日本の5G元年となった2020年、その第一弾対応モデルとしてドコモが3月に発表したスマートフォンは、いずれもハイエンドモデルでした。一方au、ソフトバンクは、OPPO、シャオミ、ZTEなど、グローバルで先行する中国メーカーのミドルレンジモデルをラインナップ。同年9月にはauが「みんなの5G」を掲げ、「今後発売するスマートフォンは全機種5G対応」と宣言しました

  • 2020年9月、auは今後発売するスマートフォンはすべて5Gに対応すると宣言した

また10月には全モデル5G対応の「iPhone 12」シリーズが登場。11月にドコモから発表された2020-21年冬春ラインナップでは、一気に4機種の5Gスタンダードモデル(ミドルレンジモデル)が投入されました

5Gの普及にあわせ、5Gスマホの選択肢も豊富に

2020年に発表された、大手3キャリアの端末ラインナップから読み取れるのは、5Gスマートフォンが抱える悩ましい矛盾です。

高速・大容量の5Gを体感してもらうには、高精細な大画面ディスプレイや高音質なスピーカーを搭載し、高画質な写真や映像を余すところなく楽しめるカメラを備えた、ハイエンドスマートフォンであるに越したことはありません。しかし、5Gを普及させるためには、より多くの人に乗り換えてもらいやすい端末を用意する必要があります。

  • ドコモは2020-21年冬春新製品として、5G対応ミドルレンジスマホ4機種(右4つの端末)を含めた新製品群を発表。ハイエンドモデルは「Galaxy Note20 Ultra 5G SC-53A」(写真最左の端末)と「Xperia 5 II SO-52A」(写真左から2番目の端末)の2機種だが、いずれも最新機能を備えた高い性能を備える反面、10万円前後の高価格となっている

いよいよ5Gも普及期へと突入する2021年、5Gスマートフォンはこのままミドルレンジ中心のラインナップへとシフトしていくのか、だとすればどう選ぶべきか。その答えを探るべく、ドコモ、au、ソフトバンクの各端末担当者に、5Gミドルレンジスマホ増加の背景や、その評価、差別化について聞きました。

高性能スマホが売りにくい状況になっている

ミドルレンジスマホのラインナップが拡充されている背景には、2019年10月に施行された改正電気通信事業法によって、ハイエンドスマートフォンが売りにくくなっているという背景もあります。

「分離プランで原則割引なしによる販売が基本となり、価格帯・機能面といった点で、よりお客様が求めているニーズにマッチした商品をラインナップしていく必要がある」とは、ドコモ担当者のコメント。分離プラン導入とあわせて端末への大幅な割引が規制されたことは、5Gスマートフォン、特にハイエンドモデルにとっては向かい風と言わざるを得ません。

普及スマホ向け5Gチップセットが拡充

逆にミドルレンジスマホにとって追い風となっているのが、ミドルレンジ向けの5Gチップセットの充実です。auの担当者も「5G対応チップのバリエーションが増えたことによって、5Gスマホのラインナップの価格幅を広げ、お客様が選べる選択肢を増やした」とコメントしています。

チップセットメーカーのQualcommは、9月に5G向けSnapdragonシリーズのポートフォリオを発表。すでにリリースされているハイエンド向けの8シリーズ、ミドル向けの7シリーズ、6シリーズに加え、エントリー向けの4シリーズを追加しました。このことは2021年以降、さらに安価なエントリーモデルの5Gスマートフォンが登場する可能性を示唆しています。

  • エントリー向けのSnapdragon 4シリーズが5Gに対応。搭載デバイスは2021年第1四半期に発売される見込み

機能は十分、幅広いユーザーに支持される

また、スマートフォンに搭載されているさまざまな技術がこなれてきた結果、ハイエンドでなくても十分に満足できるようになってきていることも、ミドルレンジモデルの増加を後押ししています。

ソフトバンクの担当者は、「エントリーやミドルレンジ機種の取り扱いが増加傾向にあるのは、各パートナー様の努力やテクノロジーの進化が、より低廉なスペックや価格帯でお客さまのニーズにあった使い方を提案できるようになったから」とコメントしています。

実際に発売中のミドルレンジスマートフォンは、幅広いユーザーに支持されているようです。「スタンダードモデルのスマートフォンは性別、年齢ともに幅広く好評いただいている」(ドコモ)。「5G開始時と比較して、ミドルレンジの5G対応スマートフォンは、幅広い年齢層にお買い求めいただけている」(au)と、5Gの普及に向けて貢献していることがわかります。

「必要な機能を吟味し、お客さまがスマホでどのような使い方をされたいのか、価格とのバランスがとれた機種が受け入れられている」(ソフトバンク)というミドルレンジモデルですが、一方でハイエンドモデルに比べると機能での明確な差別化は難しく、価格勝負にならざるを得ない面もありそうです。

メーカー間の競争では、グローバル市場に向けて大量生産が可能な海外メーカー、特にエントリーモデルにも積極的な中国メーカーに対して、国内メーカーがどう対抗していくのかにも注目したいところ。一方でキャリア間で取り扱う端末の差別化がどうなるのかも気になる点です。

キャリア間でどう差別化していくのか?

他キャリアとどう差別化するのかという質問に対し、ソフトバンクではGoogle純正の5Gスマホ「Google Pixel 4a(5G)」、「Google Pixel 4a」を国内の通信事業者で唯一取り扱っていることをアピール。「スマホ本体だけでなく、料金プラン、サポートやコンテンツを活用した新たなライフスタイルの提案をし、総合力でお客さまからの支持をいただけるのではないかと考えている」とコメントしました。

  • 「Google Pixel 4a(5G)」と「Google Pixel 5」は、国内キャリアではソフトバンクのみが取り扱う

またauは「ミドルレンジでも価格以上の体験が可能なスペック性にこだわっていく」とのこと。ドコモではスマートフォンを振るだけで、QRコード決済など特定のアプリが起動できる「スグアプ」など、独自機能でも差別化をはかっていくほか、「Xperia 5 II」「AQUOS sense 4」「AQUOS sense 5G」の3機種に、計7色のドコモオンラインショップ限定カラーを展開。これは付加価値での差別化と言えるでしょう。

2021年はどこからどんなスマートフォンが発売されるかだけでなく、各キャリアが価格以外にどのような付加価値で勝負していくのかも注目したいポイント。独自ブランドのスマートフォンを打ち出している楽天モバイルの動向も含めて、5G普及に向けたミドルレンジモデルの戦いがますます熱くなりそうです。