東京医科歯科大学(TMDU)は2月18日、2020年秋以降から同大医学部附属病院に入院または通院歴のある新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、さまざまな海外系統株の感染事例が増大していることを確認したと発表した。また、海外系統株のひとつは「免疫逃避型変異(E484K変異)」を有していることがわかり、複数の市中感染事例が確認されたことも合わせて発表された。
同成果は、TMDU 大学院 医歯学総合研究科 ウイルス制御学分野の武内寛明講師・医学部附属病院病院長補佐、TMDU 難治疾患研究所ゲノム解析室の谷本幸介助教、TMDU リサーチコアセンターの田中ゆきえ助教、TMDUの木村彰方理事・副学長・統合研究機構長、TMDU 医学附属病院 感染制御部の貫井陽子部長ら研究チームによるもの。
2020年11月以降の第3波にさらされている日本において、同年12月下旬からは複数の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の海外系統株の増大が示唆されている。英国型変異株(B.1.1.7系統株)、南アフリカ型変異株(B.1.351系統株)およびブラジル型変異株(P.1系統株)の日本国内への流入により、死中流高架部の変遷に影響を及ぼす可能性が懸念されている。
そうした中、TMDU医学部附属病院では、2020年11月下旬から12月下旬までの検査で、海外からの流入が疑われる3種の英国系統株(B.1.1.4系統、B.1.1.166系統、B.1.1.220系統)の感染事例を確認したという。
さらに今回は、医学部附属病院に入院もしくは通院歴のある患者に由来する検体11例から、上述した英国系3系統とは異なる、海外系統株4系統(英国/スウェーデン系統株B.1.1.130系統、英国系統株B.1.1.64系統、米国系統株B.1.346系統、カナダ系統株B.1.316系統)の感染が確認されたともする。
また昨年末まで検出されていた日本系統株2系統(B.1.1.214、B.1.1.284)は感染事例が減少の一途をたどっていることも判明。さらに、今回確認された4系統の海外系統株のうちのひとつ、カナダ系統株B.1.316系統(カナダ、米国、ベルギーなどで多くの感染事例が確認されている)は、免疫逃避型変異(E484K変異)を有していることが確認された。当該株は3人の患者から確認され、3人とも海外渡航歴はなく、また相互の接触歴もないことがわかっている。
なお免疫逃避型変異(E484K変異)とは、COVID-19から回復した人の血清(SARS-CoV-2の感染を阻止する中和抗体が含まれている)の存在下でも、感染能力を保持するSARS-CoV-2に認められる変異のことだ。中和抗体の効果を減弱する可能性が懸念されている。
2020年末以降、TMDU医学部附属病院において複数の海外系統株の感染事例が確認され、また2020年3月および7月以降に確認されていた系統の異なる2種類の国内流行株が減少していることから、現在、国内流行株が海外系統株に遷移しつつある可能性が考えられるという。
また免疫逃避型変異(E484K変異)を有する海外系統株は、今回確認されたカナダ系統株B.1.316系統だけでなく、国立感染症研究所からも英国系統株の別系統であるB.1.1.4系統の感染事例が報告されている。これらの海外系統株は感染性の増大が懸念される変異は有していないということだが、引き続き強固な感染予防対策を継続すると同時に、市中感染株の推移をモニタリングし、ウイルスの流行の実態を把握することが重要としている。
なお、記事中のすべてのSARS-CoV-2の系統に関しては、世界共通の系統分類方法であるPangolin(COVID-19 Lineage Assigner Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak LINeages)による分類系統IDによる分類系統名である。