2万人超が中国への売却不許可を大統領府に請願

中国資本が約1500億円でMagnaChip Semiconductorを買収しようという動きに際し、韓国大統領府(青瓦台)の国民請願掲示板には、「韓国の半導体技術流出防止のため、MagnaChipの中国資本への売却を許可しないでもらいたい」という請願文が投稿され、3月末までに2万人を超す国民からの賛同を得ていると複数の韓国メディアが報じている。

請願人は「中国は半導体崛起を前面に、国家レベルで数十兆ウォンを投じているが、MagnaChipの買収は有機ELドライバICと車載パワー半導体分野での中国の技術力向上につながるきっかけになり得る」とし、韓国内の半導体とディスプレイ産業、そして国家の競争力の弱体化につながると主張している。

一方、MagnaChipそのものは、事業や経営陣・従業員がそのまま引き継がれ、潤沢な運転資金も得られることから、あくまでも企業の売却を進めようとしている模様である。

MagnaChipは米国系ヘッジファンドに買収された後、2011年に資金確保を目的に米国で登記され、ニューヨーク証券取引所に上場されたが、社員約900人のほとんどが韓国人であり、亀尾に200mmウェハライン、設計および研究拠点も清州と、韓国内にあるため、韓国内からは韓国系企業としてみられている。

政府指定の革新技術があれば売却中止の可能性も

韓国政府は2021年1月、「産業技術の流出防止および保護に関する法律」に基づいて「国家核心技術指定などに関する告示」と「産業技術保護指針」を改正して、半導体など12分野71の先進技術を「国家核心技術」として指定。これにより、これらの国家核心技術を輸出したり、外国資本が国家核心技術を保有した企業を買収・合併(M&A)しようとする場合、韓国政府の許可を取らなくてはならなくなった。ただし、国家核心技術でなければ韓国政府は企業売却を阻止することができない。

MagnaChipの主力生産品である有機ELドライバICは、最先端技術を用いているわけではないとみられるため、中国系資本への売却に韓国政府の許可は必要ないとの見方もあるが、韓国政府通商産業資源部(日本の経済産業省に相当)は、多数の国民が中国資本へのMagnaChip売却に反対していることを受け、3月末までにMagnaChipに技術資料の提出を求め「政府指定革新技術」が含まれていないかの精査を始めたという。

かつて日本企業が、韓国系企業への技術や人材の流出を警戒した時期があった。現在は、中国が韓国のディスプレイ技術、そして半導体技術の獲得や人材のリクルートを推進しており、韓国系半導体企業が、中国への技術ならびに人材の流出を警戒するようになっている。韓国政府は、法律を強化することで、技術の国外への持ち出しを防ごうとしているが、国家革新技術を含まない企業買収などの合法的な技術流失に関しては歯止めがかけられないことから、今回のMagnaChipの売却に関して、韓国政府がどのような判断を下すか韓国の半導体業界関係者のみならず、一般人からも注目を集める事態となっている。