「Xシリーズのミドルレンジモデルは新しいフェーズに入った」――今回のレビューで富士フイルムの「X-S10」を手にする度にそう思う。ちなみに、ここでいうミドルレンジとは「X-T30」「X-E3」などが存在するクラスのこと。操作部材の仕様と操作性が従来のそれらとは異なっているのである。

  • 操作部材などが大きく変わり、Xシリーズミラーレスの今後を占うミドルレンジモデルに仕上げられた「X-S10」。大手量販店での実売価格は、ボディ単体モデルが132,000円、「XC 15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ」と「XC 50-230mm F4.5-6.3 OIS II」が付属するダブルズームレンズキットが165,000円(いずれも税込み)

Xシリーズ伝統の操作系を一新したX-S10

これまでのXシリーズは、トップカバーの右肩にシャッターダイヤルと露出補正ダイヤルが鎮座し、設定状態が直視できるようそれぞれのダイヤルにはシャッター速度と補正量が刻まれていた。しかしながら、X-S10ではシャッターダイヤルは廃止され、露出補正ダイヤルの役割はリアコマンドダイヤルが担う。一般に、撮影モードは絞り優先AEを用いる比率が多いと聞くので、現実的にはシャッターダイヤルは不要に思えるし、露出補正ダイヤルについてはカメラを覗きながら操作することの多いミラーレスの場合、その目盛りはなくてもよい。何より、シャッター速度も露出の補正量もファインダーなりライブビューに表示されるので、不要だと言えば不要なのである。シャッターダイヤルと露出補正ダイヤルの廃止は、アナログ表示の好きな写真愛好家にとって残念に思うところだが、ある意味現実に即した実用性を重視する判断だといえるだろう。

  • イメージセンサーはAPS-Cサイズの有効2600万画素X-Trans CMOS 4センサーを採用。このイメージセンサーは「X-Pro3」や「X-T4」と同じものである。ボディ前面にはFnボタンなどが配置されず、すっきりした印象だ

  • 背面は「X-E3」などと同様に十字キーはなく、こちらもすっきりとした印象。液晶モニターの背面は合皮が貼られる。ボタンは小さく、手袋をした状態での操作は難しいことがありそうだ

  • センサーシフト方式の手ブレ補正機構を内蔵しているが、ボディの厚みは「X-T30」などとさほど変わらない。ただし、グリップの張り出しは大きく、手の大きなユーザーもしっかりホールドできそう

シャッターダイヤルのあった部分には、撮影モードを選択するモードダイヤルが備わる。トップカバー左肩には、デフォルトではフィルムシミュレーションの機能が割り当てられているファンクションダイヤルが置かれる。同ダイヤルは回転させるだけで設定状態の確認と設定が可能で、快適な操作が楽しめる。

  • 手前のダイヤルはリアコマンドダイヤル。ボディからダイヤル側面の一部しか出ておらず、プッシュ機能も備えていた従来に比べ操作感は格段に向上した。デフォルトでは露出補正の機能が割り当てられる。ISOボタンおよびQボタンもトップカバーに配置

  • ファンクションダイヤルをトップカバーの左肩に配置する。デフォルトでフィルムシミュレーションが割り当てられているが、少しダイヤルを回転させると画面に同機能の設定画面を表示し、さらに回転させるとシミュレーションが設定できる

フロントコマンドダイヤルおよびリアコマンドダイヤルのプッシュ機能を廃止したことも注目したい部分。私は、これまで幾度かレビューなどで指摘したことがあるのだが、両ダイヤルともプッシュ機能を搭載したがためにダイヤル操作の際、剛性感に欠ける部分があったのである。特に、リアダイヤルについてはボディからダイヤル側面がわずかに出たものとしていたため、より一層使いづらく、とても好ましいとは言い難い操作感であった。プッシュ機能がなくなったX-S10では、どちらの操作も確実に行うことが可能で、特にトップカバーに置かれたリアコマンドダイヤルの操作感は一新され、きわめて使いやすくなったと述べてよい。

操作性で大きく意見が分かれそうなのが、搭載の見送られたフォーカスモード切替レバーと、バリアングル液晶モニターの採用だ。

X-S10では、フォーカスモードの切り替えはメニューの設定項目のひとつとなった。これまでフォーカスモードの切り替えはカメラ正面右側にあるレバーによって臨機応変、直感的で素早く行えていただけに、私個人としては省略はきわめて残念に思えてならない。「X-T4」をはじめとする“X-T一桁シリーズ”は露出補正ダイヤルが何らかの拍子に動いてしまうことがあるので、あえて操作しづらい位置に配置したと摩訶不思議な話を同社の開発担当者から以前聞いたことがあるが、今回のフォーカスモード切替レバーの省略もそのような理由であれば誠に残念だ。

  • フォーカスモード切替レバーは廃止され、同モードの設定はメニューで行うようになった。スナップや取材などの撮影では、被写体の状況に応じてすぐに対応でき重宝していただけに、このレバーの廃止は本当に残念

  • フォーカス設定メニューのなかに移ったフォーカスモード切替メニュー。物理的な操作の切替レバーと異なり、直感的に速やかに切り替えることはできない。X-S10の数少ない残念な部分のひとつ

バリアングルモニターは、動画撮影を楽しむユーザーや自撮りの多いVloggerのようなユーザーにはウエルカムだろう。ミラーレス全般の流れでも、チルト式よりもバリアングル式が次第に勢力を伸ばしつつあるので、その流れに乗ったものといえる。ただし、静止画メインのユーザーのなかには、液晶モニターの向きを上下させたいときなど、光軸から大きくディスプレイの中心位置が離れてしまうため使いにくく思うこともありそうだ。液晶モニターは3インチ104万ドットとなる。

