富士フイルムのAPS-Cミラーレス「X-S10」が好調なセールスを記録している。従来シリーズから操作性やホールド性を一新したことや、上位モデルのみの装備だったボディ内手ブレ補正機構を搭載したことが評価されたとみられる。

前回掲載した機能編「Xシリーズの伝統を破った操作性&装備の感触は」に続き、今回は画像編として同モデルの生成する画像を見ていくことにする。

  • 新しい操作系となり、使いやすくなったところの多い富士フイルムのミラーレス中級機「X-S10」。大手量販店での実売価格は、ボディ単体モデルが132,000円前後、「XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ」と「XC 50-230mm F4.5-6.3 OIS II」が付属するダブルズームレンズキットが165,000円前後(いずれも税込み)

フルサイズ機をも凌駕する描写を見せる

X-S10は、上位モデル「X-Pro3」「X-T4」と同じイメージセンサー「X-Trans CMOS 4センサー」を、同じく画像処理エンジンも「X-Processor 4」を採用する。当然ながら、フィルムシミュレーションが使えることなども含め、画質に対する期待は自然と高まる。そもそも、Xシリーズの絵づくりは凝ったものが多く、特にカラーの場合は適度な色乗りのよさとつややかさがあることから、プロからアマチュアまで広く支持されている。加えて、写りのよさで定評のあるXFレンズが、APS-Cサイズのイメージセンサーでありながらまったく隙を感じさせない写りをもたらしてくれるのが特徴だ。X-S10も例外ではなく、JPEGフォーマットで撮影した作例を見ても、そんな期待に寸分違うことなく応えるものである。階調再現性の高さはいうに及ばず、フィルム時代から写真を知り尽くした同社ならではの隙のない写りといっても過言ではない。

そのことが分かりやすい部分のひとつがハイライト部。再現性は高く、色のねじれやトーンジャンプは見受けられない。もちろん、階調再現域を超える部分は白トビが発生するのだが、そこに至るまでが実にナチュラル。無理やり階調を出そうとして違和感ある写りとなるカメラとはまったく異なるといってよい。実に巧みだ。同じような画素数を持つフルサイズカメラの写りと比べてしまうと、本来ならAPS-Cサイズのイメージセンサーはダイナミックレンジの限界点や高感度ノイズなど芳しくないことがあるが、X-S10の写りはそのことを微塵も感じさせない。私が知るあるプロ写真家は、Xシリーズのカメラを使うときはJPEGで勝負する(撮影する)強者がいるが、カメラこそ違えどもその考えに納得できるものである。

高感度域での写りについては、常用感度で見た場合、以前よりカラーノイズおよび輝度ノイズとも発生が抑えられており、被写体にもよるがISO3200までなら気にならないレベル。色のにじみやねじれといったものは、常用感度内であれば皆無と述べてよいだろう。以前のXシリーズのミラーレスは、高感度にはさほど強くない印象であったが、本モデルの生成した画像に限っていえば、そのイメージはもう当てはまらない。なお、高感度ノイズリダクションの効果はデフォルトで撮影したが、解像感の極端な低下なく十分実用と言えるレベルである。ちなみに設定可能感度は、常用ISO160からISO12800まで、拡張でISO80相当からISO51200相当まで可能としている。

  • ISO50

  • ISO160

  • ISO200

  • ISO400

  • ISO800

  • ISO1600

  • ISO3200

  • ISO6400

  • ISO12800

  • ISO25600

  • ISO51200

  • 拡張であるISO50相当から同じくISO51200相当まで撮影。X-S10のベース感度はISO160だ。本文でも触れているように、ISO3200までならノイズの発生はよく抑えられており、画質にこだわる撮影でも問題になるようなことはないだろう。また常用の最高感度であるISO12800までなら解像感の極端な低下や色のにじみの発生も少なく感じる

フィルムシミュレーションは既存モデルと同じ

仕上がり設定であるフィルムシミュレーションについては、新しいものの追加は今回なかった。作例の撮影でいくつかトライアルしてみたが、それぞれの名称となった銀塩フィルムの特徴をよく再現している。X-S10では、トップカバーの左肩にあるファンクションダイヤルで直感的に素速くフィルムシミュレーションの選択が可能となったので、ぜひ積極的に活用してほしい。また、粒状感を画像に施す「グレイン・エフェクト」もこれまでどおり搭載されているので、よりフィルムライクな仕上がりが欲しければ、こちらも試してみるとよいだろう。

なお、今回の作例では、Xマウント対応のトキナーの最新レンズ「atx-m 23mm F1.4 X」(実売価格は税込み60,000円前後)および「atx-m 33mm F1.4 X」(実売価格は税込み53,000円前後)で撮影したものも掲載している。わずかなカットとなるが、「X-S10」との写りや相性を見てもらえればと思う。

  • 今回の作例撮影では、純正の標準ズーム「XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ」のほかに、トキナーの「atx-m 23mm F1.4 X」および「atx-m 33mm F1.4 X」でも試してみた。数少ないAF対応のサードパーティ製Xマウントレンズとして注目される

