理化学研究所(理研)は4月1日付で、日本政府が策定した「量子技術イノベーション戦略」に基づき、「量子コンピュータ研究センター(RQC:RIKEN Center for Quantum Computing)」を開設したこと、ならびに富士通との間に、同センター内に「理研RQC-富士通連携センター」を開設したことを発表した。

RQCは理研の研究センターとしては13番目に設立されたもので、センター長にはNEC時代に超伝導量子ビット素子を開発したことで知られる中村泰信氏(理研RQC-富士通連携センター長を兼務)、副センター長には東京大学にて光量子コンピュータの研究開発を行ってきた古澤明氏、ならびにNECで量子コンピュータなどの研究に携わってきた萬伸一氏がそれぞれ就任している。

設立時点では10の研究チーム(うち1つは理研白眉研究チーム)と3の研究ユニット、そして富士通との連携センターで構成され、それぞれが個別のテーマに取り組みつつ、量子コンピュータの実現という1つのテーマに向かって一体化して研究を進めていく体制が構築されている。

  • RQC
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  • RQCの研究体制

こうした構成にしたことについて中村センター長は「量子コンピュータといっても、いろいろなアプローチがあるので、いくつかのアプローチを並行して進めて、シナジー的な効果を発揮することを期待していく」と、その意図を説明する。

さまざまな方式の量子コンピュータの可能性を模索

設立時点でのRQCの大きなテーマは超伝導量子コンピュータで、それと並行して古澤教授が進めてきた光量子コンピュータの研究や、半導体量子コンピュータの研究、理論研究なども進めていくとしており、RQCの外部、理研のほかの研究センターや理研の外部研究機関や企業などとの連携も進めていくとしている。

この最大のテーマとなっている超電導量子コンピュータについては、量子ビットチップを中心とするハードウェアの研究開発のほか、システムの制御に必要なミドルウェア、実際にさまざまな分野での利用に必要となるソフトウェアまで一気通貫での研究開発が掲げられている。すでに16量子ビットチップが完成しているほか、64量子ビットチップについても、現在、その性能評価などが進められており、今後、量子コンピュータシステムとしての構築を目指した取り組みが進められていく予定となっている。

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  • RQCでの研究の概要

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  • 量子コンピュータ実用化に向けた技術要素の概要

中村氏は、「超伝導量子コンピュータを実用化するためには、量子ビットの集積度を高めることと、個々の量子ビットの制御精度の向上の両方が必要になる。この20年の間、研究が進み、精度も0.999程度まで近づいてきており、誤り訂正のないNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum device:小~中規模の量子コンピュータ)が何に使えるか、という研究も進められている。しかし、この分野の研究者が期待しているのは誤り耐性量子計算であり、そこにたどり着くためには大きな道のりである、というのが世界の研究者の共通認識になっている。RQCとしても、そこに向けて進んでいく」と、将来的には1000量子ビットで誤り耐性量子計算を可能とする超伝導量子コンピュータの実現を目指すとする。

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  • 理研が開発した16量子ビットチップを顕微鏡で拡大したもの

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    16量子ビットチップの外観。左が表面、右が裏面

富士通の役割と狙い

他社に先駆け、いち早くRQC内に連携センターを設立することを決めた富士通だが、その連携センターのミッションは「量子コンピュータ実用化に向けた基盤技術の確立」であるという。

具体的には、1000量子ビット級の大規模化の実現に向けた安定的な量子ビット生産技術や配線・高密度実装技術の確立に向けたハードウェアの研究、ならびにアルゴリズムやエラー訂正機能の基礎理論構築などを含めたソフトウェア技術の開発を進めるほか、要素技術を組み合わせて作られる試作機を活用する形で、エンドユーザーを巻き込んでのアプリケーション開発を進めていくとする。

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  • 理研RQC-富士通連携センターのミッションと、取り組み内容のイメージ

設置期間は2021年4月1日~2025年3月31日までを予定しているが、会見に出席した富士通 執行役員常務の原祐貴氏は、「2025年3月末の時点でレビューを行い、結果が良好であれば、継続していきたい」とするほか、「開発された実機を活用して、科学技術の発展に向け、ほかの企業やエンドユーザーと協力して、持続可能な社会の実現に向けたアプリケーションの創出を目指す」としている。

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    RQCならびに連携センターの開設に関する会見での記念撮影に応じる(左から)富士通の原裕貴執行役員常務、理研の松本紘 理事長、理研RQC 中村泰信センター長

なお、RQCには、2020年1月に日本政府の統合イノベーション戦略推進会議が策定した「量子イノベーション戦略」に記載された8つの「量子技術イノベーション拠点」の中核拠点としての役割も担うことが期待されているという。

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  • 開発中の量子コンピュータの制御装置配線 (写真提供:理研)

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  • 希釈冷凍機の内部と希釈冷凍機の基盤 (写真提供:理研)

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  • 希釈冷凍機の基盤 (写真提供:理研)

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  • 組み立て途中の希釈冷凍機とその配線 (写真提供:理研)