  • バリアングルタイプとする液晶モニター。自撮りや動画撮影では重宝するはずだ。液晶モニターは3インチ、104万ドット。メニューの表示は他のXシリーズと同様

シャッターボタンなどの操作感については、私の知る限り「X-T30」や「X-E3」とは大きく変わらない。シャッター音は若干甲高い感じである。EVFでの実像とのタイムラグはこのクラスとしてはきわめて小さく、激しく動きまわる被写体のようなものでない限り、不足を感じることはなさそうだ。

  • ストロボを搭載する。想定されるユーザー層を考えると、ストロボのカメラ本体内蔵はマストだろう。ガイドナンバーは7(ISO200・m)

  • インターフェースはUSB-CおよびHDMI(Mini)といたってシンプル。 USB経由での充電も可能としている。上のゴムカバーはマイク端子用

  • カードスロットはバッテリーボックスの中に設置。ボディ側面に独立して設置してほしいところだが、その大きさから難しかったのだろう。バッテリーは「X-T30」や「X-E3」などと同じ「NP-W126S」を使用

  • 背面に十字キーはなく、フォーカスレバーでメニューの設定や再生画像の送りなども行う。慣れると思いのほか便利に思えるはずだ。これまでXシリーズミラーレスでは定番であったストラップ取り付け部の合革製カバーは付属しない

上位モデルのみの装備だったボディ内手ぶれ補正機構を搭載

操作感とは直接的な関係はないが、センサーシフト方式の手ブレ補正機構の搭載もX-S10の注目点のひとつ。これまで「X-H1」や「X-T4」などの上位モデルには搭載されていたが、このクラスとしては初めての搭載となる。コンパクトに仕上がったボディによく収まったと感心させられる。角度ブレ/シフト/回転ブレの5軸補正に対応し、補正段数は最大6段。Xシリーズ用の交換レンズは、魅力的な単焦点レンズが多くラインナップされているが、そのほとんどがレンズシフト方式の手ブレ補正機構を非搭載とするため、X-S10のボディ内蔵の手ブレ補正機構の搭載は実にありがたく思えるし、何より撮影の可能性が格段に広がる。露出的に無茶な条件の撮影もためらうことなくシャッターボタンを押すことができるのである。もちろん、マウントアダプターを介してオールドレンズを使った撮影などの際は、焦点距離を入力することで手ブレ補正機構は対応する。

  • 手ブレ補正機構の作動状態を設定するメニュー。「動き認識」は、動くものを認識するとシャッター速度を調整し、被写体ブレを抑える機能である。三脚使用時に関しては、手ブレ補正機構は「OFF」を推奨

  • マウントアダプターなどを使用したときに手ブレ補正を正しく機能させるための焦点距離設定画面。あらかじめ焦点距離がセットされているプリセットのほか、任意で焦点距離を設定することもできる。レンズ名を入れることも可能

キーデバイスに関しては、操作部材などと異なりほかのモデルとの違いはない。イメージセンサーおよび画像処理エンジンは「X-Pro3」や「X-T4」と同じ有効2610万画素「X-Trans CMOS 4センサー」と「X-Processor 4」となる。センサーサイズはいうまでもなくAPS-Cだ。もともと富士フイルムのXシリーズは、トップエンドとミドルレンジのキーデバイスは共通としてきた経緯があり、本モデルも例外ではない。フィルムシミュレーションによる絵づくりなどに関していえば、トップエンドモデルと何ら変わらないので、ある意味コスパは高いと考えてよい。もちろん、フィルムシミュレーションによる豊かな階調と多彩な仕上がりはライバルを凌ぐもので、Xシリーズのみならず同社デジタルカメラのアイデンティティと述べてよいものである。設定ISO感度は常用でISO160~12800、拡張でISO80相当からISO51200相当までを可能としている。AFも上位モデルと同等の性能としており、こちらも通常使うにはAFスピードなど至らない部分はない。

EVFは0.39型236万ドット。上位モデルの採用する0.5型369万ドットにくらべ数字的には劣るものの、実際使用した印象としては特別不足を感じるようなことはない。カメラとして本格的な作りだなと思わせるのが、フレームレートを上げより滑らかな動きの表示とする機能を備えていること。バッテリーの持続時間は低下するものの、動いている被写体の撮影などではシャッターチャンスを見逃すようなことがノーマル状態よりも少なくなるはずだ。

  • セットアップメニューの「消費電力設定」にある「パフォーマンス」から「ブースト」を選択すると、写真の「ブースト設定」が対応可能となる。なかでも「フレームレート優先」は動体撮影時に有利な滑らかな表示を行う

  • 撮影画面を約1.25倍クロップし、表示された枠内を撮影するモード。その名のとおり動く被写体の撮影に適する。ブースト設定でEVFのフレームレート優先を選ぶと、より動く被写体の撮影に適したカメラに仕上がる

Xシリーズ定番の仕上がり設定機能フィルムシミュレーションや、より印象的な仕上がりの得られるフィルター機能、4K/30Pでの撮影が可能な動画機能なども搭載され、満足度の高いカメラに仕上がっている。ビギナーが購入して腕が上がってきても、さらにベテランユーザーのサブ機としてもオールマイティに活躍する1台だ。