個人的な印象として、富士フイルムのカメラはコストパフォーマスが極めてよいと思っている。繰り返しとなるが、適度な色乗りとつややかさのある仕上がりをはじめとするフィルムシミュレーション、ダイヤル操作を多用した使いやすい操作性、クラスに関わらず写りがよくコストパフォーマンスの高い交換レンズ群、そしてAPS-Cサイズのイメージセンサーを採用したことで実現したコンパクトで軽量なカメラボディなど、ユーザーに寄り添ったところが実に多いからである。X-S10も例外ではなく、私自身、経済的に余裕があれば今すぐにでも馴染みのカメラ店に駆け込みたいほどである。ビギナーはもちろんであるが、富士フイルムのカメラでこれから写真を楽しんでみようと考える他のカメラメーカーユーザーや、ベテランのXシリーズユーザーのサブカメラとしても、きっとよい働きをしてくれることだろう。

  • ハイライト部もシャドー部もよく粘っており、白トビや黒ツブレは最小限に抑えている。レンズの写りのよさもあり、解像感も極めて高くキレのよい画像が得られた(XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ使用、F5.6、1/1500秒、ISO160、WBオート、PROVIA)

  • 明暗比の高い被写体をあえて選んでみた。当然暗部がツブレてしまっているところはあるものの、全体によく粘っているほうといえるだろう。質感描写もなかなか(XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ使用、F8.0、1/200秒、ISO160、WBオート、PROVIA)

  • EVFの解像度は特別高い方ではないが、微妙にアウトフォーカスとなったところもレンズ拡大表示を使用しなくても把握しやすく感じる。レンズの要因も大きいが、立体感ある写りだ(トキナーatx-m 33mm F1.4 X使用、F2.0、1/3000秒、ISO160、WBオート、PROVIA)

  • カメラを両手で高く掲げ、ライビューで撮影した。バリアングルモニターは、液晶モニターを上下させたい場合は光軸から離れるため、水平の調整がしにくく感じることがある(XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ、F8.0、1/640秒、ISO160、WBオート、Velvia)

  • こちらもバリアングルモニターを活用したハイアングル撮影。比較的速いシャッターで撮影しているが、手ブレ補正機構が備わっているのでブレに対する安心感は高かった(トキナーatx-m 33mm F1.4 X使用、F1.4、1/1250秒、ISO160、WBオート、Velvia)

  • フィルムシミュレーションは「Velvia」を選択。色のりが極めてよく、絵的につややかな印象である。フィルムのベルビアで撮影したら、果たしてこんな印象の写真となるか試してみたいところ(XC 50-230mm F4.5-6.3 OIS II使用、F8.0、1/640秒、ISO160、WBオート、Velvia)

  • フィルムのベルビアの売り文句のひとつが「極彩色」であったが、まさにそのとおりの原色の映える絵づくり。空の青色、建物の一部に塗られている赤色が引き立つ(XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ使用、F3.5、1/250秒、ISO160、WBオート、Velvia)

  • 鳥居にかけられたしめ縄にカメラを向けてみた。解像感の高さなどから、質感描写の高い写りが得られた。「X-Trans CMOS 4センサー」はローパスフィルターレスとしていることが大きい(XC 50-230mm F4.5-6.3 OIS II使用、F5.4、1/950秒、ISO160、WBオート、PROVIA)

  • 逆光での撮影。露出補正をせずにストレートに撮影したが、上々の結果だ。ハイライトの白トビもよく抑えられている。AFは一般に逆光に弱いとされるが、問題なく合焦した(XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ使用、F5.6、1/250秒、ISO160、WBオート、PROVIA)

  • バリアングルモニターを引き出し、ローアングルで撮影。そのような姿勢でも右手親指による露出補正ダイヤルの操作は快適で、速やかに思ったような画像の濃度で撮影が楽しめる(XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ使用、F5.6、1/20秒、ISO400、WBオート、PROVIA)

  • フォーカスレバーの使いやすさは他のXシリーズと同様で、思った位置に素早くフォーカスエリアを移動できる。欲をいえば、指に当たる部分がもう少し大きいといいのだが(トキナーatx-m 23mm F1.4 X使用、F2.5、1/420秒、ISO160、WBオート、Velvia)

  • レンズの光学解像度の高さも加わり、いわゆる"キレッキレ"の写りである。つややかで印象的な絵づくりだが、決して飽和するほど派手でないのが「PROVIA」の特徴だ(トキナーatx-m 23mm F1.4 X、F8.0、1/180秒、ISO160、WBオート、PROVIA)

  • 手持ちでの撮影。フルサイズ判換算257mm相当(実焦点距離171mm)でシャッター速度1/17秒であるが、手ブレをよく抑えている。感度はISO12800。ノイズはやや目立つ(XC 50-230mm F4.5-6.3 OIS II使用、F6.4、1/17秒、ISO12800、WBオート、PROVIA)

  • 粒状感を画像に施すグレイン・エフェクトは、よりフィルムライクな仕上がりが得られる。フィルムシミュレーションの「ACROS」との相性もよく、まんまモノクロフィルムで撮影したかのよう(XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ使用、F4.2、1/30秒、ISO2500、WBオート、ACROS)