨されています。気になった人はぜひ一度、自宅の空気清浄機を調べてみてください。